公爵令嬢の取り巻きA

孤子

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第1章

一触即発のレストラン前

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 「何かあったのですか?」

 カティラはレストランの方に目を向けたまま、やや不安そうな表情でエルーナに答える。

 「少しもめそうですね。とはいえ、先に予約を取っていたのは我々です。今回はメルネア様もいらっしゃるので、問題はないでしょう。」

 そういうカティラの顔は反対に面倒事が起こるだろうという確信を持っているようである。アレスはさりげなく前の状況をメルネアの護衛騎士に耳打ちし、心持エルーナの近くへと動いた。それを横目に見ていたミーシャとテレサもエルーナとメルネアを守りやすい位置につく。

 レストランの近くへと歩を進めると、周囲の喧騒に混じって段々と女性の甲高い怒鳴り声が耳に届くようになってきた。その女性の声は聴いた覚えがあり、よりはっきりと声が聞こえるようになってくるころにはエルーナの顔は少しひきつった笑みになっていた。

 (お茶会などで一緒になっても、席が離れていたから最近はほとんど関わってこなかったけれど、参ったな。)

 カティラの後ろに隠れながら、前の方を窺っていると、レストランの入り口付近でもめている人たちが見えた。

 実際に口論になっているのは、そこのレストランの給仕服に赤い布を二の腕あたりに巻いた姿のおじさまと、見るからに貴族令嬢とわかる派手な赤色のドレスを着た少女である。口論とは言っても、少女が一方的におじさまに対して怒鳴り散らしていて、おじさまは言い訳を募るものの、少女はそれを意に介さずにうまく事が進まないことに憤慨しているのである。

 そして、その怒っている理由というのが・・・。

 「だ・か・ら!提示された倍額でもそれ以上でもいいから、私に貸し切らせなさいよ!」

 「い、いえ。うちの店は他の貴族方もご利用される店でございますから、そのような要望を通してしまいますと、他の方々の信頼が・・・。」

 「だから言っているでしょう!後で私がお父様に頼んでその辺のことはきっちりと根回しさせるって!」

 「いや、ですがしかし・・・。」

 こういう具合に、エルーナが貸し切らせているレストランを、少女が横入りさせろと言っており、そのことに首を縦に振らないおじさまに対して怒っているのである。

 エルーナの貸し切ったレストランというのは、おじさまが言っているように貴族が普段利用することもある高級な食事処である。富豪や貴族が予約を入れて席を確保することもしばしば行われており、基本的には予約順であり、予約をレストラン側から反故にされて別の者に売られることなどほぼない。平民などが利用する普通の食事処ならば先着順が基本であるため、予約をしていてもすんなり入れなかったりするのだが、信用がそのまま店の利益につながるような店ではまずないのである。

 また、このような食事処が少ないのかと言えば、そういうこともない。このレストランからそう遠くないところにも何軒かあり、料理の質もそれほど違いはない。メルネアの好みの料理が多くあるということで選んだだけで、ここでなければいけない理由はほとんどないのである。

 にもかかわらず、少女は頑として譲らず、おじさまに対して怒りをあらわにしながら説得、もといい、命令を下しているのである。

 「ねえ、エルーナ。あの方はアンセルバッハ侯爵の御息女よね?」

 後ろから少しだけ不機嫌そうな表情をしたメルネアがエルーナに問いかける。

 「はい。アンセルバッハ侯爵の次女にあたるお方で、ライラ=アンセルバッハです。」

 「そう。それで、あの方はなぜエルーナが予約してくれたレストランに予約をかぶせようとしているのかしら?」

 その声を聞いてようやく理解したエルーナだが、メルネアは少々どころではなく、かなり機嫌が悪くなっているようだった。その目つきは今にも護衛の者を向かわせて捕らえようとしそうなほど剣呑であり、大きな揉め事にしたくないエルーナとしては大いに焦った。

 「彼女に悪気はないのです。あ、いえ、悪気は多分にあると思いますが、それは以前私が・・・。」

 何とかメルネアを説得しようとしていたエルーナだったが、急に怒声が鳴りやんでいることに気づき、そろそろとレストランの方に目を向ける。すると、案の定、少女はエルーナたちの存在に今更ながらに気づき、怒りの炎を瞳に宿しながら護衛を連れてゆっくりとエルーナの方に近づいてきた。
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