マスク ド キヨコ

居間一葉

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 それは、ある夏の日のことだった。小学生の私は、家族づれで、とある片田舎の温泉地にあるホテルに泊まることになった。同級生の友人と、その家族も一緒である。
 温泉地へは、友人の父親の運転する車で向かった。高速道路を使って、三時間ほどで到着した。近場の観光地であったが、小学生の私と友人にとっては、それは夏のちょっとした冒険であった。
 ホテルに着くと、互いの家族は部屋で少し休むこととした。しかし、子供の体力は無尽蔵である。私と友人は、さっそく連れ立って、探検にでかけることとした。
「ホテルの敷地からは出ちゃだめよ」
 そう母親に言われ、私は頷いた。逆らう気もなかった。
 ホテルはバブル期に造られた、時代遅れのいかめしい造りだった。廊下に貼られた赤いじゅうたんも、だいぶ多くの旅行者に踏まれて、ほぼ全体が白くかすれていた。ところどころ、完全に毛が剥がれて、下地が露出してしまっているところもあったくらいである。
 私と友人とは、人気のない六階建てのホテルの中をくまなく探検した。おそらく今までに活躍したこともないであろう、赤さびだらけの非常階段に至るまで、隅々走り回った。
 ホテル内の探索を終えた私と友人は、一階のロビーへと降りた。この時代に造られたホテルには、大型のホールや宴会場が備わっていることが多い。このホテルには、ステージつきのちょっとしたホールが、本館とは離れた場所に設置されていた。私と友人は、当然のように、そのホールへ向かった。
 足を踏み入れた時、ホールには照明のたぐいが灯っておらず、真夏の昼間でもかなりの暗さであった。風通しもあまりよくないのか、少しかび臭い臭いがした。白塗りの壁に触れると、夏の湿気にあてられているためか、少しぬめっと湿っている感じがした。
 しかし、ステージには、真新しい花輪や、豪華な生け花が飾られ、その上には、私達が開けた扉から入り込むわずかな光さえも、どん欲に受け止めギラギラと反射して輝く大型のミラーボールが設置されていた。そして、そのステージ脇には、一つの看板が置かれていた。
 看板には毛筆で、ウィメンズ・ボディビル・コンペティション、と記されていた。

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