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第二章 コリー・マールド【1】
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二人が目を向けると、そこには黒い帽子に白い蝶ネクタイ、燕尾服に縦縞のズボンといういかにも貴族な感じの服装をした、金髪碧眼のひょろっとした青年が立っていた。
「あー、悪いけど今日店休み……」
しかしジャンの言葉を遮って少年が、
「助けてください!」
その表情はとても切羽詰まったものだった。
そんな彼に、ジャンは冷ややかな眼差しで、
「っていうか、誰あんた」
それに青年はうっと怯んだ。
「ぼ、僕はキャトルのボーイフレンドのティム・マリカドルです」
「ふーん? で、その彼氏さんがなんの用? 大体、肝心の彼女は?」
「だから助けてくれって言ってるじゃないですか! キャトルがブイオとかいう男に連れ去られたんです!」
「は?」
「それって」
二人の間に戦慄が走る。
「その男はいきなり僕たちに絡んできて、金をよこせと言ってきたんです。それを拒んだら、連れていたキャトルを連れ去っていってしまったんです。返してほしかったら百万リアン持って、町外れの遺跡に来いって言い残して」
ティムは唇をかむと、さらに捲し立てるように、
「だからお願いします! キャトルを助けてください」
「えー」
ジャンは困ったように頭をかいた。
「ってかそもそもあんた彼氏なんだろ? なんで逃げてきてんの。普通、そういうときは彼氏がかっこいいとこ見せて、好感度を上げるもんじゃん?」
「それは……」
「それに、あんたの頼みを聞いたところで、俺になんかメリットはあるわけ?」
「う……」
「悪いけど俺、見返りのない仕事はしないんで」
「そ、そんな……」
ティムががっくりとうなだれる。
それを横で黙って聞いていたコリーが、いきなり口をはさんだ。
「ちょっと、これだけこの人が頼んでるのに見捨てるって言うの」
それにジャンは眉をひそめた。
「……なに、急に。いきなり出てきてお説教?」
だがコリーは引き下がらなかった。
「はぐらかさないで。困っている人を助けるのは当たり前でしょう?」
それをジャンは鼻で笑った。
「当たり前って、それ本気で言ってんの?」
「は?」
「あのなぁ、いつでもそんなこと言ってると、いいように利用されて破滅の道をたどるぞ」
「別に構わない。困っている人を見捨ててのうのうと生きるよりましよ」
二人がにらみ合っていると、ティムが仲裁に入ってきた。
「あの、そんなに喧嘩しないでください。最初から僕が行けば済んだ話ですから。ただちょっと気が動転してしまって。騒ぎ立ててしまってすいませんでした」
「あなたが謝る必要なんてない。悪いのは全部ジャンなんだから!」
コリーの非難の声に、ジャンは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「いえ、いいんですコリーさん。あなたの気持ちはとても嬉しいですが、やっぱり僕が行かないと。ご迷惑おかけしました」
軽く頭を下げると、ティムはそそくさとラ・ポートを出て行った。
それを呆然と見つめ、それからコリーはジャンの方へ向き直った。
「困っている人を見捨てるなんて最低」
「いいんだよ。それに結局あいつが助けに行くって言ったんだし、結果オーライじゃん」
「でも」
「でももへったくれもないって! ことあるごとに首突っ込んでたら、体がいくつあっても足んなくなるぞ?」
「だけど! やっぱり放ってなんておけない。私、行ってくる」
そう言い残し、コリーも出て行ってしまう。
「あ、ちょっと」
ジャンは、彼女が消えた方を見て、はぁっとため息をついた。
「ったく、勝手にしろよ。もう」
みんな出払ってしまい、一人残ったジャンは大きく伸びをすると、首に手を当ててそのまま時計回りにぐるりと回した。
「ふぁーあ、さてと、なんか疲れたしちょっと昼寝でもしてくるか」
そう言って、ジャンがラ・ポートを出ると、ちょうど郵便馬車が店の前で止まった。
深緑の制服に身を包んだ配達員が手紙を持って降りてくる。
(俺のところに手紙を出すような奴はいないし、マスターあてか?)
そんなことを考えながら、「ご苦労様」と声をかけて、差し出された手紙を受け取る。
「ジャン・ラグドール様あてでございます」
「へっ?」
配達員の思いがけない言葉に、ジャンは間抜けな声をあげてしまった。
(俺あて? 一体誰から……)
手紙を裏返してみると、そこには送り主らしき人物の名前が書かれていた。
「あの、なにか」
配達員が怪訝そうな表情でこちらを見ていた。それに慌てて手を振って、
「ああ別になんでもない。配達ありがと」
配達員を帰らせたあと、ジャンは急いでその封を切った。
中には一枚の紙切れが入っているだけだった。それを取り出して読む。
そこにはこう書かれていた。
『若造、いつになったら返してくれるんじゃ? ――アルテ・ケントニス』
ジャンの頬を冷たい汗が伝う。
「……やべ、まだあれ返してなかった」
顔をしかめると、ジャンは慌てて自宅へと戻った。
「あー、悪いけど今日店休み……」
しかしジャンの言葉を遮って少年が、
「助けてください!」
その表情はとても切羽詰まったものだった。
そんな彼に、ジャンは冷ややかな眼差しで、
「っていうか、誰あんた」
それに青年はうっと怯んだ。
「ぼ、僕はキャトルのボーイフレンドのティム・マリカドルです」
「ふーん? で、その彼氏さんがなんの用? 大体、肝心の彼女は?」
「だから助けてくれって言ってるじゃないですか! キャトルがブイオとかいう男に連れ去られたんです!」
「は?」
「それって」
二人の間に戦慄が走る。
「その男はいきなり僕たちに絡んできて、金をよこせと言ってきたんです。それを拒んだら、連れていたキャトルを連れ去っていってしまったんです。返してほしかったら百万リアン持って、町外れの遺跡に来いって言い残して」
ティムは唇をかむと、さらに捲し立てるように、
「だからお願いします! キャトルを助けてください」
「えー」
ジャンは困ったように頭をかいた。
「ってかそもそもあんた彼氏なんだろ? なんで逃げてきてんの。普通、そういうときは彼氏がかっこいいとこ見せて、好感度を上げるもんじゃん?」
「それは……」
「それに、あんたの頼みを聞いたところで、俺になんかメリットはあるわけ?」
「う……」
「悪いけど俺、見返りのない仕事はしないんで」
「そ、そんな……」
ティムががっくりとうなだれる。
それを横で黙って聞いていたコリーが、いきなり口をはさんだ。
「ちょっと、これだけこの人が頼んでるのに見捨てるって言うの」
それにジャンは眉をひそめた。
「……なに、急に。いきなり出てきてお説教?」
だがコリーは引き下がらなかった。
「はぐらかさないで。困っている人を助けるのは当たり前でしょう?」
それをジャンは鼻で笑った。
「当たり前って、それ本気で言ってんの?」
「は?」
「あのなぁ、いつでもそんなこと言ってると、いいように利用されて破滅の道をたどるぞ」
「別に構わない。困っている人を見捨ててのうのうと生きるよりましよ」
二人がにらみ合っていると、ティムが仲裁に入ってきた。
「あの、そんなに喧嘩しないでください。最初から僕が行けば済んだ話ですから。ただちょっと気が動転してしまって。騒ぎ立ててしまってすいませんでした」
「あなたが謝る必要なんてない。悪いのは全部ジャンなんだから!」
コリーの非難の声に、ジャンは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「いえ、いいんですコリーさん。あなたの気持ちはとても嬉しいですが、やっぱり僕が行かないと。ご迷惑おかけしました」
軽く頭を下げると、ティムはそそくさとラ・ポートを出て行った。
それを呆然と見つめ、それからコリーはジャンの方へ向き直った。
「困っている人を見捨てるなんて最低」
「いいんだよ。それに結局あいつが助けに行くって言ったんだし、結果オーライじゃん」
「でも」
「でももへったくれもないって! ことあるごとに首突っ込んでたら、体がいくつあっても足んなくなるぞ?」
「だけど! やっぱり放ってなんておけない。私、行ってくる」
そう言い残し、コリーも出て行ってしまう。
「あ、ちょっと」
ジャンは、彼女が消えた方を見て、はぁっとため息をついた。
「ったく、勝手にしろよ。もう」
みんな出払ってしまい、一人残ったジャンは大きく伸びをすると、首に手を当ててそのまま時計回りにぐるりと回した。
「ふぁーあ、さてと、なんか疲れたしちょっと昼寝でもしてくるか」
そう言って、ジャンがラ・ポートを出ると、ちょうど郵便馬車が店の前で止まった。
深緑の制服に身を包んだ配達員が手紙を持って降りてくる。
(俺のところに手紙を出すような奴はいないし、マスターあてか?)
そんなことを考えながら、「ご苦労様」と声をかけて、差し出された手紙を受け取る。
「ジャン・ラグドール様あてでございます」
「へっ?」
配達員の思いがけない言葉に、ジャンは間抜けな声をあげてしまった。
(俺あて? 一体誰から……)
手紙を裏返してみると、そこには送り主らしき人物の名前が書かれていた。
「あの、なにか」
配達員が怪訝そうな表情でこちらを見ていた。それに慌てて手を振って、
「ああ別になんでもない。配達ありがと」
配達員を帰らせたあと、ジャンは急いでその封を切った。
中には一枚の紙切れが入っているだけだった。それを取り出して読む。
そこにはこう書かれていた。
『若造、いつになったら返してくれるんじゃ? ――アルテ・ケントニス』
ジャンの頬を冷たい汗が伝う。
「……やべ、まだあれ返してなかった」
顔をしかめると、ジャンは慌てて自宅へと戻った。
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