公爵令嬢の取り巻きA

孤子

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第1章

緊張と不安織りなす優雅な1日 中編

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 庭園の中心地に設けられたガゼボの中でお茶の準備を始める侍女たち。その準備状況を目に入れないように、エルーナとメルネアはゆっくりとした足取りで庭園の中を歩き回っていた。

 貴族はいつも優雅に。これは貴族に仕えている者も例外ではない。

 貴族の傍に仕えられる者はそのほとんどが貴族であるのだが、中には裕福な商人や様々な事情を抱えて従者にせざるを得ない者、貴族が興味を持って取り立てた平民がいることもある。元々が貴族であるものならば当然優雅に行動することを常日頃から考えているために、どんな時でも慌てず無駄のない所作で対応できるが、平民にとってはそれ程きちんとしたマナーを学んでいない者も多い。

 だが、それでは貴族の側に使える者として失格である。貴族の優雅さというものは何も個人だけがこなしていれば良いというものではなく、その者の周囲を含めたすべてに対して心掛けるものである。

 つまり、貴族の下で働く者も、例えどんな事情で仕えることになったのだとしても、仕える対象と同じ、場合によってはそれ以上の貴族らしさを身に着けていなければいけない。

 なので、急にお茶会の予定が入れられて内心慌てていたとしても、それをおくびにも出さずに素早く丁寧に準備を進める必要がある。

 ただ、そもそも直近に予定を入れてあらかじめ準備ができていない状況というものが、貴族としてはあまり好ましくない。事前に相手に予定を伝え、相手側の準備が整ってから本番に臨むというのが常であるが、今回の場合は何の事前連絡もなしに予定が入れられてしまった。それも上位者からの断ることができない提案によって。

 この場合、すぐにお茶会を実行しようとすれば、必ず準備する情景が目に入り、落ち着きながらも慌ただしい行動が見えてしまう。これは非常にまずい。

 なので、直近に予定を入れてしまったメルネアは、準備をさせる側に配慮して、準備を整える時間を設ける必要がある。それもなるべく自然な流れで、言葉にはしないように。

 ということで、メルネアはエルーナと共に庭園の端から、中心地を見ないように、色とりどりの花を眺めて歩いているのである。

 「もう開いている花があるのね。私の家の庭にある花はまだ開きかけのものしかないのに。」

 柔らかな日差しを浴びて薄っすらと輝いているように見える花の花びらをそっと撫でながら、メルネアはそっと息を吐いた。

 エルーナと二人だけである今は、幾分言葉遣いが崩れてしまっても問題がない数少ない時間である。当然近くに護衛の者が侍ってはいるけれど、護衛や侍女などは主要人物がいる中では単なる陰に過ぎない。この場にいる主要人物はメルネアとエルーナだけであるから、この場は私的なものへと変わっているのだ。お互いが了承した中であれば、多少の気安さが出ても口を出されることはない。

 「日当たりがいいからかしら。それとも土がいいからかしら。」

 「確かメルネア様の庭園も、日当たりや土は良かったはずです。違いがあるとすれば・・・。」

 エルーナが違いを考えるために目を伏せるのと、メルネアがため息とともに考えられる答えを口にしたのはほぼ同時だった。

 「魔力でしょうね。」

 魔力。それはエルーナの体を借りてこの世に転生した舩の世界にはなかったもの。そしてこの世界のものならば、例え石ころ一つにだって備わっている、この世界には無くてはならない要素の一つである。

 それがどんなものかを具体的に示すことは難しく、ただ、古くから伝わる呪文や、それを改良して学問とした魔法、より利便性を追求した魔術などの技術によって、魔力を別の何かに変換させて通常では起こせない奇跡を実現することができる。

 そして、人はこの技術を利用して生活を豊かにしていった。家の中の灯り、冷暖房、調理を行うための火、洗い物や洗濯に使う水回り、髪や体を乾かすための風、等々。

 もちろん生活以外にも軍事的に使用しているし、もっと新しい何かを生み出すための研究もなされている。もはや人の生活に魔力は欠かせない力となっているのだ。

 そして、その魔力は場所によって多く存在しているところとそうでないところとが存在する。

 魔力を多く含んだ空気はそこにいるだけで息がしやすくなったような感覚を覚え、それを取り込む草木や動物は活性化する。土に魔力が含まれていれば、栄養を取り込むように草木が魔力を取り込み、通常よりも大きく育ち、実をつける植物ならばその果実は大きく、品質の良いものに仕上がる。

 そして、このベッセル家の庭は、王都でも数少ない魔力が多く存在する場所の一つなのである。ダスクウェル家の庭園が魔力の少ない場所ではないが、比較してみればベッセル家の庭園に植えている花の方が、花が開くのも、元気よく育つのも、美しく育つのも秀でているのだ。

 「土地柄、ベッセル家の庭園の方が住みよい環境というだけで、決してメルネア様の家の庭園が悪いというわけではないのですから、そう気を落とさないでください。」

 エルーナがフォローに入り、メルネアはそれを受けて仕方がないというように肩を竦めてから、気を取り直して微笑む。

 「そろそろお茶会を始めようかしら?」

 メルネアが遠回しに「準備はできたかしら。」と尋ねると、エルーナは遠巻きに見えている護衛に目を向ける。護衛はその意図を理解して一度頷き合図を送ると、エルーナはにっこりと笑って首肯した。

 「ええ、そうしましょう。本日は家で栽培しましたハーブを使ったお茶をご用意していますよ。」

 「今の時期だとカモミレかしら。あれは香りがとても気に入っているの。」

 カモミールによく似たカモミレというハーブを使ったハーブティーを用意していることを聞いて同じく笑みを返すメルネアと一緒に、お茶会の準備を終えているガゼボの方へと向かった。
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