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第11話 出会いは蜜の味
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巨人の口みたいに開いた洞窟の入口から、陽光が漏れ出ている。見事、ワープが成功したのだ。
洞窟の陰と外の明かりの境界、そこに、何者かが座り込んでいる。
何者かは、肩を小刻みに震わせながら、シクシク、とすすり泣きの声を上げている。
エドワールは、そっと人影に近づく。
淡い水色のワンピースを着た女性だ。
こんな所に一人座り込んで泣いているなんて。一体、どうしたというのだろう。
「君、大丈夫かい?」
すると女性は、ピクッと体を揺らして、エドワールの声に驚いたように振り返った。
……美人! まるでモデルのような、とてつもない美人だ。
宝石のようにきれいな瞳を、涙でしとどに濡らしながら、女性はエドワールをじっと見つめる。
「ダンジョンに迷い込んでしまったのかい?」
といっても、ここはダンジョンの入口。一歩進めば、簡単に外へは出ることができる。
女性は、ゆっくりと首を横に振る。
「姉が一人でダンジョンの奥地へむかったまま、帰らないのです」
女性は、エドワールに心を許したのか、訥々と自らの身の上を語り始める。
「ここから少し離れたところにある、ピセナ農村というところに、私は母と姉の三人で暮らしていました。そんなある日、村に恐ろしい三匹のカッパたちがやって来たのです」
「カッパ? それって、あの、頭に皿を乗せて、キュウリが大好物の?」
「はい。カッパたちは、ずかずかと村の柵を乗り越えると開口一番、『村で一番偉い人の許へ連れて行け』と言い放ちました。出て行けと言っても、一向に動く気配がありません。私たち村の者は、どうすることもできずに、結局、三匹のカッパを村長の許へ連れていくことにしたのです」
「追い返そうとは、しなかったんですか。一人や二人くらい、力の強い男が居そうなものですけど」
「それが、私たちの村は少し変わっていまして……実は、若い女しか暮らしていないんです」
それは、世にも珍しい村じゃないか。エドワールは、自然と鼻の下が伸びるのを覚えずにはいられなかった。
「カッパたちは、自らのことをペロ吉、ヨシ坊、ズン太と名乗ると、村の女と一人づつグッチャネをさせろと言い出
すのです。指示に従わなければ容赦なく襲い掛かると、脅し文句を添えて。こうなってしまえばもう、村の者は誰も逆らうことができません」
「はい? グッチャネ?」
「聞くと、菊の門にマラ棒をぶち込んでソクソクさせること、だそうです」
なんだか、どこかで聞いたような、聞いたことがないような、よく意味の分からない卑猥な文言だが、まあいい。
エドワールにとって、問題なのは、目の前の美人さんが、ひどく悪い状況に立たされている、ということだけだった。
「村の女は一人づつ、夜な夜な三匹のカッパが待つ馬小屋へ行き、グッチャネをしていきました。そうしないと、カッパに惨殺されてしまうと、村の者は皆、心底怯えていたのです……」
ああ、涙をポロポロ流しながら、女性はそう語るのだ。
「それは辛い出来事でしたね。良ければ、あなたのお名前をお聞かせ願いますか」
「私はエルネットと申します」
「エルネット、美しい名前ですね。ところで、それと、お姉さんがダンジョンの奥地へ向かったのとは、一体どのように繋がるのですか」
「はい。一通り村の女とグッチャネをし終えると、今度はカッパたちは、この村に住み着くと言い出すのです。こちらとしては、たまったものではありません。村の食料は喰らい尽くすし、馬鹿みたいにうるさくて我儘だし……。我慢の限界を迎えた私たちは、相談して、このダンジョンの奥地に眠るとされる退魔の剣を取りに行くことに決めたのです。そして、ダンジョン攻略に抜擢されたのが、私の姉だったという訳です」
畜生め。このダンジョンに退魔の剣が眠っているだなんて、パーティーの奴らは一言もいっていなかった。弱者には教える必要がない、ということか。
それにしても……なんて可哀想な境遇なんだ。こんなにも美しいエルネットさんを、ここまでイジメ抜くだなんて。
エドワールは、カッパとやらが憎くて仕方がなかった。
「なるほど。それであなたは、お姉さんの帰りを一人で待っていたという訳ですか」
「そうなんです。こんな危険極まりないダンジョンへ、ろくに戦闘経験もない女身一人で向かうなんて、それはもう気が気ではなくて」
「事情はわかりました。あなたはとても幸運に恵まれていますね」
エルネットは、不思議そうにこちらを見つめている。
「私がそのカッパとやらを退治してやりましょう」
「ほんとうですか?」
「ええ。お姉さんを探すついでに、ダンジョンの奥地に眠る退魔の剣も取ってきてしまいましょうか」
エドワールが、あまりにもあっけなく言い放ったものだから、エルネットは言葉もなくキョトンとしてしまった。
「じゃ、早速向かいましょうかね」
エドワールは、呆然とするエルネットの手を取ると、「転送魔法、発動」と唱えた。
脳裏に浮かんだダンジョンの地図、その最も奥地で明滅する光点に意識を集中させる。
二人はたちまち光に包まれて……。
洞窟の陰と外の明かりの境界、そこに、何者かが座り込んでいる。
何者かは、肩を小刻みに震わせながら、シクシク、とすすり泣きの声を上げている。
エドワールは、そっと人影に近づく。
淡い水色のワンピースを着た女性だ。
こんな所に一人座り込んで泣いているなんて。一体、どうしたというのだろう。
「君、大丈夫かい?」
すると女性は、ピクッと体を揺らして、エドワールの声に驚いたように振り返った。
……美人! まるでモデルのような、とてつもない美人だ。
宝石のようにきれいな瞳を、涙でしとどに濡らしながら、女性はエドワールをじっと見つめる。
「ダンジョンに迷い込んでしまったのかい?」
といっても、ここはダンジョンの入口。一歩進めば、簡単に外へは出ることができる。
女性は、ゆっくりと首を横に振る。
「姉が一人でダンジョンの奥地へむかったまま、帰らないのです」
女性は、エドワールに心を許したのか、訥々と自らの身の上を語り始める。
「ここから少し離れたところにある、ピセナ農村というところに、私は母と姉の三人で暮らしていました。そんなある日、村に恐ろしい三匹のカッパたちがやって来たのです」
「カッパ? それって、あの、頭に皿を乗せて、キュウリが大好物の?」
「はい。カッパたちは、ずかずかと村の柵を乗り越えると開口一番、『村で一番偉い人の許へ連れて行け』と言い放ちました。出て行けと言っても、一向に動く気配がありません。私たち村の者は、どうすることもできずに、結局、三匹のカッパを村長の許へ連れていくことにしたのです」
「追い返そうとは、しなかったんですか。一人や二人くらい、力の強い男が居そうなものですけど」
「それが、私たちの村は少し変わっていまして……実は、若い女しか暮らしていないんです」
それは、世にも珍しい村じゃないか。エドワールは、自然と鼻の下が伸びるのを覚えずにはいられなかった。
「カッパたちは、自らのことをペロ吉、ヨシ坊、ズン太と名乗ると、村の女と一人づつグッチャネをさせろと言い出
すのです。指示に従わなければ容赦なく襲い掛かると、脅し文句を添えて。こうなってしまえばもう、村の者は誰も逆らうことができません」
「はい? グッチャネ?」
「聞くと、菊の門にマラ棒をぶち込んでソクソクさせること、だそうです」
なんだか、どこかで聞いたような、聞いたことがないような、よく意味の分からない卑猥な文言だが、まあいい。
エドワールにとって、問題なのは、目の前の美人さんが、ひどく悪い状況に立たされている、ということだけだった。
「村の女は一人づつ、夜な夜な三匹のカッパが待つ馬小屋へ行き、グッチャネをしていきました。そうしないと、カッパに惨殺されてしまうと、村の者は皆、心底怯えていたのです……」
ああ、涙をポロポロ流しながら、女性はそう語るのだ。
「それは辛い出来事でしたね。良ければ、あなたのお名前をお聞かせ願いますか」
「私はエルネットと申します」
「エルネット、美しい名前ですね。ところで、それと、お姉さんがダンジョンの奥地へ向かったのとは、一体どのように繋がるのですか」
「はい。一通り村の女とグッチャネをし終えると、今度はカッパたちは、この村に住み着くと言い出すのです。こちらとしては、たまったものではありません。村の食料は喰らい尽くすし、馬鹿みたいにうるさくて我儘だし……。我慢の限界を迎えた私たちは、相談して、このダンジョンの奥地に眠るとされる退魔の剣を取りに行くことに決めたのです。そして、ダンジョン攻略に抜擢されたのが、私の姉だったという訳です」
畜生め。このダンジョンに退魔の剣が眠っているだなんて、パーティーの奴らは一言もいっていなかった。弱者には教える必要がない、ということか。
それにしても……なんて可哀想な境遇なんだ。こんなにも美しいエルネットさんを、ここまでイジメ抜くだなんて。
エドワールは、カッパとやらが憎くて仕方がなかった。
「なるほど。それであなたは、お姉さんの帰りを一人で待っていたという訳ですか」
「そうなんです。こんな危険極まりないダンジョンへ、ろくに戦闘経験もない女身一人で向かうなんて、それはもう気が気ではなくて」
「事情はわかりました。あなたはとても幸運に恵まれていますね」
エルネットは、不思議そうにこちらを見つめている。
「私がそのカッパとやらを退治してやりましょう」
「ほんとうですか?」
「ええ。お姉さんを探すついでに、ダンジョンの奥地に眠る退魔の剣も取ってきてしまいましょうか」
エドワールが、あまりにもあっけなく言い放ったものだから、エルネットは言葉もなくキョトンとしてしまった。
「じゃ、早速向かいましょうかね」
エドワールは、呆然とするエルネットの手を取ると、「転送魔法、発動」と唱えた。
脳裏に浮かんだダンジョンの地図、その最も奥地で明滅する光点に意識を集中させる。
二人はたちまち光に包まれて……。
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