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第15話 ダイヤのジャック

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(ミキ視点、レストランで昼食後、買い物で別れたところ)

 マレック様と別れて必要な物の買い出しを行なう。
 丁度いいのでマレック様が一緒だと買えない下着などを買っていく。
 マレック様はどんな下着がお好みだろうか?
 このスケスケのと、きわどく食い込んでいるのとではどちらがいいだろう……。
 散々悩んで、これならマレック様と一緒に来て選んでもらった方が良かったと、結局両方買ってマレック様に見てもらうことにした。
 マレック様がどんな反応をされるか、今から楽しみだ。
 もしかしたら、そのまま押し倒されるかもしれない。

 その様子を思い浮かべウキウキしながら、下着だけでなく必要な物をあれこれ買って回ったが、その間ずっと後をつけてくる者がいた。

 ただの変態ストーカーではないようだ。だいたい誰だか予想は付いているので放置して暗くなるのを待つことにする。

 陽が落ち、当たりが暗闇に覆われた頃、私は路地裏に足を踏み入れた。

「そろそろ出てきたらどうなの? つけているのはわかっていたわ」
「姉さん……」

 やはり、つけていたのは弟のジャンだった。
 今は、バラック様のトランプメンに所属するダイヤのジャックと言った方がいいだろう。

「姉さん、あんなヘナチョコに付いてないで、僕と屋敷に帰ろうよ」
「屋敷に帰って、バラック様の女になれというの?」

「それは……」
「そんなのまっぴらごめんよ」
 バラック様の女の扱いは酷いもので、もう何人ものメイドが使い物にならなくなっている。

「それは、僕がバラック様に言って何とかしてもらうよ」
「あなたの言うことをバラック様が聞くわけないでしょ」
 バラック様が他人の言うことを聞くはずがない。ましてや弟からそんなことを言われれば、最悪弟は殺されてしまうだろう。

「それでも、あんなヘナチョコと一緒にいるよりはいいだろ」
「ヘナチョコ、ヘナチョコって、マレック様をヘナチョコなんかじゃないわ。あなたにはわからないかもしれないけど、マレック様はとても立派なものをお持ちなのよ。それに、離れられない理由があるのよ」

「立派なものって……。もう姉さんはあいつとそういう関係なのか!」
「マレック様は私のご主人様よ。それに、離れられないと言ったでしょ」

「そうなんだ、それならあいつには死んでもらうしかないね」
「そんなこと、私が付いていてやらせるわけがないでしょ」
 弟から殺気が漏れてくるので、こちらも弟に殺気を向ける。

「姉さんに僕が止められるかな?」
「何を言ってるの、ナイフの扱いで私に勝てたことないでしょ」

 私はスカートの中に隠し持ったナイフを取り出し身構える。弟も同じくナイフを構えた。
 弟はナイフを使った魔術の達人であるが、それを教えたのは私だ。ナイフの扱いなら負けることはない。

「稽古をつけてあげるわ。かかってきなさい」
「そんな余裕があるかな。僕は常に成長してるんだよ」

 お互いに接近し、ナイフを繰り出し、数回切り結んだ後再び距離を取る。
 距離を取った所に、弟がナイフを投げてきた。
 私は難なくそれを躱す。

「無駄にナイフは投げるなと教えたでしょ」
「それはどうかな」

 バン!

「キャッ!」
 弟が投げたナイフが破裂した。
 私が怯んだ隙に弟が斬りかかってくる。
 私はそれを寸前で交わしていく。
 爆薬を仕込んでいたとは、やられた。

「どうかな、この魔術は?」
「意表を突くにはいいけど、それは結局、ナイフでは私に勝てないってことでしょ」

 何度か斬り合っているうちにこちらの方が優勢になってくる。

「誤魔化しではナイフを極めた私には勝てないわよ」
「クッ!」

 私は弟のナイフを持つ手に、こちらのナイフを突き刺した。

「諦めて帰りなさい。そして、魔術から足を洗った方がいいわ」
「クッソ!」

 ナイフを持つ手を怪我してしまったのだ、暫くはナイフを持てないだろう。もしかすると治ってからも今までのようにナイフを扱えないかもしれない。
 ちょうどいい機会だ。これを機に弟が真っ当な道を歩んでくれればいいのだが。

 弟は怪我した手を押さえながら去っていった。

 弟がここに現れたということは、バラック様に居場所を知られているということだ。
 ダイヤのジャックが撃退されたことで諦めてくれればいいのだが、そうはいかないだろう。
 これからも追っ手が来ると思って間違いない。
 気を引き締めてマレック様をお守りしなければ。

 決意を新たにしたところで背後に影の揺らめきを感じる。
 私はそこにナイフを投げ付けた。

「おいおい、危ないじゃないか。それに、ナイフは無駄に投げないのじゃなかったのか?」
「見ていたの?」
 影の揺らめきが消えて、私が投げたナイフを持って男が現れる。
 男はナイフをこちらに放ってよこす。

「追加の品を届けるために探してたんだ」
 男の手には謎の液体が入ったビンが数本持たれていた。

「安全なのでしょうね?」
「それはどうかな? 知ってのとおり、まだ試験段階だからね」

「そうだったわね」
 それもそうだ、安全性を確認するための治験なのだから、完全に安全とは言い切れない。だが、私はそれを拒否できない。
 私は男からビンを受け取った。

「わかってるだろうが、結果が出たら知らせるようにということだ」
「わかっているわ」

 私の返事を確認すると男はまた影のように揺らめいて消えてしまった。

 奴の名前はシャドー、どういう仕組みがあるのか知らないが、影のように現れ、影のように消えていく。
 今回は単なる運び屋なので心配はいらないが、かなりの実力者だ。敵に回られると厄介なことになる。
 だからこそ、私はこのビンを受け取らないわけにはいかなかった。
 できれば、こんな薬使いたくはないのだが……。

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