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01.気づいたらここにいたんですが!?

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「え……?なんだこれ……夢か?」
俺は今まで、会社のデスクに座っていたはずだった。

それが今、どう見ても別世界に突っ立っていた。
目の前には大きなお城があり、高い城壁が周りを囲んでいる。周辺には綺麗に手入れされた花々や木々があった。
まるで、ゲームの世界に出てくるお城の庭のようだ。

「なんでいきなりこんなところに……」
俺は辺りを見渡す。すると、少し離れたところにいる兵士のような男と目が合った。
「貴様、どこから入ってきた!?」
「侵入者だ!捕まえろ!」
兵士のような格好をした男達が一斉に近づいてくる。
「いやいや、ちょっと待ってください!気づいたらここにいたんですよ……!」
俺は兵士に囲まれて、槍のような武器を向けられていた。いくら夢だとしても、武器で刺されたりしたくない。
それに、万が一夢じゃなかったら……。

「お前は誰だ!?どこから入ってきた!」
兵士達のリーダーらしき男が叫ぶ。
「だから、気づいたらここにいたんですってば!」
そうとしか言いようがない……。
「何を言っているんだ!怪しい奴め!」
リーダー兵士は剣を抜いて斬りかかってきた。
「ちょっ!危ないですよ!話を聞いて下さい!」
俺は慌てて避ける。と、その時。

「何を騒いでいるのだ!」
遠くの方から男の声が聞こえた。

「これは、アルベール様!」
リーダー兵士は声の主を見て頭を下げる。
どうやら偉い人が来たようだ。ひとまず助かった……。俺は少し安心した。
しかし、その安心はすぐに崩れ去ることになる。
なぜなら、現れた人物がアルベール王子だったからだ。

アルベール王子とは、俺が学生時代によく遊んでいたゲーム「グランクエスト」に出てきたキャラクターである。
金髪碧眼で背が高く、イケメンというより美男子といった感じで、どこか中性的な雰囲気がある、女性に人気のキャラクターだ。
そのゲームのイラストのイメージそのままの人物が、目の前に立っていたのだ。
俺は驚きすぎて言葉を失った。

――つまり、この世界はそのゲームの世界と考えられる。
夢かもしれないという望みはもうほぼ消えていた。なぜなら、さっき兵士の攻撃を避けて転んだ時、かなり痛かったからだ。

これはまさか……いわゆる異世界転生とかいうやつか?俺死んだ覚えはないんだけど……。


俺、有馬ありまみのるは、23歳、会社員だ。
それなりに生きてきて、それなりの大学に通って、そこそこ有名な会社に入社した。
その会社が問題で、業務量が多すぎて毎日のように残業、時々徹夜、休日出勤も有りという状態だった。
しかし、お給料は新卒とは思えないほど多く、残業手当も10分単位でしっかりと出る。
同僚たちは「なんてホワイトな会社なんだ~」とか言っていたが、いくらお給料がしっかりしていても業務時間が多すぎるのはブラックなのでは……とずっと思っていた。ブラック微糖くらいかもしれないが。
そんな会社で、俺はさっきまで徹夜で作業をしているところだったのだ。急な眠気が襲ってきて、パソコンの前で少しうとうとしかけた瞬間、ここにいたのである。
もしかしたら過労死したんだろうか……。
しかし、なぜだか死んだ気はしていない。
もし転生したのであれば、新たな肉体を手に入れていると思うのだ。
だが、この身体は、疲労が溜まっていて、今すぐ仮眠を取りたい限界な状態である。服も、さっきまで着ていたワイシャツとスラックスそのままだ。まぎれもなく今までの自分の身体だと思う。
それならば、これは異世界転移というやつかもしれない。

疲れ切った頭でそんなことを考えていると、アルベール王子と兵士が何かを話し始めた。
「彼は何者だ?」
「はっ!気がついたら城の中にいたらしく、怪しいと思い尋問していたところです!」
リーダー兵士が答える。
「ふむ……確かに見たことがない顔だな。黒髪も珍しい」
王子がこちらを見た。
「私はこのラルジュ王国の王子、アルベールだ。君の名前は何だ?」
王子が話しかけてくる。どうしよう。本名を言うべきだろうか。しかし、日本人の名前は分かりにくいかもしれない。ここは無難に下の名前だけ答えておくことにする。
「ミノルと言います」
「ミノルか。いい名だね」
すると、彼は満足そうに微笑みながら言った。
さっきの兵士たちと違って、なんだか好意的だ……。王子たるものの余裕だろうか。

アルベール王子は、近くで見ると本当に綺麗な顔をしていた。
目鼻立ちがくっきりしていて、瞳は大きくて吸い込まれそうなほど透き通っている。
金髪の長い髪を後ろで束ねていて、まさに絵本に出てくるような王子様という言葉がよく似合う容姿をしているのだ。
あまりの美しさに見惚れてしまいそうになるが、この状況はまずいと思い視線をそらす。
すると、王子が口を開いた。
「ミノルはどうしてこの場所に来たんだい?」
「それが、全く分かりません。俺はこの世界の人間ではないのです」
信じてもらえるかは分からないが、ここは正直に話すしかないだろう。
「この国の民でないということかい?」
「いえ、そういうわけではなくてですね……」
俺は必死に説明する。

「――つまり、君は別の世界から来たと言っているわけだね」
「はい、そうです」
なんとか理解してくれたみたいだ。良かった。
「なるほど……それは面白いではないか!」
王子は俺の話を聞いて目をキラキラさせている。
「私は君に興味がある!私の部屋へ来てくれ!」
やたらと興味を持たれてしまった。
とりあえず命は助かったが、これはこれで面倒くさい展開になりそうだ……。
とはいえ、他に選択肢はないので、仕方なく王子について行くことにした。
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