公爵令嬢の取り巻きA

孤子

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第1章

エルーナとライラ 2

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 ライラ=アンセルバッハは、少々我儘な気質ではあったものの、同じ年ごろの幼女と比べて多少というほどであり、基本的には聞き分けの良い立派な令嬢であった。

 貴族令嬢の4歳というと、お披露目の前段階の歳ということもあり、より一層厳しく躾けられるものである。それが原因で親や教育係に反抗することも多くなってくるのだが、ライラは特にそういうことも無く、順調に日々の生活を送っていた。

 このように順調に成長している子供は、お披露目の前に近しい家同士で食事会やお茶会を開き、社交に触れさせることがある。

 ベッセル家とアンセルバッハ家は遠縁にあたり、エルーナとライラは同い年の親戚ということで、何度かお茶会を開いて会っていたのである。

 「ライラはどんなお花が好きですか?」

 「クレアチアというお花が好きですわ。ほら、あそこにも咲いている。」

 「あの赤い小さな花の?」

 「はい。小さな花びらが可愛らしいでしょう?エルーナはどんなお花が好きですか?」

 「私は――。」

 何度か話すうちに仲良くなった二人は親のいない個人的なお茶会も行うようになり、特に問題なく交友を深めていた。

 その日も、エルーナの体調のいい日を選び、ベッセル家の庭でお茶会を開き、温かな春の陽気に照らされながら優雅に過ごしていた。

 「そういえば、エルーナは王子についてお聞きになりまして?」

 「王子というと、数日前に少し騒動があったとか。」

 「ええ。なんでも側室の弟君の子供と言い争いになり、王子は数日の謹慎、側室側の子供は暴力も行ったということで数か月の謹慎になったのだとか。」

 「私が聞いた話では、王子はほとんど相手に返事をしていただけで、ほとんど一方的だったと聞きました。」

 「そうでしたの?王子として厳しく育てられているとは聞きましたが、相手を止められなくても罰を受けるなんて。おいたわしいですわ。」

 「本当に。ですが、そうやって育てられることで、立派な王子へと成長するのでしょうね。」

 最近の話題に触れ、そこで情報を交換する。そんな社交の真似事をしていると、ライラがふと何かに気づき、ゆっくりと周りを見回し始めた。

 「どうかしましたか?」

 「いえ、何か足りないような・・そんな気がして。」

 何が足りないのかわからず、ただどうしても腑に落ちない気持ちで、ライラはよくよく庭を観察した。

 すると、ようやくライラはこの場にない「何か」を見つけた。

 「・・・クレアチア。クレアチアがありませんわ。あのあたりに咲いていたはずなのに。まだ季節的には咲いていてもおかしくありませんのに。」

 ライラは庭について知っているであろう女性に目を向ける。けれど、彼女は少し申し訳なさそうな顔をして目を伏せていた。

 「エルーナ?」

 「ライラ・・・ごめんなさい。あの花はもうここにはないの。」

 ライラが以前好きだと言っていた花。それはもうこのベッセル家の庭には一つも咲いていない。そして、これからも咲くことは無いだろう。

 そう思って、エルーナは目を伏せたのだ。

 「どういうことですの?」

 「この前、庭師の方のお父様がうちの庭を見に来た時に、クレアチアを見つけてしまったの。その時に聞いたのだけど、クレアチアは繁殖力が強く、周りの植物からも力を吸い取ってしまって、他の植物が育たなくなってしまうのですって。だから、それを聞いた庭師が急いで全てのクレアチアを抜いてしまって。」

 「だから、もうクレアチアはないのです。」という言葉を言う前に、ライラは音を立てて席を立った。
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