1 / 3
1 ここはどこ?
しおりを挟む
学校からの帰り道、俺は一人の女子のことを考えながら歩いていた。
正確には肩を落として泣きそうなのを必死でこらえるように顔をしわくちゃにさせながら、俺は帰路についていた。
フラれた。
勇気をもって告白をした俺は、見事に、バッサリ、フラれてしまったのだ。
正直、勝算があったわけじゃない。
競争率は馬鹿みたいに高くて、それでもいまだ誰も落とすことができない難攻不落の城。それが彼女を想う男子みんなが陰でよく言う表現だ。
学年を超えて、もううちの学校で告白したことのないやつはいないんじゃないかってくらい毎日告白されていて、そのくせ一瞬もなびくことなく、即答で、むしろ煩わしそうに、けれど顔は超絶笑顔で、バッサリとフッてしまうのだ。
これだけフラれているやつを見ていれば、高嶺の花として遠巻きから見ているだけにとどめておけば痛い思いをせずに済むものを。
それでも悲しきかな。男はそれほど賢くない。
誰もが自分だけは違うと信じて勇猛果敢に突っ込んでいってしまうのだ。
そして、それは自分も同じだった。
顔はイケメンではないが、平均くらいであると思ってはいるし、性格もいいと隣のおばちゃんからよく褒められるくらいだ。
最近の男子には珍しく買い物などをして食材を調達し、母が時間のないときは料理さえもする。
彼女と普通に話もできていたし、友達くらいの地位は獲得していると思っている。
時々見せられる笑顔に、もしかしたら自分のことを・・・なんて思ったりもしたが。
「ごめんなさい。あなたとは付き合えないわ。」
そうはっきりと言われてしまったのだ。
ああ。思い上がっていた自分を殴り飛ばしてやりたい。
せっかく友達としてくらいは接してもらえていたというのに。周りの男子たちも喉から手が出るほどほしがっていた地位を確立していたというのに。
俺は、それを自分で手放してしまったのだ。
「はあ。もうどこかに消えてひっそりと暮らしたい。」
何もする気力がわかなかった。
もう、どこか遠い場所に行って、このことを忘れて生きていきたい。
「そうだなぁ。山の中で畑とか耕しながら、ゆっくりと余生を過ごしたいもんだな~。」
高校生が何を言っているんだとか言われそうなセリフをつぶやきつつ、家の玄関のカギを開けて、中に入った。
中に入ったはずだった。
けれど気づいたら、そこは全く見知らぬ原っぱだった。
「・・・え?ここどこ?俺・・・そんなにショックだったのかな。」
フラれたショックのあまり幻覚を見ているのかと思い、目を強くこすってもう一度開いてみるも、目の前の状況は一切変わっていなかった。
「なん・・・え?・・どうなってるんだ?」
俺は後ろを振り返ったが、そこにあるはずの玄関の扉は跡形もなく消え去っていて、ただただ周りを木で囲まれた広大な草原があるだけだった。
「意味・・・分かんねえ・・・。」
俺は周囲を見回すが、そこには緑に生い茂っている木々と、ところどころにきれいな花が点在している原っぱがあるだけで、本当に何もない開けた場所だった。
来た道は消え、記憶にない草原のど真ん中に一人。
状況が呑み込めない俺はとりあえず頭を抱えてうずくまる。
「うん。そうだよな。あれだけショックなことがあったんだし、精神に異常をきたしたってなにもおかしくないよな。うん。」
そう呟いて、俺は生い茂る草花に背を預けるように、仰向けにゴロンと寝そべった。
「空・・・高いな~・・・」
さっきまで夕暮れだったはずの空は、自分の心のうちとは真逆に清々しく晴れ渡っていて、真昼のように澄み切った青が隅々までいきわたっていた。
しばらくそのまま寝そべって、深く息を吸い、そのまま吐き出した。
花の蜜のにおいと、草の青臭いにおいと、少し湿った土のにおいとが交じり合って、自分の心を落ち着かせる。
これだけ状況が呑み込めない現在において、慌てふためいても意味はない。
憧れの人はきっとこういう時、こういう考えをして冷静になることに努めるはずだ。
そうして俺はしばらくこの場のさわやかな空気のにおいを楽しむことにして、深呼吸を繰り返す。
目を閉じ、再び開ける。
すると、そこには少女の顔があった。
「・・・わっ!?」
一瞬呆けてしまったが、すぐに異常であると体が反応し、ごろごろと横に転がってその場から遠ざかる。
2メートルくらい離れると、体を起こしてさっきまで寝そべっていたところを見る。
そこには小学4年生くらいの少女がいた。
髪は神々しいくらいに光り輝く銀髪で、目を大きく、瞳は空よりも濃く色鮮やかな青。端正な顔立ちで、まるで精巧に作られた人形のような完璧さだった。
服装はゴスロリチックな黒と赤のドレスで、女の子らしいフリルがふんだんに使われているかわいらしいものだ。胸元には大きな赤色のリボンをつけており、それがまた少女のかわいらしさを引き出していた。
「反応がやや遅いけれど、まあ判断は間違っていないから一応合格としてあげましょうか。」
そんなことを少女が言うと、彼女は先ほどは何も持っていなかった右手にいつの間にか出現した大きく分厚い本を開く。
「えーっと・・・ああ、清水交一(しみずこういち)君ね。歳は17歳で、高校2年生。長男で、下には2つ下の妹と5つ下の弟がいると。」
いきなり言われた個人情報に戸惑いつつも、すべて言い当てた少女への警戒を強めていく。
かわいい顔してなんで俺の情報知ってるんだよ!?ストーカーか?
ほかにも突っ込むところはあるはずだけど、ひとまず俺は彼女がどういう存在なのか、この場所に来てしまったことと何か関係があるのかを注意深く見定めようとする。
「ここに来た理由は・・・あぁ、女の子にフラれたのが原因なのね。」
「なんでそんなことまで知ってんだよ!」
思わず冷静でいられなくなって素で突っ込んでしまった。
まさかフラれたことまで知っているなんて。というか・・・
「ここに来た理由って・・・俺は自分で来たわけじゃないぞ。」
「いいえ。あなたはここに来たいと思って来たのよ。」
俺の反論は真っ向から否定される。その彼女の強い言いきりに俺は二の句を告げずにいた。
「理由はどうあれ、あなたは願ったはずよ。どこか遠くの場所へ、少なくともこの場から消えてしまいたいと、そう強く願っていたはずよ。」
そういわれ、俺は数分前のことを思い出す。確かに、どこかに行きたいと願っていたことを。
しかし、それだけであるとも言える。何か失敗したときに、誰でも一度は考えたことがあるような、そんな逃避のために考える妄想が。
「そ、そんなことでこんなところに来れるわけないだろ!」
「確かに、それだけでは不十分。けれど、今回はそれだけで十分だったのよ。」
「言っている意味が分からないんだけど。」
「私はここで召喚の儀式をしたわ。条件は自分の居場所に未練がなくて、むしろどこか遠くの見知らぬ土地に行きたいと思っている人。それが複数人いた場合はランダムに選ぶ。そういう条件。ね、あてはまるでしょう?」
彼女の返答にそんな馬鹿なと思う自分と、確かにあてはまると思う自分とがいる。
いやいや。落ち着け俺!そんな、召喚だなんて。中二病こじらせるにしてもたいがいだろ!
確かに今はそんなファンタジーな状況下にあるけれども!いや、それで彼女の話をうのみにするわけには・・・・。
「面倒くさい男ね。そんなに疑うのなら見せてあげるわ。」
そういうと彼女は本をぱたりと閉じて手を放すと、本は忽然と消えてしまい、今度は木の棒のようなものが突然出現し、彼女の空いた手に収まる。
いったいどんな手品をと思っていると、彼女はその杖をふいっと上に振る。
途端、彼女と俺の間の地面が隆起し、土の壁となった。
「は、はあ!?」
俺は驚きのあまりしりもちをついて、そのまま後ろに下がる。
彼女は壁を回り込んで再び姿を現す。
「魔法よ。あなたの世界では使えないようだけれど、こっちの世界では使えるの。」
「いや、いやいやいや。これはなんかの冗談だよな!どこかに大掛かりな装置があって、それでこの壁を作って・・・」
「誰がそんな大掛かりな手を使ってまであなたを驚かせなければならないのよ。そんな意味のないことするわけないでしょう?」
確かにそうだ。こんな平々凡々な俺なんかのためにこんなことをする人はいないだろう。けど、けどこんなむちゃくちゃな。ありえない。
「証拠も見せたというのにまだ足りないというの?・・・なら、あなたの身をもって理解するしかないわよね?」
今まで何の表情も浮かべていなかった彼女は言葉の後半から意地悪なことを思いついたいたずら娘のような表情に変わり、次の瞬間、俺の目の前に一瞬でたどり着く。まるで瞬間移動のように突然。
そして、それに驚く暇もなく、俺は心臓を短剣で刺されてしまった。
先ほどまで持っていた杖ではなく、人を痛めつけることを想定して作られた鋸のようなギザギザした両刃の短剣で、俺の胸を刺したのだ。
痛く、冷たく、熱く、不快で。
工作の時に指を切るような、裁縫の時に針で指さすような、歩いていると物の角に足の小指をぶつけるような、そんな痛みとは比べ物にならないほどの強烈な痛みと苦しみ感じ、俺は叫び声をあげて倒れた。
「大丈夫よ。死なないわ。」
「これで・・・死なないわけ・・・・ねえだろ!」
「意外と話せるものなのね、それほど痛みを伴っていても。存外しぶといものね。」
少女の顔にはとても似つかわしくない返り血を滴らせた笑顔は、まるで足を引き抜かれてもがく虫を観察する子供のようで、俺はこれまで感じたことのない恐怖を感じた。
「さて、では始めるとしましょうか。」
彼女は観察をやめて、先ほど手にしていた杖を空にかざし、空いている左手にこれまた先ほど持っていた本を持ち、その本の表紙を俺のほうに向ける。
「今この時よりこの者を我が眷属とし、この者には力を与え、この者からは命をもらう。」
杖の先端が光り輝き、本からは青白い炎が湧き出る。
「隷属契約。」
彼女がそういうと、途端に俺を襲っていた痛みは消え、刺さっていた短剣は俺の中へと吸収されていく。
炎をまとった本は崩れ、その灰が二つの指輪となると、俺と彼女の右手小指にはまる。
「これで契約は完了したわ。さて、何からやってもらおうかしらね。」
「ちょ、ちょっと待て!今のは一体・・・ああもう!なんなんだよこれは!!」
「黙りなさい!」
俺がパニックを起こして騒いでいると、彼女は一言俺に命令する。
すると、まるで口を接着剤で固められたかのように開かなくなり、余計に混乱する。
「落ち着きなさい!姿勢を正しなさい!語尾にニャーをつけなさい!もう黙らなくていいわよ。」
「何を命令してるんニャー。」
次々と命令されることに体が強制的に言うことをきかされ、落ち着きながら姿勢を正して座り、語尾にニャーをつけて反論してしまう。
「なかなかおもしろいわね。やっぱりあと何人か奴隷契約しちゃおうかしら。」
「話を聞いてるのかニャー!」
俺は冷静になりながらもやはり何がどうなっているのか理解できずにいた。もしこの場で理解できるような人がいたら教えてほしい。そしてできることなら変わってほしい。
「理解できたでしょう?あなたの世界で今目の前で起きたこと、そして今自分で体験していること。それを総合して考えたとき、それはあなたの世界ではいったい何を指すのか。」
「そ・・それはニャー・・・。」
認めるしかない。混乱していても冷静になっている今ならこの状況を理解できる。たとえ理屈は理解できなくとも、今置かれている状況がすべてを物語っているし、そもそもさっきから体験していることは俺が知っている常識とはかけ離れすぎている。
そして、夢であるということも恐らくないのだろう。めっちゃ痛かったし。
「魔法・・・。それが俺がここに来た原因ニャー。」
「ようやく認めたのね。まあいいわ。楽しめたし。」
彼女はそう言って俺の頭をなでる。
身長は俺のほうが高いが、座っている俺と立っている彼女では仕方がないだろう。動くこともできないし。
「これからよろしくね。語尾の似合わない奴隷さん。」
「それはお前が命令したんだろうニャーー!!」
正確には肩を落として泣きそうなのを必死でこらえるように顔をしわくちゃにさせながら、俺は帰路についていた。
フラれた。
勇気をもって告白をした俺は、見事に、バッサリ、フラれてしまったのだ。
正直、勝算があったわけじゃない。
競争率は馬鹿みたいに高くて、それでもいまだ誰も落とすことができない難攻不落の城。それが彼女を想う男子みんなが陰でよく言う表現だ。
学年を超えて、もううちの学校で告白したことのないやつはいないんじゃないかってくらい毎日告白されていて、そのくせ一瞬もなびくことなく、即答で、むしろ煩わしそうに、けれど顔は超絶笑顔で、バッサリとフッてしまうのだ。
これだけフラれているやつを見ていれば、高嶺の花として遠巻きから見ているだけにとどめておけば痛い思いをせずに済むものを。
それでも悲しきかな。男はそれほど賢くない。
誰もが自分だけは違うと信じて勇猛果敢に突っ込んでいってしまうのだ。
そして、それは自分も同じだった。
顔はイケメンではないが、平均くらいであると思ってはいるし、性格もいいと隣のおばちゃんからよく褒められるくらいだ。
最近の男子には珍しく買い物などをして食材を調達し、母が時間のないときは料理さえもする。
彼女と普通に話もできていたし、友達くらいの地位は獲得していると思っている。
時々見せられる笑顔に、もしかしたら自分のことを・・・なんて思ったりもしたが。
「ごめんなさい。あなたとは付き合えないわ。」
そうはっきりと言われてしまったのだ。
ああ。思い上がっていた自分を殴り飛ばしてやりたい。
せっかく友達としてくらいは接してもらえていたというのに。周りの男子たちも喉から手が出るほどほしがっていた地位を確立していたというのに。
俺は、それを自分で手放してしまったのだ。
「はあ。もうどこかに消えてひっそりと暮らしたい。」
何もする気力がわかなかった。
もう、どこか遠い場所に行って、このことを忘れて生きていきたい。
「そうだなぁ。山の中で畑とか耕しながら、ゆっくりと余生を過ごしたいもんだな~。」
高校生が何を言っているんだとか言われそうなセリフをつぶやきつつ、家の玄関のカギを開けて、中に入った。
中に入ったはずだった。
けれど気づいたら、そこは全く見知らぬ原っぱだった。
「・・・え?ここどこ?俺・・・そんなにショックだったのかな。」
フラれたショックのあまり幻覚を見ているのかと思い、目を強くこすってもう一度開いてみるも、目の前の状況は一切変わっていなかった。
「なん・・・え?・・どうなってるんだ?」
俺は後ろを振り返ったが、そこにあるはずの玄関の扉は跡形もなく消え去っていて、ただただ周りを木で囲まれた広大な草原があるだけだった。
「意味・・・分かんねえ・・・。」
俺は周囲を見回すが、そこには緑に生い茂っている木々と、ところどころにきれいな花が点在している原っぱがあるだけで、本当に何もない開けた場所だった。
来た道は消え、記憶にない草原のど真ん中に一人。
状況が呑み込めない俺はとりあえず頭を抱えてうずくまる。
「うん。そうだよな。あれだけショックなことがあったんだし、精神に異常をきたしたってなにもおかしくないよな。うん。」
そう呟いて、俺は生い茂る草花に背を預けるように、仰向けにゴロンと寝そべった。
「空・・・高いな~・・・」
さっきまで夕暮れだったはずの空は、自分の心のうちとは真逆に清々しく晴れ渡っていて、真昼のように澄み切った青が隅々までいきわたっていた。
しばらくそのまま寝そべって、深く息を吸い、そのまま吐き出した。
花の蜜のにおいと、草の青臭いにおいと、少し湿った土のにおいとが交じり合って、自分の心を落ち着かせる。
これだけ状況が呑み込めない現在において、慌てふためいても意味はない。
憧れの人はきっとこういう時、こういう考えをして冷静になることに努めるはずだ。
そうして俺はしばらくこの場のさわやかな空気のにおいを楽しむことにして、深呼吸を繰り返す。
目を閉じ、再び開ける。
すると、そこには少女の顔があった。
「・・・わっ!?」
一瞬呆けてしまったが、すぐに異常であると体が反応し、ごろごろと横に転がってその場から遠ざかる。
2メートルくらい離れると、体を起こしてさっきまで寝そべっていたところを見る。
そこには小学4年生くらいの少女がいた。
髪は神々しいくらいに光り輝く銀髪で、目を大きく、瞳は空よりも濃く色鮮やかな青。端正な顔立ちで、まるで精巧に作られた人形のような完璧さだった。
服装はゴスロリチックな黒と赤のドレスで、女の子らしいフリルがふんだんに使われているかわいらしいものだ。胸元には大きな赤色のリボンをつけており、それがまた少女のかわいらしさを引き出していた。
「反応がやや遅いけれど、まあ判断は間違っていないから一応合格としてあげましょうか。」
そんなことを少女が言うと、彼女は先ほどは何も持っていなかった右手にいつの間にか出現した大きく分厚い本を開く。
「えーっと・・・ああ、清水交一(しみずこういち)君ね。歳は17歳で、高校2年生。長男で、下には2つ下の妹と5つ下の弟がいると。」
いきなり言われた個人情報に戸惑いつつも、すべて言い当てた少女への警戒を強めていく。
かわいい顔してなんで俺の情報知ってるんだよ!?ストーカーか?
ほかにも突っ込むところはあるはずだけど、ひとまず俺は彼女がどういう存在なのか、この場所に来てしまったことと何か関係があるのかを注意深く見定めようとする。
「ここに来た理由は・・・あぁ、女の子にフラれたのが原因なのね。」
「なんでそんなことまで知ってんだよ!」
思わず冷静でいられなくなって素で突っ込んでしまった。
まさかフラれたことまで知っているなんて。というか・・・
「ここに来た理由って・・・俺は自分で来たわけじゃないぞ。」
「いいえ。あなたはここに来たいと思って来たのよ。」
俺の反論は真っ向から否定される。その彼女の強い言いきりに俺は二の句を告げずにいた。
「理由はどうあれ、あなたは願ったはずよ。どこか遠くの場所へ、少なくともこの場から消えてしまいたいと、そう強く願っていたはずよ。」
そういわれ、俺は数分前のことを思い出す。確かに、どこかに行きたいと願っていたことを。
しかし、それだけであるとも言える。何か失敗したときに、誰でも一度は考えたことがあるような、そんな逃避のために考える妄想が。
「そ、そんなことでこんなところに来れるわけないだろ!」
「確かに、それだけでは不十分。けれど、今回はそれだけで十分だったのよ。」
「言っている意味が分からないんだけど。」
「私はここで召喚の儀式をしたわ。条件は自分の居場所に未練がなくて、むしろどこか遠くの見知らぬ土地に行きたいと思っている人。それが複数人いた場合はランダムに選ぶ。そういう条件。ね、あてはまるでしょう?」
彼女の返答にそんな馬鹿なと思う自分と、確かにあてはまると思う自分とがいる。
いやいや。落ち着け俺!そんな、召喚だなんて。中二病こじらせるにしてもたいがいだろ!
確かに今はそんなファンタジーな状況下にあるけれども!いや、それで彼女の話をうのみにするわけには・・・・。
「面倒くさい男ね。そんなに疑うのなら見せてあげるわ。」
そういうと彼女は本をぱたりと閉じて手を放すと、本は忽然と消えてしまい、今度は木の棒のようなものが突然出現し、彼女の空いた手に収まる。
いったいどんな手品をと思っていると、彼女はその杖をふいっと上に振る。
途端、彼女と俺の間の地面が隆起し、土の壁となった。
「は、はあ!?」
俺は驚きのあまりしりもちをついて、そのまま後ろに下がる。
彼女は壁を回り込んで再び姿を現す。
「魔法よ。あなたの世界では使えないようだけれど、こっちの世界では使えるの。」
「いや、いやいやいや。これはなんかの冗談だよな!どこかに大掛かりな装置があって、それでこの壁を作って・・・」
「誰がそんな大掛かりな手を使ってまであなたを驚かせなければならないのよ。そんな意味のないことするわけないでしょう?」
確かにそうだ。こんな平々凡々な俺なんかのためにこんなことをする人はいないだろう。けど、けどこんなむちゃくちゃな。ありえない。
「証拠も見せたというのにまだ足りないというの?・・・なら、あなたの身をもって理解するしかないわよね?」
今まで何の表情も浮かべていなかった彼女は言葉の後半から意地悪なことを思いついたいたずら娘のような表情に変わり、次の瞬間、俺の目の前に一瞬でたどり着く。まるで瞬間移動のように突然。
そして、それに驚く暇もなく、俺は心臓を短剣で刺されてしまった。
先ほどまで持っていた杖ではなく、人を痛めつけることを想定して作られた鋸のようなギザギザした両刃の短剣で、俺の胸を刺したのだ。
痛く、冷たく、熱く、不快で。
工作の時に指を切るような、裁縫の時に針で指さすような、歩いていると物の角に足の小指をぶつけるような、そんな痛みとは比べ物にならないほどの強烈な痛みと苦しみ感じ、俺は叫び声をあげて倒れた。
「大丈夫よ。死なないわ。」
「これで・・・死なないわけ・・・・ねえだろ!」
「意外と話せるものなのね、それほど痛みを伴っていても。存外しぶといものね。」
少女の顔にはとても似つかわしくない返り血を滴らせた笑顔は、まるで足を引き抜かれてもがく虫を観察する子供のようで、俺はこれまで感じたことのない恐怖を感じた。
「さて、では始めるとしましょうか。」
彼女は観察をやめて、先ほど手にしていた杖を空にかざし、空いている左手にこれまた先ほど持っていた本を持ち、その本の表紙を俺のほうに向ける。
「今この時よりこの者を我が眷属とし、この者には力を与え、この者からは命をもらう。」
杖の先端が光り輝き、本からは青白い炎が湧き出る。
「隷属契約。」
彼女がそういうと、途端に俺を襲っていた痛みは消え、刺さっていた短剣は俺の中へと吸収されていく。
炎をまとった本は崩れ、その灰が二つの指輪となると、俺と彼女の右手小指にはまる。
「これで契約は完了したわ。さて、何からやってもらおうかしらね。」
「ちょ、ちょっと待て!今のは一体・・・ああもう!なんなんだよこれは!!」
「黙りなさい!」
俺がパニックを起こして騒いでいると、彼女は一言俺に命令する。
すると、まるで口を接着剤で固められたかのように開かなくなり、余計に混乱する。
「落ち着きなさい!姿勢を正しなさい!語尾にニャーをつけなさい!もう黙らなくていいわよ。」
「何を命令してるんニャー。」
次々と命令されることに体が強制的に言うことをきかされ、落ち着きながら姿勢を正して座り、語尾にニャーをつけて反論してしまう。
「なかなかおもしろいわね。やっぱりあと何人か奴隷契約しちゃおうかしら。」
「話を聞いてるのかニャー!」
俺は冷静になりながらもやはり何がどうなっているのか理解できずにいた。もしこの場で理解できるような人がいたら教えてほしい。そしてできることなら変わってほしい。
「理解できたでしょう?あなたの世界で今目の前で起きたこと、そして今自分で体験していること。それを総合して考えたとき、それはあなたの世界ではいったい何を指すのか。」
「そ・・それはニャー・・・。」
認めるしかない。混乱していても冷静になっている今ならこの状況を理解できる。たとえ理屈は理解できなくとも、今置かれている状況がすべてを物語っているし、そもそもさっきから体験していることは俺が知っている常識とはかけ離れすぎている。
そして、夢であるということも恐らくないのだろう。めっちゃ痛かったし。
「魔法・・・。それが俺がここに来た原因ニャー。」
「ようやく認めたのね。まあいいわ。楽しめたし。」
彼女はそう言って俺の頭をなでる。
身長は俺のほうが高いが、座っている俺と立っている彼女では仕方がないだろう。動くこともできないし。
「これからよろしくね。語尾の似合わない奴隷さん。」
「それはお前が命令したんだろうニャーー!!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる