マスク ド キヨコ

居間一葉

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 先を見ると、そこは少し広い空間になっているようだった。おそらくそこが、私にとっての終着地点だと思われた。私は大きく身を乗り出した。一寸の隙間もなく、私の体はキヨコの咥内の肉と密着した。そして、私の動きと息をあわせるように、キヨコが上体をもたげたようだ。キヨコが小リスちゃんと呼ぶ、小さな私の体は、その目指す小空間にすっぽりと収まった。私は一仕事終えた気になって、生意気に深呼吸をした。同時にキヨコも満足そうに息をついた。
「大好きよ、おりこうでやさしい、私の小リスちゃん。抱きしめてあげる」
 空間が縮んでいく。私の全身を、キヨコの柔らかく弾力のある内側の肉と、固く引き締まった外側の筋肉とが共に、優しく強く抱きしめてくれた。
 やがて、私はふたたびはじけた。
 
 私の記憶は、そこで一度なくなっている。
 次に気がついた時、私はキヨコの舌として目覚めた。私の体は一度はじけ、そして、キヨコの舌を構成する細胞として生まれ変わったのだ。
 これは僥倖ともいうべき、大変な栄誉ある地位である。その理由を述べよう。
 まず、キヨコの顔の真ん中に位置する舌、すなわち私は、基本的にキヨコと同じものを見、同じものを聞き、同じものを味わうことができる。匂いもそうである。キヨコは匂いを鼻だけでなく、舌でも感じ取ることができるのだ。触覚以外の五感のほぼ全てを、キヨコと共有している。
 それだけではない。舌である私は、唯一、キヨコと「話す」ことのできる栄誉に与っている。月の夜には、キヨコは寝床の中でまどろみながら、よく私と会話をしてくれる。キヨコは私に語りかけた後、力を抜く。すると、私だけの意思でキヨコの舌を動かすことができようになる。

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