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第3章

脈動す

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 「話の前に・・・これにて此度の謁見は終了とする。皆の者。速やかに持ち場に戻るように。」

 ディーレア王は立ち上がりざまにそういうと、兵士皆迷いなく謁見の間から退場していく。

 だがこれは別段伝えられていたことではなく、当然兵士の中に疑問を抱くものたちが大勢いる。

 それでも王の命に背くようなもの、あるいは王に意見しようと思うものなどこの場にいる兵士の中にはおらず、よって迷う余地すらなく謁見の間からたたき出されたという方が正しいだろう。

 そしてディラン達はというと、当然その場で動かないまま、王の目の前に立ったままでいる。

 なぜなら王は兵士達のみを見て退場を促したのであり、その間にディラン達の事は全く見ていなかったのである。

 つまり、これから話すことはたとえ箝口令を敷いていたとしても一兵卒の前で軽々しく口にできないようなことであるということであり、そのために兵士たちを遠ざけたのだ。

 兵士たちが全員この場からいなくなり、残すはエレアナ、リィーネ、文官、武官、侍女、そしてディーレア王のみとなった。

 「これから話すことは王国の機密に触れるため、兵には出てもらった。そしてここからは非公式の中の非公式。他言すれば死よりも重い罪となるため、心していただきたい。」

 「それほどの重要事項をお話になるならもっとひそかな場所でするべきでは?」

 「緊急故、この場を借りて話すこととなったのだ。時間がないということではなく、我らの存亡にかかわる事項ということだが。」

 ディーレア王は笑みを完全に消し去り、王としての威厳をまとわせる厳しい表情となる。

 「ディラン王子。あなた方エレアナがこの国に入国した直後に聖樹イレーヌ様がざわめいた。気のせいとは思えぬほどの確かな鼓動を感じ取ったのだ。」

 「聖樹様が?その原因は判明しているのですか?」

 「わからぬ。だがあなた方が入国する以前は何の兆しもなかった。それがあなた方がこの地を踏みしめた直後に聖樹様が何かに反応を示したのだ。こんなこと、400年この地で生きてきて初めての経験であった。」

 聖樹イレーヌは神に祝福を受けた偉大なる大樹である。聖樹はこの世界にもほとんどない神聖なものであり、何より確固たる意思が存在する。伝承には聖樹を害そうとしたものを強大な魔法を放つことで灰燼に帰したとまで伝えられるほどである。

 その聖樹が反応を見せるとなると、同じく聖樹を害そうともくろむ悪意あるものか、そうでなくても聖樹が気にするほどの何かがこの地に踏み入ったということになる。

 これはこの地に住まい、聖樹を崇めるエルフにとってかなり重要な案件であるといえる。

 「ディラン王子。確かここへは5人で訪れたそうだな。」

 「それが何か?」

 「その者はいったい何者だ?」

 しばしの沈黙が流れる。

 ディーレア王がディランが何かを隠していることを確信している。そしてディランはすぐに返答できなかったことを後悔していた。

 まだすぐにライムの事を話していれば誤魔化しようもあっただろう。しかしここに来てうまく言葉が出てこなかったのである。

 ライムを信頼していないからではない。もしライムに何の非もなかったとしても、悪とみなされた瞬間に排除されてしまうと直感してしまったためだ。

 もしも判断を誤ればライムにもエレアナにも未来がない。

 その究極の選択に答えを出さないまま、ある意味で一つの回答を出してしまったのである。

 「ディラン王子。その者をここに連れてくることはできぬのか?」

 「・・・恐れながら、その者は年若く、王の御前で不敬なふるまいを見せる恐れがありますゆえ。」

 「よい。私は幼子に対して寛容である。多少の無礼は水に流す。」

 「わざわざ御前にお出しするほどの者では」

 「くどい!」

 ディーレア王はそれほど大きな声でもないのに聴いたものの心臓を鷲掴むほどの力を持つ声を上げた。

 ディランは小さく喉を鳴らし、ディーレア王から目をそらした。

 「あなたは決して愚かでも阿呆でもなかったはずだ。ならばわかっておるだろう。この場であなたが話すべきことは、弁解ではないということくらいは。」

 なお一層鋭い視線がディランを射抜く。

 すべてを見透かすような、嘘偽りを正すような力強い眼力を前に、何度も死線をかいくぐってきたディランともあろうものが小さく身を震わせた。

 ルーナやレナ、ポートも同じ思いをしたが、それでも恐怖に支配されることはなかった。

 「・・・すべてをお話しする機会を、後日いただけないでしょうか。」

 「今では差し障る理由があるということか?」

 「これは本人を連れてお話しなくてはならない重要なことであり、間違いが許されないことでありましょう。後日改めてその者を御身の前に赴き、真実を語りたく思います。」

 「・・・そのものが悪意を持っていることはないのだな?」

 「ありません!このディラン=フォン=ヴァインシュタット=レゼシアの名に懸けて!」

 「・・・よかろう。あなたの言葉をひとまず信じることとしよう。」

 こうして謁見は終了し、明日の朝に今度はライムを連れてアイルーンにある密会場所の一つにて話し合いを行うこととなったのである。
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