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第2章

絶望の叫び

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 前世でも異次元ポケット使えてたらよかったのにと二人で思いをはせていると、いつの間にかディランたちの表情が険しいものに変わっていた。

 炊いていたかがり火も消して真っ暗にし、みんな完全武装してある一点の方向を見つめている。

 「ライム。すぐにカバンの中に。」

 短く、そして小さな声で私たちにそう指示したルーナは、いつでも魔法を唱えられるように短杖を取り出して身構えていた。

 ただらならぬ事態が起きていると感じ取った私たちはすぐにルーナが掛けているカバンに入り、みんなが見ている方向を注視する。

 よくよく見ていると、湖の方向にあるちょっとした林のような場所に2匹ほどの影が確認できた。

 大きさはよくわからないが、おそらくグルアガより少し大きめというくらいだろう。4足歩行で草花を食べているような動きをしている。

 聞き耳を立てていると小さくブヒブヒと声を上げているようだ。豚のモンスターかな?

 「ライム。あれはトーキーと言って、敵を発見した際に大きな鳴き声を発して周囲にいるモンスターを惹きつけ、敵に襲わせるという非常に厄介なモンスターです。トーキー自身は非常に弱いのですが、鳴き声のせいで普通の上級モンスターよりもよほど危険とされています。」

 ルーナが遠くで草を食べているモンスターのトーキーについて説明してくれたが、そんな怖いモンスターなのか。

 そういえば初めてモンスターと遭遇した時もトーキーが来たから逃げたんだっけ。

 そう考えると厄介極まりないモンスターなのは考えるまでもない。

 ディランたちはどうにか気づかれずにやり過ごすつもりなのだろう。鳴き声の効果範囲はわからないけど、この警戒っぷりから洞窟内のモンスターにも十分効果を及ぼすほどなんだろう。

 万が一にも鳴き声を泣かれれば最悪殺される可能性も出てくる。

 ここは慎重にならないと。

 私たちも身じろぎ一つせずに静かにトーキーがどこかへ去るのを待つ。

 草をむしゃむしゃ食べる音だけがかすかに聞こえ、まだしばらく動かないように見えたが、トーキーはおもむろに顔を上げるとなぜかこっちの方向に歩いてきた。

 「どうする?」

 ディランが小さくみんなを見ながら問うが、みんなもどうするか決めあぐねている。

 もしも今焦って動き出せば、そのせいで相手に見つかってしまう可能性がある。

 かといってこのまま黙ってここにいればいずれ見つかってしまうことも十分考えられた。

 トーキーとの距離は目算でおよそ100メートル。決して遠くない距離だ。を

 さらに周りに壁になるようなものはなく、今だって少し高い草の中に紛れて見つかっていないだけの話だ。

 立ってしまえば私たちの姿はまるわかりになるし、そうなればすぐに鳴き声を上げられてしまう。

 この距離だと魔法も矢も当てることは難しく、当てられたとしても息を止められるかどうかは運次第といったところだ。

 ゆえに案がない。

 あるとすればそれは十分に引き付けて一気に畳みかけ、鳴き声を出される前に殺してしまうということだが、結局これもそれまでに見つけられないよう天に願うことしかできない。

 そうして何も決められないまま段々と彼我の差はなくなっていき、急にトーキーの動きが止まった。

 距離は50メートル。ここからなら確実に魔法を当てられるが、しかし相手の出方次第では決定打にかける恐れがある。

 ここは慎重になぜトーキーが足を止めたのかを見定める。

 トーキーは鼻を鳴らして周囲の臭いを嗅いでいるようだ。もしかしてこっちの臭いに反応したのかな?

 しばらくフゴフゴと鼻を鳴らしていたが、それをやめるとまたこっちに向かって歩き出した。

 もう距離は40メートルを切った。これ以上は見つかる。

 ルーナとレナは目を合わせて頷き合い、そして起き上がりざまに攻撃を仕掛けて2匹のトーキーを迎撃する。

 二人の攻撃は見事命中し、ルーナは火の魔法を脳天に直撃させ、レナは矢を一瞬で3連射して全て急所に当てていた。

 狙い通り2匹のトーキーは鳴き声を一瞬たりとも上げずに即死し、横倒しになった。

 それを見てみんなはほっと一息つき、周囲を確認しながら立ち上がったのだが。

 「ピギィィィイイイイイイイイ!」

 凄まじい音量で鼓膜が破れるほどの鳴き声を上げる一匹のモンスターが私たちの視界の隅に映った。

 「まさか!3匹目がいたのですか!?」

 こちらに来ていた2匹とは別に、右方向に見える壁近くの花畑にもう一匹トーキーがいたのである。

 完全に虚を突かれて血の気が引いたみんなはすぐにトーキーに向かって全力疾走し、ルーナの魔法の一撃で息の根を止めた。

 しかし時すでに遅く、洞窟内にも響き渡ってしまったその鳴き声を聞いてこちらに向かってくる大量の足音が火口全体に響き渡っていた。

 そうして間もなく私たちが来た通路からはもちろん、上方にあった火口につながる通路という通路からモンスターが表れ、降って落ちてくるように壁の穴からあふれてきた。

 全員すぐに荷物を持って火口の中心である湖のほうに駆け出し、湖を背にして大量のモンスターと向き合う。

 ここでリアル背水の陣に立ってしまうとは。本当に笑えない。

 「数が多すぎます!推定でも500は超えていますよ!」

 「まさかここまで呼ばれるとは思ってもみなかったぜ。まだまだ増えてきてるしよ。」

 推定でも500。そしてまだまだ火口につながっていたありとあらゆる洞穴から溢れるモンスター。

 しかもただのモンスターではなく、上級中級入り乱れる強力な軍勢。

 これではさすがに一パーティーだけでは抑えられない。それどころか一斉に攻められただけで押しつぶされそうだ。

 「ここまで来てやられるわけにはいかない。全力で突破するぞ!」

 「まだやりたいこといっぱいあるしね!」

 しかしそれで臆するエレアナではなかった。

 絶望的なこの状況。なのにみんなの表情は明るかった。不敵といってもいいほどだ。

 その目は諦めを知らず、その腕には闘志が溢れ、その足は堂々と前を向いていた。

 この場には恐怖し逃げ出してしまおうというものは一人としていなかった。

 私たちでさえも、そんなみんなの表情と言葉に力をもらい、全力で乗り切る覚悟を決めた。

 「みんな、行くぞぉ!」

 ディランの雄たけびにも似た掛け声にはじかれ、目の前の敵に向かって走り出した。
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