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【02】人生最悪の更新、止まらないんですが
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広々とした大広間に、厳かな空気が漂う。
高い天井には荘厳なシャンデリアが輝き、その灯りが大理石の床に静かな光を落としている。
壁際には、エルダリス王国の王族や高位貴族たち、そしてヴァルグラッド側の立会人として、アルヴィスと一緒にやって来た従者たちが並んでいた。
場違いなくらいに格式張った雰囲気。
(……いや、これはもう……本気のやつだな……)
まだ現実味が湧かないまま、僕は正面の祭壇を見つめた。そこには神官が立ち、神聖な面持ちで手にした聖典を静かに開いている。
そして、すぐ隣には――
「……おい、本当にやるのかよ、これ」
アルヴィスが、あからさまに不満そうな顔で腕を組んでいた。僕は思わず、じとっとした視線を向ける。
「今さら何を言ってるんですか……。貴方が突然来たせいで、今やることになったんでしょう?」
そもそも、文句を言いたいのはこっちだ。まったく、何も考えずに乗り込んできたかと思えば、被害者みたいな顔をするなんて――。
僕だって、こんな形で人生最大の決断を下されるとは思っていなかった。
「――これより、ヴァルグラッド王国第一王子アルヴィス殿下と、エルダリス王国第一王子セリオス殿下の婚姻の儀を執り行います」
神官の静かな声が響き、広間の空気がさらに引き締まる。僕の胃が、ぎゅっと縮み上がるのを感じた。
(は、始まってしまった……!)
もう逃げられない。
いや、正確には、逃げようとしたところで父上に押さえ込まれる未来しか見えない。
「誓約の儀に入ります」
神官が合図すると、従者たちが僕たちの前に小さな台を運んできた。その上には、エルダリスとヴァルグラッド、二国の王族に代々受け継がれる誓約の指輪が並べられている。
「王族の婚姻は、神への誓い。指輪を交わした瞬間、お二人の魂は神の加護のもと、永遠に結ばれます」
「……なっ!?」
思わず変な声が出た。いや、今、なんて言った?
「えい……えん……?」
口に出してみたものの、意味がうまく飲み込めない。えいえんって……なんだっけ?食べ物だったかな?まさか……永遠……?いやいやそんなまさか……。
「誓約の指輪を交わした場合、いかなる理由があっても解消はできません。死別を除き、一生を共にすることになります」
(……これ、マジのやつだー!!)
思考が一瞬で崩壊した。血の気が引くどころの話ではない。
王家の婚姻に誓約の指輪――たしかに、そんな話を昔聞いたことがあったような気がする。けれど、伝承の一つか、あるいはもう廃れた古い習慣だとばかり……。まさか、現役で運用されているなんて思ってもみなかった。
せめて、せめて形だけの結婚ならばと淡い期待を抱いていたのに――。
そんな僕の気持ちとは関係なく、婚姻の儀は滞りなく進行していく。
「ヴァルグラッド王国の王子、アルヴィス殿下。貴殿はこの誓約を受け入れますか?」
神官がアルヴィスに問いかける。アルヴィスは短く息をつき、僕の方をちらりと見た。
金の瞳が、真っ直ぐにこちらを射抜く。その目に宿る感情は、読めない。
(……なんだ……なんか言いたげな顔……)
一瞬の間の後、彼は口を開いた。
「……ああ、誓約する」
その言葉が広間に響き渡る。神官が満足げに頷き、今度は僕に視線を向けた。
「エルダリス王国の王子、セリオス殿下。貴殿はこの誓約を受け入れますか?」
喉が、ひくりと鳴る。
(……ここで拒んだら、どうなるんだろう)
そんな考えが、一瞬よぎった。けれど、答えはわかりきっている。
「嫌です」なんて言えるはずがない。
父上が許すわけもないし、そもそもこの結婚は国家間の盟約そのもの。僕が誓約を拒めば、それはつまり――。
ほんの数秒の沈黙が、やけに長く感じた。深く息を吸い込み、言葉を紡ぐ。
「……誓約、します」
その瞬間、広間にまばゆい光が満ちた。
(なっ……!?)
驚く間もなく、僕とアルヴィスの身体を神聖な光の輪が包む。まるで、神がこの誓いを刻みつけようとしているかのように。
「では――指輪の交換を」
神官の声が響いた。
「……えっと、それ、やっぱりやらないとダメ?」
思わず口をついて出た言葉に、広間の空気がピシリと凍る。
神官は一瞬まばたきし、まるで幼子に物事の道理を説くように優しく微笑んだ。
「ええ。指輪の交換をもって、誓約は神に認められます」
「……他に、なんか……こう、別の方法とか……」
「ありません」
「たとえば、こう……気持ちだけでも……とか?」
「指輪を交わさなければ誓約は無効です」
「……」
横を見ると、アルヴィスも同じく渋い顔をしていた。
お互いに言葉を失ったまま沈黙していると、無情にも神官の声が響く。
「では――永遠の誓約を交わす、指輪の交換を」
わざわざ強調された。なんなら、さっきより語感が重い。
――こんな短時間で、人生最悪記録を塗り替え続けることって、ある?
高い天井には荘厳なシャンデリアが輝き、その灯りが大理石の床に静かな光を落としている。
壁際には、エルダリス王国の王族や高位貴族たち、そしてヴァルグラッド側の立会人として、アルヴィスと一緒にやって来た従者たちが並んでいた。
場違いなくらいに格式張った雰囲気。
(……いや、これはもう……本気のやつだな……)
まだ現実味が湧かないまま、僕は正面の祭壇を見つめた。そこには神官が立ち、神聖な面持ちで手にした聖典を静かに開いている。
そして、すぐ隣には――
「……おい、本当にやるのかよ、これ」
アルヴィスが、あからさまに不満そうな顔で腕を組んでいた。僕は思わず、じとっとした視線を向ける。
「今さら何を言ってるんですか……。貴方が突然来たせいで、今やることになったんでしょう?」
そもそも、文句を言いたいのはこっちだ。まったく、何も考えずに乗り込んできたかと思えば、被害者みたいな顔をするなんて――。
僕だって、こんな形で人生最大の決断を下されるとは思っていなかった。
「――これより、ヴァルグラッド王国第一王子アルヴィス殿下と、エルダリス王国第一王子セリオス殿下の婚姻の儀を執り行います」
神官の静かな声が響き、広間の空気がさらに引き締まる。僕の胃が、ぎゅっと縮み上がるのを感じた。
(は、始まってしまった……!)
もう逃げられない。
いや、正確には、逃げようとしたところで父上に押さえ込まれる未来しか見えない。
「誓約の儀に入ります」
神官が合図すると、従者たちが僕たちの前に小さな台を運んできた。その上には、エルダリスとヴァルグラッド、二国の王族に代々受け継がれる誓約の指輪が並べられている。
「王族の婚姻は、神への誓い。指輪を交わした瞬間、お二人の魂は神の加護のもと、永遠に結ばれます」
「……なっ!?」
思わず変な声が出た。いや、今、なんて言った?
「えい……えん……?」
口に出してみたものの、意味がうまく飲み込めない。えいえんって……なんだっけ?食べ物だったかな?まさか……永遠……?いやいやそんなまさか……。
「誓約の指輪を交わした場合、いかなる理由があっても解消はできません。死別を除き、一生を共にすることになります」
(……これ、マジのやつだー!!)
思考が一瞬で崩壊した。血の気が引くどころの話ではない。
王家の婚姻に誓約の指輪――たしかに、そんな話を昔聞いたことがあったような気がする。けれど、伝承の一つか、あるいはもう廃れた古い習慣だとばかり……。まさか、現役で運用されているなんて思ってもみなかった。
せめて、せめて形だけの結婚ならばと淡い期待を抱いていたのに――。
そんな僕の気持ちとは関係なく、婚姻の儀は滞りなく進行していく。
「ヴァルグラッド王国の王子、アルヴィス殿下。貴殿はこの誓約を受け入れますか?」
神官がアルヴィスに問いかける。アルヴィスは短く息をつき、僕の方をちらりと見た。
金の瞳が、真っ直ぐにこちらを射抜く。その目に宿る感情は、読めない。
(……なんだ……なんか言いたげな顔……)
一瞬の間の後、彼は口を開いた。
「……ああ、誓約する」
その言葉が広間に響き渡る。神官が満足げに頷き、今度は僕に視線を向けた。
「エルダリス王国の王子、セリオス殿下。貴殿はこの誓約を受け入れますか?」
喉が、ひくりと鳴る。
(……ここで拒んだら、どうなるんだろう)
そんな考えが、一瞬よぎった。けれど、答えはわかりきっている。
「嫌です」なんて言えるはずがない。
父上が許すわけもないし、そもそもこの結婚は国家間の盟約そのもの。僕が誓約を拒めば、それはつまり――。
ほんの数秒の沈黙が、やけに長く感じた。深く息を吸い込み、言葉を紡ぐ。
「……誓約、します」
その瞬間、広間にまばゆい光が満ちた。
(なっ……!?)
驚く間もなく、僕とアルヴィスの身体を神聖な光の輪が包む。まるで、神がこの誓いを刻みつけようとしているかのように。
「では――指輪の交換を」
神官の声が響いた。
「……えっと、それ、やっぱりやらないとダメ?」
思わず口をついて出た言葉に、広間の空気がピシリと凍る。
神官は一瞬まばたきし、まるで幼子に物事の道理を説くように優しく微笑んだ。
「ええ。指輪の交換をもって、誓約は神に認められます」
「……他に、なんか……こう、別の方法とか……」
「ありません」
「たとえば、こう……気持ちだけでも……とか?」
「指輪を交わさなければ誓約は無効です」
「……」
横を見ると、アルヴィスも同じく渋い顔をしていた。
お互いに言葉を失ったまま沈黙していると、無情にも神官の声が響く。
「では――永遠の誓約を交わす、指輪の交換を」
わざわざ強調された。なんなら、さっきより語感が重い。
――こんな短時間で、人生最悪記録を塗り替え続けることって、ある?
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