公爵令嬢の取り巻きA

孤子

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第1章

緊張と不安織りなす優雅な1日 前編

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 玄関扉がゆっくりと開かれ、向こう側にメルネアと3名の侍女と2名の騎士、1名の執事が見えた。

 玄関で待機していたエルーナたちはメルネアが家の中に入ってきた段階で揃ってお辞儀し、メルネアからの呼びかけがあるまでそのまま待機する。

 「急な面会にも関わらず快く迎え入れてくれたこと、嬉しく思います。」

 「こちらこそ、こちらから出向き回復の報告をすべきところを、わざわざおいでいただいて誠にありがたきことにございます。ようこそおいで下さいましたメルネア様。」

 エルーナが先頭に立ってお辞儀したなかなおも深く頭を下げる。メルネアの目的がエルーナであるため、当人が挨拶を返すのがこの国の慣習である。

 「顔を上げて頂戴エルーナ。あなたの顔をもっとよく見せて。」

 エルーナの傍に近寄りながらメルネアは顔を上げるように言う。その呼びかけはエルーナに向けたものなので、エルーナ以外はお辞儀のままで、エルーナだけがメルネアに顔を合わせる。

 「もう体調もすっかり治りました。・・・病に伏す以前よりも体力が衰えてしまっていますが。」

 「そうね。顔色は元に戻っているようだけれど、体はすっかり痩せてしまっているようね。しっかり食べているの?」

 メルネアは顔色を確認した後は体のあちらこちらを見て手や足の細さに目を細める。

 エルーナは順調に体を元に戻している段階ではあるが、痩せ細ってしまった体を元に戻すのは少し時間がかかる。病気にかかってから随分経ち、その間は食が急激に細くなった。その期間が長くなり、胃がかなり小さくなってしまったために、限界まで食べても太るための分ほども食べることができず、結果、太るために胃を広げるという所から始めているところだ。

 痩せてしまった体は顔色が良くてもやはり健康的には見えない。そのために回復したことを報告する訪問は少し遅らせた方がいいという考えだったのだ。

 「今はきちんと食べてはいるのですが、まだそれ程食べることができていないのです。」

 「そうですか。焦らずゆっくり体を戻すのですよ。また体調が悪くなってしまうことは許しませんからね。」

 「肝に銘じておきます。」

 エルーナが微笑むと、メルネアもそれに応じて笑った。

 「歓迎の準備ができております。もうお昼ですから、食堂の方へ参りませんか?」

 「急かせてしまったから準備も大変だったでしょう?皆様、面を上げてください。昼食にいたしましょう。」

 お辞儀したままだった全員が顔を上げ、家主であるエドワルドとカトリーナを先頭にして食堂へと向かう。屋敷の侍女が扉を開いて中に入ると、メルネアを机の短辺にある上座に座り、長辺の右側にエドワルドとカトリーナ、左側にエルーナが座る。メルネアの側近は全員メルネアの後ろに控え、屋敷の侍女は給仕のために急いで、しかし優雅に落ち着いて席に座る彼女らの配膳を整える。

 最初の料理が出されれば、食前の祈りをささげて食事がはじめられた。今日の昼食はこの家ではあまり出されることのない高級な肉料理で、牛に近い家畜の良質な部位をビーフシチューのようにソースの中でじっくり煮込んだ料理で、平皿に盛られた肉はフォークを軽く当てただけでスッと切れてしまうほどに柔らかかった。切り分けた後はスプーンに持ち替えて、フォークを使ってスプーンの上に掬い上げてしまわないと崩れてしまうほどにホロホロで、メルネアは慣れた動作で口に運ぶとわずかに頬を緩める。

 「美味しいですね。これだけの料理を出すのには大変な無理をしたのではないですか?」

 メルネアの口から「美味しい」という言葉を引き出せたことにベッセル家の一同が内心でホッとした。そしてメルネアへの返答には何でもないという風を装ってエドワルドが答える。

 「急ではございましたが、私たちはいつ何時でも客人への十分な歓迎が行えるように準備しております。メルネア様がお気になさるようなことはありません。」

 エドワルドの言葉はもちろん嘘である。

 こうやってうまく歓迎の準備を整えられた背景には白鳥が優雅に水を漂うために水面下で足を必死で動かしているのと同じように、ベッセル家も人に見られないところでは大慌てで準備を進めていた。今回の料理に使う肉料理、それに沿える野菜料理、後で出てくるメインを作るために使った材料も、執事と侍女と使用人があちらこちらに向かって搔き集めてきたものである。下働きで普段は雑用しか与えられていないような者にまで掃除やおつかいに走らせたほどに余裕がなかった。

 しかし、貴族とは見栄を張って何でもない顔をして常に余裕を持ち、優雅にこなさなければならない。それが例え相手にもバレバレな苦し紛れの事態であったとしても、それを表に出さないことを求められるのである。

 当然メルネアはそのことを十分理解している。理解しているがゆえに、メルネアは「そうですか。」というだけで深く追求しようとはせず、黙って食事を続ける。

 エルーナらも食事をはじめ、昼食はこれと言って何事もなく終わった。

 「エルーナ。この後はお庭でお茶でもどうかしら?」

 「喜んでお受けいたします。」

 そうして昼食後は庭でお茶をすることになったのだが、エルーナは笑顔の内で少しばかり焦っていた。

 (あれ、何度かお茶会もして、いろいろと話したりしていたはずなのに、普段どんな話をしていたのか全然思い出せないよ?!)

 メルネアとは親しい友人であり、エルーナに託されるほどの重要人物であるはずなのに、細かい記憶が思い出せないという状況に多大な不安を抱きながら、二人だけのお茶会が始まるのだった。
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