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║29║お願いです、見なかったことにしてください!
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優雅な旋律が流れる広間。にぎやかな談笑の輪から少し離れた一角で、僕はようやく肩の力を抜き、彼の体温に寄りかかるようにほっと息をついた。
グレンは何も言わずに僕の肩を抱き寄せ、ほんのわずかに身体を寄せてくる。まるで、これ以上僕に近づく者は許さないと言わんばかりに。
(……やっぱりさっきの青年貴族のこと、気にしてたのかな)
焼きもち……なのかはわからないけど、さりげないしぐさのひとつひとつが、妙に優しくて、あったかくて。
「ダーリン、ちょっと……今度は近すぎるんじゃない?」
そう言いつつも、僕の声はどこか嬉しそうで、グレンも微笑を浮かべたまま、そっと僕の髪を指先で整えた。
「ハニーが可愛すぎるので」
「……もう、それやめてってば」
そんなやり取りを交わしていると。
「……なるほど。随分と楽しそうじゃないか」
「予想以上に馴染んでるねぇ。まるで本物の夫婦みたいだ」
聞き覚えのある落ち着いた声が、すぐ後ろから聞こえた。
慌てて振り向くと、そこには――
「あ……!」
長身で凛々しい顔立ち。整えられた銀の髪と、品位のある立ち居振る舞い。
そしてその隣には、やわらかい金髪と優しげな眼差しを持つもう一人。
間違いない。僕の兄、第一王子クラウディオ兄上と、第二王子レオニス兄上だ。
「お、お兄様方……!?ど、どうしてここに……!」
「なに、少し気になる報告があってな。王宮内で見慣れない『仲睦まじいご夫婦』がいると聞いて、確認に来たのだ」
クラウディオ兄上が静かに言い放つ。その目が、まっすぐ僕とグレンを見据えていた。
「アストルがこんなに甘え上手だったなんて知らなかったなぁ。あ、いや、奥様だったかな?」
レオニス兄上がにこにこと言いながら、楽しげに僕を覗き込んでくる。
「っ……ち、違いますっ!これは、その、任務のための変装で……っ」
顔が熱くなっていくのがわかった。けれど兄たちは、まるで僕が小さな子どもだった頃のように微笑んでいて、どこか安心するような、不思議な気持ちになる。
「はいはい、任務ね。わかっているよ。ちゃんと事情は聞いているから、安心なさい」
レオニス兄上がそっと肩に触れてくれる。その手はやさしくて、兄弟としての温かさを思い出させる。
「グレンもご苦労だった。……よくアストルを守ってくれたな」
クラウディオ兄上がグレンに向かって深くうなずく。グレンも軽く頭を下げた。
「もちろんです。私の大切な――ハニーですから」
その瞬間、兄たちの目がぴくりと動く。
や、やばい、言った……グレン、今「ハニー」って言った……!
「……お前たち、思った以上に役になりきっているようだな」
クラウディオ兄上が、ほんのわずかに口元を引き締めて言う。真面目な顔を保とうとしているのはわかるけれど――その実、込み上げる笑いをどうにか押さえているように見えた。
その横で、レオニス兄上が肩を震わせながら笑い出す。
「ふふっ、可愛い弟の新しい一面が見られて、兄としてはとても満足だなぁ」
「や、やめてくださいぃぃっ!」
顔が真っ赤になっていくのが自分でわかった。レオニス兄上は面白がるように笑っているし、クラウディオ兄上も、ほんの少しだけ――結局は堪えきれずに、口元を緩ませている。
が、その後すぐ、ほんのわずかその表情に違う色が宿った気がした。
「……しかし、二人の姿を見て確信した。まさか本当に、城まで潜入してくるとはな」
クラウディオ兄上の言葉に、僕は思わず息をのむ。
「……信じて、待っていてくださったんですね」
そう呟くと、クラウディオ兄上は静かにうなずく。
「……お前の力を狙う王の動きは、日に日に露骨になっている。これ以上、宮廷に関われば、アストル、お前は――」
「捕らえられてしまうだろうね。そしてその魔力は、世界に向けた力の誇示として利用される」
レオニス兄上のやわらかな声が、逆に言葉の重みを際立たせた。
「つまり……脅威として……」
言葉にした途端、胸の奥が冷たくなる。兄上たちは、その思いを代弁するように静かに視線を向けてきた。
「僕たちはね、父王がそんな手段で国を支配しようとしていることに、強く反対している。だからこそ……本当はアストルには遠くに逃げていてほしかったんだけど……」
「まさか、潜入してくるとはな。だが、来てしまった以上……お前が選んだ道を、止めるつもりはない」
クラウディオ兄上が視線をグレンへ向ける。
「グレン。アストルを守り抜いてくれ」
「もちろんです。……殿下を、絶対に王に渡しません」
グレンの声は低く、確信に満ちていた。何の迷いもないその響きに、胸がじんわりと温かくなる。
「ふふ……本当に頼もしい旦那様だな。アストル、良かったね」
レオニス兄上が、ふわりとした笑みを浮かべる。その声音には優しさと、ほんの少しのからかいが混じっていた。
「だ、旦那様じゃないです……っ」
思わず頬が熱くなる。それでも、胸の奥からあふれる気持ちは抑えきれなかった。
「……ありがとう、ございます。でも僕……逃げるだけじゃ、もういやなんです」
そう口にした瞬間、自分でも驚くほど、声がしっかりと出ていた。
「僕の魔力がどんなもので、何に使えるのか……それを、自分で知りたいんです。そして、ちゃんと選びたい。誰かのために、使いたいと思えるように」
ふたりの兄が、目を細めて僕を見つめた。
「そうか。ならば、我々もその意志に応えよう」
「一緒に闘おう。今の王のやり方を止めるために」
兄たちの言葉に、グレンがわずかに口元を綻ばせる。
「共闘ですね。……いい響きです」
僕は小さく頷いた。
「はい。僕たちで、変えましょう。この国を」
その時、静かに、でも確かに――四人の想いが、ひとつになった気がした。
グレンは何も言わずに僕の肩を抱き寄せ、ほんのわずかに身体を寄せてくる。まるで、これ以上僕に近づく者は許さないと言わんばかりに。
(……やっぱりさっきの青年貴族のこと、気にしてたのかな)
焼きもち……なのかはわからないけど、さりげないしぐさのひとつひとつが、妙に優しくて、あったかくて。
「ダーリン、ちょっと……今度は近すぎるんじゃない?」
そう言いつつも、僕の声はどこか嬉しそうで、グレンも微笑を浮かべたまま、そっと僕の髪を指先で整えた。
「ハニーが可愛すぎるので」
「……もう、それやめてってば」
そんなやり取りを交わしていると。
「……なるほど。随分と楽しそうじゃないか」
「予想以上に馴染んでるねぇ。まるで本物の夫婦みたいだ」
聞き覚えのある落ち着いた声が、すぐ後ろから聞こえた。
慌てて振り向くと、そこには――
「あ……!」
長身で凛々しい顔立ち。整えられた銀の髪と、品位のある立ち居振る舞い。
そしてその隣には、やわらかい金髪と優しげな眼差しを持つもう一人。
間違いない。僕の兄、第一王子クラウディオ兄上と、第二王子レオニス兄上だ。
「お、お兄様方……!?ど、どうしてここに……!」
「なに、少し気になる報告があってな。王宮内で見慣れない『仲睦まじいご夫婦』がいると聞いて、確認に来たのだ」
クラウディオ兄上が静かに言い放つ。その目が、まっすぐ僕とグレンを見据えていた。
「アストルがこんなに甘え上手だったなんて知らなかったなぁ。あ、いや、奥様だったかな?」
レオニス兄上がにこにこと言いながら、楽しげに僕を覗き込んでくる。
「っ……ち、違いますっ!これは、その、任務のための変装で……っ」
顔が熱くなっていくのがわかった。けれど兄たちは、まるで僕が小さな子どもだった頃のように微笑んでいて、どこか安心するような、不思議な気持ちになる。
「はいはい、任務ね。わかっているよ。ちゃんと事情は聞いているから、安心なさい」
レオニス兄上がそっと肩に触れてくれる。その手はやさしくて、兄弟としての温かさを思い出させる。
「グレンもご苦労だった。……よくアストルを守ってくれたな」
クラウディオ兄上がグレンに向かって深くうなずく。グレンも軽く頭を下げた。
「もちろんです。私の大切な――ハニーですから」
その瞬間、兄たちの目がぴくりと動く。
や、やばい、言った……グレン、今「ハニー」って言った……!
「……お前たち、思った以上に役になりきっているようだな」
クラウディオ兄上が、ほんのわずかに口元を引き締めて言う。真面目な顔を保とうとしているのはわかるけれど――その実、込み上げる笑いをどうにか押さえているように見えた。
その横で、レオニス兄上が肩を震わせながら笑い出す。
「ふふっ、可愛い弟の新しい一面が見られて、兄としてはとても満足だなぁ」
「や、やめてくださいぃぃっ!」
顔が真っ赤になっていくのが自分でわかった。レオニス兄上は面白がるように笑っているし、クラウディオ兄上も、ほんの少しだけ――結局は堪えきれずに、口元を緩ませている。
が、その後すぐ、ほんのわずかその表情に違う色が宿った気がした。
「……しかし、二人の姿を見て確信した。まさか本当に、城まで潜入してくるとはな」
クラウディオ兄上の言葉に、僕は思わず息をのむ。
「……信じて、待っていてくださったんですね」
そう呟くと、クラウディオ兄上は静かにうなずく。
「……お前の力を狙う王の動きは、日に日に露骨になっている。これ以上、宮廷に関われば、アストル、お前は――」
「捕らえられてしまうだろうね。そしてその魔力は、世界に向けた力の誇示として利用される」
レオニス兄上のやわらかな声が、逆に言葉の重みを際立たせた。
「つまり……脅威として……」
言葉にした途端、胸の奥が冷たくなる。兄上たちは、その思いを代弁するように静かに視線を向けてきた。
「僕たちはね、父王がそんな手段で国を支配しようとしていることに、強く反対している。だからこそ……本当はアストルには遠くに逃げていてほしかったんだけど……」
「まさか、潜入してくるとはな。だが、来てしまった以上……お前が選んだ道を、止めるつもりはない」
クラウディオ兄上が視線をグレンへ向ける。
「グレン。アストルを守り抜いてくれ」
「もちろんです。……殿下を、絶対に王に渡しません」
グレンの声は低く、確信に満ちていた。何の迷いもないその響きに、胸がじんわりと温かくなる。
「ふふ……本当に頼もしい旦那様だな。アストル、良かったね」
レオニス兄上が、ふわりとした笑みを浮かべる。その声音には優しさと、ほんの少しのからかいが混じっていた。
「だ、旦那様じゃないです……っ」
思わず頬が熱くなる。それでも、胸の奥からあふれる気持ちは抑えきれなかった。
「……ありがとう、ございます。でも僕……逃げるだけじゃ、もういやなんです」
そう口にした瞬間、自分でも驚くほど、声がしっかりと出ていた。
「僕の魔力がどんなもので、何に使えるのか……それを、自分で知りたいんです。そして、ちゃんと選びたい。誰かのために、使いたいと思えるように」
ふたりの兄が、目を細めて僕を見つめた。
「そうか。ならば、我々もその意志に応えよう」
「一緒に闘おう。今の王のやり方を止めるために」
兄たちの言葉に、グレンがわずかに口元を綻ばせる。
「共闘ですね。……いい響きです」
僕は小さく頷いた。
「はい。僕たちで、変えましょう。この国を」
その時、静かに、でも確かに――四人の想いが、ひとつになった気がした。
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