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キヨコは、自分がたまごの中にいた時の話や、どうやって内側からたまごを壊して外に出たのかなどを、事細かに教えてくれた。また、獲物のしとめ方や、寒さに耐える方法なども教わった。
「小リスちゃん。いいこと。生きているということは、大変なことなのよ。生きているということを、当たり前と思ってはだめ。昨日死んだ命を燃やして、私たちは生きているの。先に死んだものの知恵を繋いで、私たちは暮らしていけるの」
キヨコはよく、そんなことを言った。私が、はい、わかりました、と答えると、キヨコはいつも優しく微笑んだ。
世界で最も美しく、強い女性である、キヨコの肉体の一部となり、その精神までも共有し、果ては互いの意思を交換し合うことができる。これに勝る喜びが、この世にどれほどあろうか。
しかし、キヨコの話では、私の幸福はもうじきひと段落するようだ。
キヨコはもうすぐ、たまごを産まねばならないらしい。そして、キヨコはそのたまごを作る材料として、再構成した私の細胞を使うつもりでいるようだ。
私は最初、それを拒もうとした。愛するキヨコから切り離されるなんて、奈落に落ちるような絶望を感じた。出るはずもない涙が流れ出るのを錯覚するほど、悲しかった。
悲しむ私に、キヨコは優しく語り掛けた。
「お願いだから、わかってちょうだい。やさしくておりこうな、私の小リスちゃん。これは、あなたにしかできない役目なの。だって、今度私が産むたまごの半分は、小リスちゃん、あなたなのよ」
キヨコの言葉の意味が、すぐにはわからず、私は返事ができなかった。戸惑い、チロチロと動くだけの私をあやすように、キヨコはとぐろを巻いて、その滑らかな腹の肌を、私に当てた。
「あなたは、たまごの中で生まれ変わって、もともとのあなたの半分と、今の私の半分とを合わせ持ったあなたになるのよ。そして、春になったらたまごを割って、外に出て、遠くまで冒険するの。時にはあの臭くてまずいドブネズミなんかを食べなくちゃいけない日もあるわ。それでも、生きて、遠く、遠くまで、私の半分を連れて行ってちょうだい。私、それがうれしいの」
ふと見ると、キヨコも泣いていた。
キヨコが私のために泣いた。それこそ、最大の幸福であった。
続
「小リスちゃん。いいこと。生きているということは、大変なことなのよ。生きているということを、当たり前と思ってはだめ。昨日死んだ命を燃やして、私たちは生きているの。先に死んだものの知恵を繋いで、私たちは暮らしていけるの」
キヨコはよく、そんなことを言った。私が、はい、わかりました、と答えると、キヨコはいつも優しく微笑んだ。
世界で最も美しく、強い女性である、キヨコの肉体の一部となり、その精神までも共有し、果ては互いの意思を交換し合うことができる。これに勝る喜びが、この世にどれほどあろうか。
しかし、キヨコの話では、私の幸福はもうじきひと段落するようだ。
キヨコはもうすぐ、たまごを産まねばならないらしい。そして、キヨコはそのたまごを作る材料として、再構成した私の細胞を使うつもりでいるようだ。
私は最初、それを拒もうとした。愛するキヨコから切り離されるなんて、奈落に落ちるような絶望を感じた。出るはずもない涙が流れ出るのを錯覚するほど、悲しかった。
悲しむ私に、キヨコは優しく語り掛けた。
「お願いだから、わかってちょうだい。やさしくておりこうな、私の小リスちゃん。これは、あなたにしかできない役目なの。だって、今度私が産むたまごの半分は、小リスちゃん、あなたなのよ」
キヨコの言葉の意味が、すぐにはわからず、私は返事ができなかった。戸惑い、チロチロと動くだけの私をあやすように、キヨコはとぐろを巻いて、その滑らかな腹の肌を、私に当てた。
「あなたは、たまごの中で生まれ変わって、もともとのあなたの半分と、今の私の半分とを合わせ持ったあなたになるのよ。そして、春になったらたまごを割って、外に出て、遠くまで冒険するの。時にはあの臭くてまずいドブネズミなんかを食べなくちゃいけない日もあるわ。それでも、生きて、遠く、遠くまで、私の半分を連れて行ってちょうだい。私、それがうれしいの」
ふと見ると、キヨコも泣いていた。
キヨコが私のために泣いた。それこそ、最大の幸福であった。
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