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第29話 最期は星屑の味
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「……もう、許してください」
いくらレベル90の手強いモンスターとはいえ、全快したエドワールの前においては、力の差は歴然。もはや敵ではなかった。
攻撃ができないガーネット、いや、妖魔に対して、エドワールは一方的に攻撃を加え、妖魔は既に瀕死状態であった。
「観念します。だから、もうぶたないでえ……」
ガーネットは、いまにも途切れそうな浅い呼吸で、血の滲んだドレスを激しく上下させながら、そう漏らす。
「彼女たちの呪いを解けっ、今すぐにっ」
ガーネットが「契約を取り消す」と呟くと、四人の女性は縄が解かれ、みるみるうちに元気になっていった。
「エドワールさん!」
エルネットとアメリエルが、エドワールの胸元に飛び込んでくる。
なんだか、久しぶりに女の温もりを味わった気がした。
「さあ、終わりにしよう」
エドワールは、最後のとどめを刺そうと、うずくまる妖魔のもとへ、ゆっくりと近づいた。
「分かっているのか? 村の女は、あたしの分身。ゆえに、あたしを殺せば、皆、消え去る」
クソ、そうだった。エドワールは、目をキラキラさせてこちらを見つめる二人の美女エルネット、アメリエルと、瀕死の妖魔を交互に眺めた。
今、妖魔をここで仕留めてしまえば、二人は消えてしまう。
だがしかし、妖魔を生かせば、また新たなわざわいが生まれるかもしれない。
悲痛な板挟みに、エドワールの心は軋んだ音を立て、押しつぶされそうになる。
すると、二人が、まるで操り人形のようにヨロヨロよろめきながら、こちらに近づいてきた。
「ヤッテクダサイ」
「アタシヲハヤク、ラクニシテクダサイ」
ああ、二人の声は重苦しそうに掠れ切り、美しい顔は、青白く豹変しもはや生気を感じられない。
産みの親である妖魔が、瀕死に陥ったことで、二人にまで影響が及んでいるのだ。
「……彼のもとへ、連れていってください。天使が私を運んでくれる。一緒に旅して、恋して、冒険した、彼のもとへ」
エルネットは、顔をうつむけながら、掠れた声で、そう言った。
突然、なにを言い出すのだ?
ああ、そうか。
死を間近にして、妖魔は自他の境界、つまり、自分と自分の作り出した分身の境界が、曖昧になってきているのだ。
つまり、二人の言葉は、二人のものであると同時に、妖魔の言葉でもあるのだ。
「彼がこの村へやってきて、私は嬉しさのあまり飛び上がった。だから私は、彼をかくまって、手塩をかけて世話してやった。村の者は皆、彼を怖がったけど、私だけがその正体を知っていた。彼は、私の初恋の相手……、かつて冒険を共にした、私が……だったころの」
それ以上は、声がかすれて、聞き取れなかった。
妖魔は、畳の上で血を流してうずくまりながら、今にも消え入りそうな浅い呼吸を繰り返している。
「……天使の羽音が聞こえる。彼はもう、あなたが行かせたのでしょう。だから、はやく。はやく私を連れて行って……」
アメリエルも、同様に顔をうつむけながら、掠れた声で言う。
すると突然、ガバッと襖が開かれ、奥から大量の村の美女たちが、どっと畳の真へ押し寄せてきた。
「コロシテ」
「コロシテ」
「コロシテ」
美女たちは、顔面を真っ青にして、一様にそう呟きながら、フラフラと畳の間を走り回る!
ああ、美女の渦に飲まれ、エドワールは目が回って仕方がない。
美女の数はどんどん増えてゆき、やがて畳の間は、「コロシテ」と呟く顔面蒼白の美女で溢れ返ってしまった。
このままで圧死してしまう。美女の波に方向感覚を奪われ、部屋の出口が分からない。
エドワールは、美女をかき分け、なんとか瀕死の妖魔にたどり着いた。
「はやく、やりなさい」
たしかに妖魔は、そう言った。底なしの悲しさを含んだ、女々しい声だった。
だがその言葉には、揺るぎのない、強い信念のようなものを感じた。
エドワールは、目を瞑る。
━━姉が一人でダンジョンの奥地へむかったまま、帰らないのです。
ダンジョンの出口で、一人泣いていたエルネット。
━━私はアメリエルと申します
ダンジョンの奥地でひとり、勇敢に多頭竜と闘っていたアメリエル。
足元の妖魔は、放っておいても、もうすぐ死ぬ。
それと同時に、二人も消えていなくなる。
防ぐ手段は、なかった。
エドワールは、感謝と別れの気持ちを込めて、特殊スキル〈豪雨風ノ手裏剣〉を発動した。
たちまち地面から、嵐のような風が吹き、妖魔や美女たちを、家ごと夜空へ吹き飛ばす。
鋭利な手裏剣が、妖魔を襲い、やがて……。
星屑のようにキラキラと輝く粉雪が、空から降ってきた。季節外れの、雪だ。
粉雪は、家の残骸の上に積もり、あたり一面を白く染め上げた。
エドワールは、夜空の下に、呆然と立ち尽くした。
みんな、消えてしまったのか。
ふと、雪の中に、なにかが埋まっているのに気づいた。
エドワールはそっと拾い上げてみる。青い宝石が埋め込まれた、指輪だった。
【落涙の指輪】
レアリティ:S
防御力 ×1
特殊効果
装備すると、宝石の光が、探し人の許へ導いてくれる。
エドワールは、ぎゅっと指輪を握りしめた。
いくらレベル90の手強いモンスターとはいえ、全快したエドワールの前においては、力の差は歴然。もはや敵ではなかった。
攻撃ができないガーネット、いや、妖魔に対して、エドワールは一方的に攻撃を加え、妖魔は既に瀕死状態であった。
「観念します。だから、もうぶたないでえ……」
ガーネットは、いまにも途切れそうな浅い呼吸で、血の滲んだドレスを激しく上下させながら、そう漏らす。
「彼女たちの呪いを解けっ、今すぐにっ」
ガーネットが「契約を取り消す」と呟くと、四人の女性は縄が解かれ、みるみるうちに元気になっていった。
「エドワールさん!」
エルネットとアメリエルが、エドワールの胸元に飛び込んでくる。
なんだか、久しぶりに女の温もりを味わった気がした。
「さあ、終わりにしよう」
エドワールは、最後のとどめを刺そうと、うずくまる妖魔のもとへ、ゆっくりと近づいた。
「分かっているのか? 村の女は、あたしの分身。ゆえに、あたしを殺せば、皆、消え去る」
クソ、そうだった。エドワールは、目をキラキラさせてこちらを見つめる二人の美女エルネット、アメリエルと、瀕死の妖魔を交互に眺めた。
今、妖魔をここで仕留めてしまえば、二人は消えてしまう。
だがしかし、妖魔を生かせば、また新たなわざわいが生まれるかもしれない。
悲痛な板挟みに、エドワールの心は軋んだ音を立て、押しつぶされそうになる。
すると、二人が、まるで操り人形のようにヨロヨロよろめきながら、こちらに近づいてきた。
「ヤッテクダサイ」
「アタシヲハヤク、ラクニシテクダサイ」
ああ、二人の声は重苦しそうに掠れ切り、美しい顔は、青白く豹変しもはや生気を感じられない。
産みの親である妖魔が、瀕死に陥ったことで、二人にまで影響が及んでいるのだ。
「……彼のもとへ、連れていってください。天使が私を運んでくれる。一緒に旅して、恋して、冒険した、彼のもとへ」
エルネットは、顔をうつむけながら、掠れた声で、そう言った。
突然、なにを言い出すのだ?
ああ、そうか。
死を間近にして、妖魔は自他の境界、つまり、自分と自分の作り出した分身の境界が、曖昧になってきているのだ。
つまり、二人の言葉は、二人のものであると同時に、妖魔の言葉でもあるのだ。
「彼がこの村へやってきて、私は嬉しさのあまり飛び上がった。だから私は、彼をかくまって、手塩をかけて世話してやった。村の者は皆、彼を怖がったけど、私だけがその正体を知っていた。彼は、私の初恋の相手……、かつて冒険を共にした、私が……だったころの」
それ以上は、声がかすれて、聞き取れなかった。
妖魔は、畳の上で血を流してうずくまりながら、今にも消え入りそうな浅い呼吸を繰り返している。
「……天使の羽音が聞こえる。彼はもう、あなたが行かせたのでしょう。だから、はやく。はやく私を連れて行って……」
アメリエルも、同様に顔をうつむけながら、掠れた声で言う。
すると突然、ガバッと襖が開かれ、奥から大量の村の美女たちが、どっと畳の真へ押し寄せてきた。
「コロシテ」
「コロシテ」
「コロシテ」
美女たちは、顔面を真っ青にして、一様にそう呟きながら、フラフラと畳の間を走り回る!
ああ、美女の渦に飲まれ、エドワールは目が回って仕方がない。
美女の数はどんどん増えてゆき、やがて畳の間は、「コロシテ」と呟く顔面蒼白の美女で溢れ返ってしまった。
このままで圧死してしまう。美女の波に方向感覚を奪われ、部屋の出口が分からない。
エドワールは、美女をかき分け、なんとか瀕死の妖魔にたどり着いた。
「はやく、やりなさい」
たしかに妖魔は、そう言った。底なしの悲しさを含んだ、女々しい声だった。
だがその言葉には、揺るぎのない、強い信念のようなものを感じた。
エドワールは、目を瞑る。
━━姉が一人でダンジョンの奥地へむかったまま、帰らないのです。
ダンジョンの出口で、一人泣いていたエルネット。
━━私はアメリエルと申します
ダンジョンの奥地でひとり、勇敢に多頭竜と闘っていたアメリエル。
足元の妖魔は、放っておいても、もうすぐ死ぬ。
それと同時に、二人も消えていなくなる。
防ぐ手段は、なかった。
エドワールは、感謝と別れの気持ちを込めて、特殊スキル〈豪雨風ノ手裏剣〉を発動した。
たちまち地面から、嵐のような風が吹き、妖魔や美女たちを、家ごと夜空へ吹き飛ばす。
鋭利な手裏剣が、妖魔を襲い、やがて……。
星屑のようにキラキラと輝く粉雪が、空から降ってきた。季節外れの、雪だ。
粉雪は、家の残骸の上に積もり、あたり一面を白く染め上げた。
エドワールは、夜空の下に、呆然と立ち尽くした。
みんな、消えてしまったのか。
ふと、雪の中に、なにかが埋まっているのに気づいた。
エドワールはそっと拾い上げてみる。青い宝石が埋め込まれた、指輪だった。
【落涙の指輪】
レアリティ:S
防御力 ×1
特殊効果
装備すると、宝石の光が、探し人の許へ導いてくれる。
エドワールは、ぎゅっと指輪を握りしめた。
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