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命を紡いで愛を紡ぐ…永遠に
愛の鎮魂
しおりを挟むジュニアールとセシレーヌの想いが繋がってから2ヵ月の月日が過ぎた。
季節は冬になり、厚手のコートが必要なくらいになった。
あれからセシレーヌは、南グリーンピアト行きを断り外来勤務へと移動した。
クラウドルは「やっぱり、そうなっちゃったんだね」と、ちょっとちゃかすように言ったが、セシレーヌが自分の幸せの為に意識を向けてくれた事が嬉しくせっかくの話だが将来王妃になる方がよっぱどいいだろうと言ってくれた。
まだジュニアールとの交際は公にされていない。
病院で騒がれるのも嫌だと言って、マスクは外さないまま仕事をしているセシレーヌ。
しかし最近では
「あれ? 先生、何だか綺麗になったんじゃない? 」
「眼帯してないんですね? 」
「右手、綺麗になっていますね? 火傷の跡、消えたのですか? 」
「マスク大きすぎませんか? もう少し小さくてもいいかもしれませんよ」
などと、看護師達に言われたり。
「セシレーヌ先生、何だか綺麗になりましたね? 」
「恋でもしているのですか? 」
「前に比べて、随分と優しくなりましたね」
「言葉使いも、すごく丁寧になったってみんな言っていますよ」
などと、周りが随分と優しくなってきた。
セシレーヌ自身は、以前と変わらないまま接しているつもりだが火傷の跡と言う重たい鎧が外れたことで気持ちも変わったのかもしれない。
外来の患者にも評判が良く、とても楽しく仕事をしているセシレーヌ。
しかし、年内いっぱいで病院を辞める事になっている。
その理由は…のちに明かされる。
ジュニアールの方は。
公務が忙しくなった事と、たまっていた書類を片付ける事に追われていたが、両親にセシレーヌを紹介して新しい妃として迎えると話をした。
ずっと10年の間、一人で頑張って来たジュニアールをとても心配していた両親。
今はお城を離れ別荘に住んでいるが、一人で国を治めるのは大変であり、ミディスもまだ小さい事から再婚して欲しいと望んでいた。
やっと前向きになってくれたジュニアールを見て、とても安心していた。
セシレーヌを紹介され、どこかメイシスと似ている感じがあると思った両親だが、沢山の苦労を乗り越えてきたセシレーヌだからこそ一国を治める国王であるジュニアールを支えて行けると思った。
2人の結婚に何も言うことはない、幸せになりなさいと快く承諾してくれた。
ミディスは、念願のセシレーヌが新しいお母さんになってくれる事になり大喜びで、お城にセシレーヌがやってくると片時も離れる事がなくずっと傍にいたくらいだった。
セシレーヌに「お姉ちゃん」と呼んで、まるで姉妹の様な感覚である。
ジュニアールと結婚してもずっと「お姉ちゃん」と呼び続けると言っているミディス。
無理に親子になる事はない、姉妹でも構わないとジュニアールは言っている。
外来勤務を終えて、セシレーヌはカルテ整理をしていた。
「セシレーヌ」
クラウドルがやって来た。
「どうだ? 外来は」
「はい、決まった時刻に帰ることが出来るのでとても楽に思えます」
「そうか、体にも負担はなさそうだな」
「はい、おかげさまで」
クラウドルは空いている席にそっと座った。
周りに誰もいない事を確認すると、フッと小さく笑いを浮かべた。
「なんだか寂しくなるな、、お前がいなくなると」
「そうですか? 嫌な奴がいなくなって、清々するんじゃないですか? 」
「はぁ? なんてこと言うんだ? 」
カルテを整理する手を止めて、セシレーヌはクラウドルを見た。
「…院長が、もうずっと前ですが。私の事を「気持ち悪い」って他の医師達と言っていたのを聞いていますから」
ちょっと怒った目をしてクラウドルを見たセシレーヌ。
「あ、ああ…確かにそんな事を言った事もあったな。…すまん…」
「別に謝らなくていいですよ、あんな顔でしたから言われて当然だと思っていましたから」
「いや、そうじゃないんだ。…お前に優しくしていたら、他の医師達にからかわれたんだ。お前に気があるんじゃないかって。…図星を指されて…ごまかしただけなんだ、あの言葉は」
はぁ? ごまかした?
よく判らないような顔をして、セシレーヌはクラウドルを見ていた。
クラウドルは、ちょっと照れたような目をしていた。
「研修医として、お前がこの病院に来た時から。…ずっと気になっていたんだよ。…何となく惹かれていたし、いつの間にか好きになっていたのは事実だ」
「嘘…そんなこと、ありえないし…」
「お前さぁ、自分の魅力にぜんぜん気づいていないだろう? 火傷の跡があって、顔を隠していても。お前が悪態ついても、みーんなお前の事を気にしていたんだぜ」
「なに言っているの? そんな事ないから」
「本当だぞ。考えてみろよ、本当に興味が無い人に対しては。人は無関心になるんだぞ。関心を示すって事は、少なからずともお前に興味があるって事だ」
「…そんな…。結構傷ついたんだけど、私…」
「ああ、悪かったな。本当に…」
「もういいです。…悪気はなかったって、分かったので。それを知って、安心しました」
ホッとしたクラウドルは、一息ついた。
「あの火事からもう25年以上だよな。連続放火魔の被害で、火事に巻き込まれて、君のお父さんは、君とお母さんを必死に助けて亡くなった。お母さんも、肩や足に大やけどを負って、君は右手と顔にやけどを負った。それでも、自分の夢をかなえる為にここまでやって来たんだ。あの移植は、運命だったんだろうな」
「時々、笑顔の王妃様が見える時があったんです。母が亡くなった時も、そっと見守ってくれる王妃様が見えて。国王様と初めて会った時は、分からないけど、胸が熱くなったのを覚えています」
「心臓は、感情を司る臓器とも言われいる。だから、王妃様の気持ちが伝わって来たのかもしれないな」
「本当に奇跡です。王妃様から心臓をもらわなかったら、今の私はいなかった。きっと、火傷の跡を負ったまま、後悔してこの世を去っていたと思います」
「苦労した分、幸せになれよ。君の中には「奇跡の心臓」があるんだからさ」
「はい」
奇跡の心臓。
確かにそうだろう、心臓移植をするにしても適合しなければ移植はできない。
絶妙なタイミングで移植が出来る事なんて、めったにあるものではないのは確かである。
移植を行っても長生きできない事もある。
10年経過して、すっかり元気になっている事も奇跡なのかもしれない。
数日後。
晴天の空の元、セシレーヌとジュニアールは王家のお墓にやって来た。
ずっとセシレーヌは、メイシスから心臓をもらって命日前後には必ず王家のお墓にお参りに来ていた。
いつもメイシスに申し訳ないと謝るばかりで…。
それでもメイシスの笑っている顔が見えていた。
今日はジュニアールとの結婚が正式に決まりお礼を言いに来たのだ。
メイシスの十字架の前で手を合わせるセシレーヌとジュニアール。
「一緒に、メイシスの魂を鎮魂して頂けますか? 」
「え? 」
「メイシスがそう願っています。貴女は貴女の人生を歩いてほしいと、願っていますから」
「…私が魔女でも、赦してくれるのかな? 」
「もちろんですよ。もう、魔力で自分を護る事も必要ありませんとメイシスは言っています。ここで、メイシスの魂を鎮魂して、貴女の魔力も封印してゆきませんか? 」
「…それはいいけど。封印出来るのかな? 自分では、コントロールできない時もあるのに」
「大丈夫ですよ。貴女がそう決めれば、もう魔力は必要ありませんから」
ジュニアールはそっと、セシレーヌの手をとって微笑んだ。
セシレーヌもジュニアールを見つめて、そっと微笑んだ。
穏やかで優しいエネルギーが王家のお墓を包み込んで行く…。
フンワリと優しいエネルギーがスーっと天に上ってゆくのが見える…。
まるで「有難う」と言っているかのように、スーッと消えて行った。
「良かったです。メイシスも、とても喜んでいます。これでやっと、次のステージに行けます」
「また、次に生まれ変わって素敵な恋をしてほしい」
「そうですね」
「あの…ちょっと、話さなくてはならない事があるの…」
「え? なんですか? 」
「実は…」
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