もう絶対忘れない!

緋向

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8 宇宙色のマグカップ

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孝哉さんの美味しいご飯を食べた後、いつものように小説を読みながらくつろいでいると、ゴトッと、やや重量感のある物が目の前の机の上に置かれた。
見るとそれは大きめのマグカップで、深い藍から天色の綺麗なグラデーションに、淡い黄色や桃花色のにじみを作った芸術的なデザイン。加えて、所々銀色の粒が散らしてあり、まるで星のようだ。はっきりいって、好みのデザインだった。
「わ・・・すっごい綺麗!!どうしたのこれ?」
目の前のマグカップに、思わず目を輝かせて聞くと、孝哉は、涼子がここまで喜ぶと思っていなかったようで、少し照れくさそうに 頭をかいた。
「会社の新商品だよ。涼子にあげる。俺がデザインの担当をしたんだけど、涼子前にこうゆう柄が好きっていってたろ?だから出来たらすぐ見せようって思ってたんだ」

そう言えば、前にデパートに一緒に行った時、寄った雑貨屋でそんなことを言った気がする。

───覚えててくれたんだ・・・

どうしよう、嬉しい。変なとこで優しいんだもん。調子狂う・・・。
「あ、りがとう・・・孝哉さん。さすがデザイナーですね。すごく嬉しいです・・・!」

孝哉さんの務める会社は、大手のデザイン会社だ。主に雑貨、インテリアの販売やデザインなど、幅広く事業を手掛けている。孝哉さんは、そこのデザイン部門のチーフをしているらしい。

素直にお礼を言って笑うと、孝哉が、僅かに顔を赤らめて視線をそらした。その仕草がなんだか可愛くて、涼子は、笑った顔をさらにゆるませてしまった。

マグカップを手に持ってみると、その大きさに見合ってずっしりと手に来る重さだ。それでも、孝哉が自分のために作ってくれた物だと思うと、その重みがなんだか心地の良いものに感じられた。
「これなんて言う商品なの?」
「んー・・・まだ決まってないんだよな。候補とかは色々あるんだけど、しっくりくるものがなくてさ」
難しい顔をした孝哉が腕を組んで、うーんと唸る。
「そっかぁ。まだ決まってないのかー・・・」
手の中に収まりきっていないマグカップを見回す。
綺麗なグラデーションに鮮やかなにじみ。そこで星のように輝く銀。これはなんだか───

「宇宙みたいだね・・・」

ポツリと、思ったことを口にした。
「これは宇宙色のマグカップだ!ねっ!孝哉さん!」
自分でもぴったりだと思い、大はしゃぎで孝哉にそう言うと、孝哉が唖然とした顔で自分を見ていた。
しばしの沈黙がその場を支配する。
「あ・・・」
自分の顔がぼわわっと赤くなったのがわかる。凄腕デザイナーに、なんて安直な感想を言ってしまったのだろうか。
猛烈に恥ずかしい。

「待って!今の無しっ無し!素人が変なこと言っちゃってごめんなさい!!気にしなくていいから今の!」
恥ずかしさで焦った涼子は、孝哉にそうまくしたてた。

「宇宙色のマグカップか・・・」
孝哉が、唖然とした顔のままつぶやき、一拍置いて、「ぶっ・・・」と、吹き出した。

そして、そのまま堪えきれない様子で笑い出した。

「あっ・・・はははははっ!!宇宙色ねぇ!さすが涼子!いいセンスしてるわ!」
大きな体をくの字にしてガチの大爆笑をしている。

確かに思ったままの意見を言った私がアレだったかもしれないけど・・・

そこまで笑う必要なくない!?

「ちょっと!!そんなに面白いこと言ったつもりはないんですけど!?まあ、凄腕デザイナーの孝哉さんからしたらアホみたいな発想なんでしょーけど!どうせ、誰の意見でも孝哉さんのに比べたら見劣りするんですよね!あーすごいすごい!」

精一杯の嫌味をこめてそう言い切ると、
「まあそーだな。他の連中と俺のデザインとではレベルが違う」
ふんぞり返ってさらりとそう言い返してきた。

コイツ、嫌味を堂々と受け流しやがったよ。何この俺様?

「別に、ばかにしてるわけじゃねーよ。ただ涼子らしいなって思っただけ」
「私らしい?」
それは発想が子供っぽいとか、安直すぎる感想だとかだろうか。そうだとしたら、腹が立つので一回殴ってやりたい。いや殴る。

「ふふっ・・・昔も今も、思ったことを正しいと疑わずに楽しそうに話すところ。ほんと涼子らしい」

「・・・!!」

純粋に、優しそうな目で微笑まれた。そんな答えを予想だにしていなかったので、思いっきり不意をつかれた。言葉が出ない。

「俺は好きだよ。宇宙色のマグカップ」
「─────っ!!!!」

色気たっぷりの声でそんなことを囁かれ、涼子は、今度こそ顔を真っ赤に染めて、ソファーから飛び退いた。
「もう寝るから!!」
孝哉に顔を見られないよう、小説で顔を隠しながらリビングを勢いよく出ていくと、後ろから、孝哉の盛大な笑い声が聞こえて猛烈に恥ずかしかった。

2階の自分の部屋に入り、ベッドにすぐさまダイブする。ひんやりとしたシーツが気持ちいい。
『俺は好きだよ。宇宙色のマグカップ』
孝哉の先程の言葉が頭の中に響いている。あんな事を言われるとは思っていなかった。好きだよと言われたとき、自分のことかと思ってしまった。

───孝哉さんが好きっていったのはマグカップ!宇宙色のマグカップの方だから!

必死に自分に言い聞かせ、顔の赤みを引かせるように、冷たいシーツに顔をこすりつけた。

好きと言われたのが自分じゃないことに少し、ほんの少しだけ心を痛めながら涼子は目を閉じた。
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