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03☆土下座アイドル

「……で、何か言いたいことは?」
「た……大変……申し訳ございませんでした……」
僕は大っ嫌いな男の部屋で、ただただ土下座をしていた……。


なんとか婚約の阻止をしようとした僕は、よりにもよって、とんでもないことを口走ってしまった。
あの時のスタジオの空気といったら。気まずいなんてもんじゃない。まるで時が止まったかのようにシーンとしていた。
その後、すぐに撮影は再開されたのだが、僕は生きた心地がしなかった。十夜の顔を見ることが出来ず、終始俯いていた。
撮影が終わり、気づいた時にはコイツの家に連れて来られて、今に至る。

どうして僕は、コイツと付き合っているなんて言ってしまったのだろう。
しかも、さっきの女性についての真相を聞いて、更に後悔することになった。

彼女は水木プロデューサー――僕達をデビュー当時からサポートしてくれている敏腕プロデューサーの、娘さんだったのだ。
「ミズキ」は名前ではなくて名字だった。
彼女は恋人との婚約が決まり、婚約指輪を注文に行った店が、たまたま十夜の実家だったらしい。
世間には公表していないが、十夜の実家はジュエリーショップなのだ。
普段は家の仕事には関わらない十夜だが、お世話になっているプロデューサーの娘さんということで、オーダーメイドのデザインなど、相談に乗っていたということだった。

早とちりして余計なことを言ってしまった、さっきの自分を殴りたい。
プロデューサーの娘さんにも失礼なことをしてしまったし、あの場にはスタッフも大勢いた。
しかも、よりによって今日は雑誌の取材も来ていたのだ。あの出版社はゴシップ週刊誌も発行しているところだから、注意するようにマネージャーに言われていたのに。きっと、近いうちに記事にされて、世間に広まるだろう。そうなれば大騒ぎだ。
ああ……終わった……。もうクビだ。クビに違いない……。
「これから先、どうやって生きていこう……」
つい声に出して絶望に打ちひしがれていると、十夜が口を開く。
「光輝、こうなったらもう、腹を括るしかないな」
「えっ!?どういうこと?」
驚いて顔を上げると、目の前に真剣な表情をした十夜がいた。その迫力に押されてゴクリと唾を飲み込む。
「俺達、付き合おう」
「……へっ?」
何を言われたのか理解出来ず、僕は固まった。
なんだ?今、何て言ったんだ?ツキアオウ?何を?あ、お餅つきかな?もうお正月は大分過ぎてるけどなぁ。
口を開けてぽかんとしながらお餅のことを考えていると、十夜に手を握られる。
「光輝……」
熱く囁くように名前を呼ばれ、ドキドキして動くことができない。目の前の男は、真剣な顔で僕を見つめている。
どうしてコイツはそんな目で僕を見ているんだろう、と回らない頭で考えるが、理解が追い付かない。
「俺とお前は、今日から恋人同士だ」
「はい……」
頭がぼうっとして無意識に返事をした瞬間、コイツの顔はいつも通りになり、手を離された。
「じゃあ、すぐに事務所に報告しよう」
仕事中のようなハキハキした声を聞いて、僕は我にかえる。
「いや、待って、付き合う!?恋人!?」
さすがにお餅つきの話ではなかったと分かったが、何をどうしたらそんな展開になるのか。
「俺達が本当に真剣に付き合っているなら、何も問題ないだろう?」
「いや……問題あるよな!?」
男同士だし、同じグループのメンバー同士だし、そもそも仲も悪いし……。
「正直に嘘だったって言う方がまだ……」
「水木さんに嘘を言ったって、言うのか?」
そうだった。よりによってプロデューサーの娘さんに向かって言ってしまったんだった。
どう転んでもダメなこの状況では、確かに、真剣にお付き合いをしていると先に公表する方がだいぶマシなのかもしれない。
「俺達のファンは、ふじょし?っていう男同士が仲良くしているのが好きな層も多いって聞くし、受け入れてもらえるんじゃないかな」
「それは確かにそうだよな……」
それもあって、今回の撮影も絡みが必須だったのだ。もちろん、こういうことが苦手なファンもいるだろうけれど、週刊誌に好き勝手なことを書かれるよりは良いだろう。
「……分かった……そうしよう」
僕がうなだれて認めると、手が差し出される。
「じゃあ、これからは恋人として、よろしくな」
握手をしながら、恋人ってこういうものだっけ……と、ぼーっと考えていた。
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