固有スキル〈大食い〉のエドワールは、理不尽に攻略パーティーから追放されるも、モンスターの肉を喰らって最強の勇者に成り上がります。

トウジマ カズキ

文字の大きさ
13 / 31

第13話 ダンジョンボス攻略は余裕の味

しおりを挟む
 扉を潜ると、たちまち稲妻のような咆哮が耳をつんざいた。
 まさか……既に戦闘が始まっている? せっかちなボスさんじゃないか。
 
 漂う霧を手で振り払いながら進むと、先に待っていたのは……。
 
 立派な翼を広げた、鈍色の多頭竜! ダンジョンで出会ったドラゴンの、優に三倍は超えるだろう、その巨大な体躯。
 加えて、アナコンダのように長く伸びた首の先には、これまた凶暴そうなドラゴンの頭部が、五つもある。

「グワアアアァァァ!!!」

 咆哮の迫力も五倍! いや、体格の大きさが相乗して、数十、数百倍はあろうか。

 するとドラゴンが、素早い身のこなしで、太い尻尾を振り下ろした。
 たちまちソニックウェーブが発生し、エドワールの体がふわりと浮き上がる。

「助けてえ!」

 おや。舞い上がった砂埃の中から、女性のか細い声が聞こえてくる。聖女クレナか?

 いや、攻略パーティーのメンバーは、多頭竜が放つ圧倒的な強者オーラに怖気づき、口をあんぐり開けたまま、ボス部屋の隅で呆然と立ち尽くしている。

 では、誰だ? 徐々に砂煙が晴れてゆくと、そこにいたのは……。

 ああ、信じられないことに、エルネットと色違いのワンピースを着た華奢な女性が一人、多頭竜の前で、座り込んでしまっているではないか。

「お姉さん!」 

 半狂乱と化したエルネットは、女性目がけて迷わず突っ込んでゆく。

 こちらの存在に気付いた女性が、ふいに顔を向ける。ああ、その美しさ! 東京のモデルにも勝る美形!

 間違いない。彼女は、村の危機を救うため一人でダンジョンに潜り込んだという、エルネットの姉だ。

 危ない! 
 すると、エドワールがそう叫ぶのと同時に、突っ立つ剣士ハンスが、多頭竜目がけて吹っ飛んでいった。

「一ノ太刀!」

 ハンスが固有スキルを発動した。
 ハンスの握る剣が、みるみるうちに黄金に輝き始め、多頭竜の体をズタズタに引き裂か……ない!

「アパーーーーー!?」

 ハンスの剣は見事に多頭竜の鱗に弾き返され、ハンスは大の字に伸びながら、ボス部屋の隅まで吹っ飛ばされた。

 リーダーの醜態を目の当たりにした攻略パーティーのメンバーは、絶望ともつかぬ色を顔に浮かべる。

「ハハハッ! 渾身の一撃を軽々と弾き返されてやんの! 無様、無様。ああ、実に愉快!」

 攻略パーティーのメンバーは、今にも泣きだしそうな顔で、涎を垂らして気絶するハンスをじっと見つめることしかできなかった。

 多頭竜が、エドワールの嘲笑を聞きつけ、こちらに体を向けた。
 五つの頭部が、周囲の空気を深く吸い込んで、ブレスの準備を始める。
 その口元から、火の粉がほとばしり始める。

「さあてと、やりますか。エルネットさん、僕の手を離さないで下さい」

 エドワールは、転送魔法・上級の効果を発動させると、成す術もなく座り込むお姉さんの許へ、ゆっくりと歩きはじめた。

 ブワアァァァ!! 

 眩い光とともに、五本の炎の柱が、エドワールめがけ一直線!

 だがしかし、エドワールは何食わぬ顔で、スタスタと歩き進める。
 転送魔法によって、自動的に敵の攻撃を回避できるため、炎の薄い箇所を縫って、ボス部屋の中を縦横無尽にワープしているのだ。

「なんだか体がポッカポカするなあ。多頭竜製のストーブ、寒い冬のお供ってか? エエア?」  

 そのスピードがあまりにも速いため、ブレスの灼熱は、エドワールとエルネットの体表に届く前に、たちまち消え去ってしまう!

 多頭竜の懐に辿り着いた。感動の再開!! 
 エドワールは、怯え切ったお姉さんをそっと抱きかかえると、三人一緒にボス部屋の安全な隅へワープ。

「大丈夫ですよ。もうちょっとの辛抱ですからね」

 お姉さんをそっと地面に降ろすと、二人を残して、ただちに特殊スキル【煉獄の超咆哮】を発動。

 超範囲攻撃の燃え盛る炎を、壁のように利用して、姿をくらますと、ふたたび多頭竜の懐に入り込む。

 次いで、特殊スキル【鋭爪連斬+100】を発動。
 多頭竜の首元一点に狙いを定めて、ズッシャア、ズシャア!!
 さすがに百連斬には耐えかねたのか、湾曲した銀の爪先は、鋼鉄よりも硬い鱗を貫き、たちまちピンク色の肉が露わになる。
 
 今度は固有スキル〈大食い〉が発動。わずかに開いた傷口に舌をねじ込み、そのままパクリッ!!
  
 うん、旨い! 体がデカい分、コクがあるっ!
 
 多頭竜は、まさか戦闘中に自分の肉を喰われるとは、思いもよらなかったのだろう。
 目をパチパチさせて、キョトンと棒立ちしている。

「ステータスオープン」


エドワール・ルフレン

レベル:65
体力:540
攻撃力:170
防御力:170
素早さ:170

【固有スキル】
大食い

【特殊スキル】
鋭爪連斬+100
煉獄の超咆哮
転送魔法・上級

豪雨風ノ手裏剣

効果
 堅牢な城をも打ち崩す突風を巻き起こし、鋭利な鱗の手裏剣を四散させる。


 食したのは、わずかな肉片のみであったから、レベル自体はさほど上がっていない。
 それにしても、意外な特殊スキルを獲得したものだ。
 
 おそらく多頭竜の、最後の切り札、的な技なのだろう。外界から身を守る鱗を捨ててまで放つ技は、さぞ強力に違いない。
 
 エドワールは試しに、多頭竜からコピーした技を放ってみた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

処理中です...