騎士団長の秘密の部屋に匿われています!?

krm

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║26║愛と未来のために、僕の決意

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昼下がりの光が、やわらかく部屋を満たしていた。
使者と話した後の張り詰めていた空気が、ようやく和らぐ。グレンの胸にもたれていた体を起こし、そっと置いていかれた封書に手を伸ばした。
王都の紋章が刻まれた封蝋を割ると、懐かしい筆跡が目に入る。
兄上たちの文字だ。その一文字ごとに、僕を案じる息遣いが滲んでいる気がする。
「……兄上たちが、僕に託そうとしてるのは、きっと……王都を、父上を止める力だ」
口に出すと、胸の奥がずしりと重くなった。
怖い。正直に言えば、怖くてたまらない。
昨日のことを思い出す。自分の魔力が制御できず、すべてを傷つけてしまいそうになった。
兄上たちの期待が、僕には大きすぎるような気がする。
「でも……僕、逃げていたくない。ずっとこのままじゃ、グレンと一緒にいられる未来だって、奪われるかもしれない」
勇気を出して、グレンの瞳を見つめた。
「グレン、僕――父上に会いに行く。王都に戻って、ちゃんと、終わらせたい」
グレンの表情が揺れる。
「……危険です。あの方は、ここへ刺客を差し向けるような人です。そんな相手の前に立てば、どんな仕打ちを受けるか……想像もできません」
「うん。……でも、もう逃げていたくない。兄上たちだって、すでに動き出してる。僕だけが、見ないふりなんてできないよ」
「……殿下」
グレンが僕を呼ぶ声は、どこか苦しげだった。
「本当は、止めたいんです。殿下を危険に近づけたくない。そのためなら、私はどんな手でも使うでしょう……でも――」
彼の瞳は揺るがず、まっすぐに僕を見つめる。
「殿下の決意を、私が否定することはできません。だからせめて……その道を共に歩ませてください」
グレンは静かに膝をつき、僕の手を取った。
「王都に向かう時も、父王と対峙するその瞬間も、私は必ず殿下の隣にいます」
「……うん。ありがとう、グレン」
心の底からの言葉だった。不安も恐怖もあるけれど、グレンがいるから、僕は前を向ける。
「でも、その前にちゃんと準備しよう。魔力のことだって、まだ安定しているとは言えないし……グレンの怪我も、完全には癒えてないし」
「準備、ですね。……ガルドたちにも協力してもらいましょう。あの方たちなら、頼りになります」
「うん……そうしよう」
覚悟を胸に、僕たちは静かに立ち上がった。
長い逃避行の先でようやく見えた、終わらせるべき現実。
この先は決して穏やかではないけれど、それでも今、僕たちの手はしっかりと繋がっていた。

それからの数日は、慌ただしく過ぎていった。みんなで作戦会議を重ね、必要な準備を進めながら、ひとつひとつ確かめていく。
ガルドたちは相変わらず頼もしく、魔道具の準備や王都までの潜入ルートの検討、奇襲時の武器の整備など、手際よく動いてくれていた。

そして――王都へ戻る前日の夜。
最後の作戦会議を終えた隠れ家は、静かな灯りに包まれていた。
「準備は順調だ。あとは……お前らが、ちゃんと休めるかどうか、だな」
そう言ってにやりと笑ったガルドは、グレンと僕をちらりと一瞥し、何かを察したように肩をすくめて隠れ家を出ていった。
部屋には、グレンと僕だけが残されている。薄暗い灯りの中、グレンは静かにベッドへ腰掛けていた。
少しの間、その背中を見つめていると、彼がゆっくりとこちらを振り返る。
「……魔力の具合は、どうですか?」
「うん……暴走しそうってほどじゃないけど、少し、内側が熱いかも」
言いながら、自分の下腹部に手を当てる。
そこには、淡く残る鼓動――そして、グレンと触れ合った夜の記憶が、まだ体の奥にくすぶっていた。
「……では、今夜もしっかり、整えておきましょうか」
そう言った彼の瞳は、見つめられただけで溶けてしまいそうなほど、熱を宿していた。一瞬、胸がきゅっと詰まる。頭では必要なことだとわかっているのに、顔が勝手に熱くなってしまう。
「……うん」
小さな声で答えるのがやっとで、視線も合わせられない。
それでも頷いた僕を見て、グレンは静かに手を伸ばし、大きな掌でそっと僕の頬を包み込んだ。
触れた指先から、あたたかな魔力が流れ込んできて――でもそれ以上に、彼の想いが、優しさが、静かに染みてくる。胸の奥が熱に包まれるのを感じながら、僕はそっと目を閉じた。
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