25 / 29
第1章
エルーナとライラ 1
しおりを挟む
レストランの中に入ってから食事が終わり、食後のデザートが出て一息つくまで、カトラリーと皿が軽く当たる音、食事のための最低限の動きによる衣擦れの音、料理を運ぶウェイターの足音以外の音がまるでなかった。
つまりは誰も何も言わず、ただ黙って出てきた食事に口をつけるだけであったのである。護衛や侍女は交代しながら別室にて食事をとっているため、そちらではまだ会話があるのだが、エルーナたちがいる部屋は静寂に包まれているのである。
理由はいくつかあるのだが、その最たるものが、ライラがエルーナを、メルネアがライラを敵視しているのからである。
ライラは最初からエルーナへの態度が一貫して悪く、メルネアもそんな態度をとるライラの事が気に入らないわけである。エルーナも最初の内はメルネアをなだめていたのだが、一向に空気が良くなる気配がなく、もとはと言えばライラとの関係が悪いにもかかわらず、事を収めるためにライラも食事に誘った自分が悪いと思い直し、黙っていることにしたのだ。
結果、1時間近く無言の食事が続くことになったわけである。
(空気は最悪。デザートも半ば食べ終わっているというのに会話の「か」の字もしていない。かと言ってうまく話題を提供できる自身もないし。食事が終わって別れるまでこのままかな・・・。)
エルーナがそっとため息を吐いた時、しびれを切らしたメルネアがドンッと大きな音を立てて机を叩き、ライラを睨みつけた。淑女らしからぬその行為に周りはメルネアに釘付けになり、メルネアの侍女は驚きのあまり口をハクハクとさせながらメルネアをなだめようと動く。
けれど、侍女が抑えるよりも早く、メルネアはライラに怒鳴りつけた。
「いい加減にその態度を改めたらどうなのですか?ライラ=アンセルバッハ!」
いきなり怒鳴られたライラは多少驚きはしたものの、他の皆よりは幾分冷静で、怒られたことに対しても少し眉を顰めるくらいの反応しか見せなかった。
「態度、と言いますと?」
冷静に返されたことで少し頭が冷えたメルネアは、浮かせた腰を下ろし、居住まいを正して軽く深呼吸をした。
「・・・エルーナに対する態度です。入り口でもそうでしたが、貴女のエルーナに対する態度はとても貴族の令嬢に相応しいとは思いませんよ。」
エルーナの名前が出た途端、今度はライラの表情がガラッと変わり、怒りの形相をエルーナに向けて静かに答えた。
「メルネア様は彼女の本性を知らないからそうして庇うことができるのです。」
「どういうことですか?」
「エルーナが私にしたことお聞きになれば、すぐにでもメルネア様は目が覚めることでしょう。」
鋭い目つきでじっと見つめられるエルーナは目をそっと伏せた。心当たりがないわけではない。だからこその反応である。
それからライラは一年前の出来事を語り始めた。エルーナとライラの仲が決定的に崩れた、ある日の出来事を。
つまりは誰も何も言わず、ただ黙って出てきた食事に口をつけるだけであったのである。護衛や侍女は交代しながら別室にて食事をとっているため、そちらではまだ会話があるのだが、エルーナたちがいる部屋は静寂に包まれているのである。
理由はいくつかあるのだが、その最たるものが、ライラがエルーナを、メルネアがライラを敵視しているのからである。
ライラは最初からエルーナへの態度が一貫して悪く、メルネアもそんな態度をとるライラの事が気に入らないわけである。エルーナも最初の内はメルネアをなだめていたのだが、一向に空気が良くなる気配がなく、もとはと言えばライラとの関係が悪いにもかかわらず、事を収めるためにライラも食事に誘った自分が悪いと思い直し、黙っていることにしたのだ。
結果、1時間近く無言の食事が続くことになったわけである。
(空気は最悪。デザートも半ば食べ終わっているというのに会話の「か」の字もしていない。かと言ってうまく話題を提供できる自身もないし。食事が終わって別れるまでこのままかな・・・。)
エルーナがそっとため息を吐いた時、しびれを切らしたメルネアがドンッと大きな音を立てて机を叩き、ライラを睨みつけた。淑女らしからぬその行為に周りはメルネアに釘付けになり、メルネアの侍女は驚きのあまり口をハクハクとさせながらメルネアをなだめようと動く。
けれど、侍女が抑えるよりも早く、メルネアはライラに怒鳴りつけた。
「いい加減にその態度を改めたらどうなのですか?ライラ=アンセルバッハ!」
いきなり怒鳴られたライラは多少驚きはしたものの、他の皆よりは幾分冷静で、怒られたことに対しても少し眉を顰めるくらいの反応しか見せなかった。
「態度、と言いますと?」
冷静に返されたことで少し頭が冷えたメルネアは、浮かせた腰を下ろし、居住まいを正して軽く深呼吸をした。
「・・・エルーナに対する態度です。入り口でもそうでしたが、貴女のエルーナに対する態度はとても貴族の令嬢に相応しいとは思いませんよ。」
エルーナの名前が出た途端、今度はライラの表情がガラッと変わり、怒りの形相をエルーナに向けて静かに答えた。
「メルネア様は彼女の本性を知らないからそうして庇うことができるのです。」
「どういうことですか?」
「エルーナが私にしたことお聞きになれば、すぐにでもメルネア様は目が覚めることでしょう。」
鋭い目つきでじっと見つめられるエルーナは目をそっと伏せた。心当たりがないわけではない。だからこその反応である。
それからライラは一年前の出来事を語り始めた。エルーナとライラの仲が決定的に崩れた、ある日の出来事を。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
女神様、もっと早く祝福が欲しかった。
しゃーりん
ファンタジー
アルーサル王国には、女神様からの祝福を授かる者がいる。…ごくたまに。
今回、授かったのは6歳の王女であり、血縁の判定ができる魔力だった。
女神様は国に役立つ魔力を授けてくれる。ということは、血縁が乱れてるってことか?
一人の倫理観が異常な男によって、国中の貴族が混乱するお話です。ご注意下さい。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる