30 / 31
第30話 秘密は○○の味
しおりを挟む
エドワールはさっそく、指輪を装備してみた。
すると、指輪の宝石が青く輝き始め、レーザーポインターのような青白い光の筋が、まっすぐどこかへ向かって伸びていった。
光の筋は、家の瓦礫の奥へ続いている。
エドワールは、光の筋が指し示す方へ、ゆっくりと歩き始めた。
光が急に地面の方を向いた。導かれた先にあったのは。
「クレナッ!」
ああ、聖女クレナが、瓦礫の外でうずくまっているではないか。
エドワールは、急いで呼吸を確認した。……よかった。息はある。
どうやら意識を失っているらしい。
クレナの体を揺さぶり、エドワールは、意識の回復を試みる。
クレナの瞼が、まるで蕾が花を咲かせるみたいに、ゆっくりと開いた。
「……ここは……あれ、エドワール? わたし、どうしてこんなところに?」
「クレナ、よかった、無事で」
クレナは、エドワールの手で頭を支えられ、ぼうっとした顔で、エドワールを見つめている。
「あとの人たちは?」
「みんな消えてしまった」
「消えた?」
「そう、雪になって、消えた」
クレナの瞳が揺れた。悲しいような、しかしどこか安堵するかのような、不思議な表情だった。
「なあクレナ」
「ん?」
「一緒に隣町へ行かないか。これだけのステータがあれば、じゅうぶんに暮らしていける」
「……」
黙ってしまうクレナ。
……いや、待っている。期待を込めて、クレナは待っているのだ。
だからエドワールは、クレナにそっと、口づけした。
「……!」
二人は抱き合い、熱いキスを交わした。地面の雪が、夜風に吹かれて、わたがしみたいにふわっと舞い上がった。
エドワールとクレナは、森へ続くあぜ道を歩いていた。
地平線から太陽が顔をのぞかせている。あたたかい朝陽が、二人の足元を撫でる。
いつの間にか、夜が明けていたのだ。
「森を抜けて、ダンジョンの洞窟を通り過ぎれば、隣町が見えてくるはず。教会がある美しい町らしい。俺たちにぴ
ったりの町だ」
「そうね。エドワールのステータスを見て、町の人はみんなびっくりするんじゃない? それだけの実力があれば、王都にも住めるかもしれないのに」
「いいんだ。しばらくは、ゆっくりとした生活を送りたい」
森の入口が見えてきた。
エドワールは、クレナとの新しい生活に向けて、力強く一歩を踏み出した。
……その時。
とつぜん、眩い光が天から降ってきた。たちまちエドワールの周囲を、目も開けられぬほどの光が覆い尽くす。
やがて、抗う間もなく意識が遠のいてゆき……。
目を覚ますと、そこは、雲の上のような一面が白に包まれた世界だった。
ああ、見覚えがあるぞ。
ここは確か……俺がこの世界に転生する前に立ち寄った場所。死後の世界。
ということは。
「お久しぶりですね、エドワールさん。いや、あの世界を完全攻略した、勇者さん」
やはり、いた! 山のように大きな女神。
「ダンジョンとモンスターがうろつく異世界は、どうでしたか? 嫌だった、やっぱり地球がよかった? それとも、案外悪くはなかった?」
鳥のさえずりみたいな美しい声で、巨大な女神はエドワールに語りかける。
「どうして俺は、ここに連れてこられたんだ? もしや、死んだのか、俺は」
「いいえ。死んでなどいません」
女神はきっぱりと否定する。
「では、なぜ?」
「あなたが強くなりすぎたから。妖魔を倒した時点で、あなたと戦って敵うモンスターが、あの世界に存在しなくなった。いうなれば、ゲームクリアです。ゲームをクリアすれば、メニュー画面に飛ばされるでしょう? それと一緒です」
「……はあ」
本来なら、泣いて喜ぶ場面なのだろうが、なぜだかエドワールは、ちっとも嬉しさを感じなかった。
女神は淡々と続ける。
「ゲームクリア者、勇者となった者の特権です。あなたを好きな世界へ転生させてさしあげましょう。美女の国、動物の国、魔法使いが暮らす世界、あ、もちろん地球でも構いません」
さも喜ばしい事であるかのように、女神は提案した。
「どうしますか? 久しぶりの勇者誕生ですからね。私もはりきって、どんな世界へでも転生させますよ」
……転生。どんな姿にでも、一瞬で変わることのできる、まさに夢のような話。
しかも今度は、運任せではない。
何から何まで、自分の思い通りに転生することができるのだ。
だがしかし。
まるで走馬灯のように、エドワールの脳裏に、あの世界で出会った者たちの顔が浮かんでは消えていった。
魔術師カエサル、暗殺者セバスター、剣士ハンス、エルネット、アメリエル、村長ガーネット、村の女性たち。
そして、聖女クレナ。
エドワールの心の中で、答えは決まっていた。
「転生しません」
巨大な女神を見据えて、エドワールはそう告げた。
女神は一瞬、驚いたように目を見開くと、やがてすぐに、いつのも毅然とした態度に戻った。
「意外な回答ですね。そんなことを言ったのは、あなたが初めてです。後悔はありませんか?」
「はい」
「いいでしょう。望みどおりにしてあげます。でも、せっかくゲームクリアしたんですから……あの世界に隠された秘密を聞きたくはありませんか?」
「秘密?」
「ええ。誰も知ることのない、秘密です」
エドワールは、ごくりと生唾を飲んだ。
すると、指輪の宝石が青く輝き始め、レーザーポインターのような青白い光の筋が、まっすぐどこかへ向かって伸びていった。
光の筋は、家の瓦礫の奥へ続いている。
エドワールは、光の筋が指し示す方へ、ゆっくりと歩き始めた。
光が急に地面の方を向いた。導かれた先にあったのは。
「クレナッ!」
ああ、聖女クレナが、瓦礫の外でうずくまっているではないか。
エドワールは、急いで呼吸を確認した。……よかった。息はある。
どうやら意識を失っているらしい。
クレナの体を揺さぶり、エドワールは、意識の回復を試みる。
クレナの瞼が、まるで蕾が花を咲かせるみたいに、ゆっくりと開いた。
「……ここは……あれ、エドワール? わたし、どうしてこんなところに?」
「クレナ、よかった、無事で」
クレナは、エドワールの手で頭を支えられ、ぼうっとした顔で、エドワールを見つめている。
「あとの人たちは?」
「みんな消えてしまった」
「消えた?」
「そう、雪になって、消えた」
クレナの瞳が揺れた。悲しいような、しかしどこか安堵するかのような、不思議な表情だった。
「なあクレナ」
「ん?」
「一緒に隣町へ行かないか。これだけのステータがあれば、じゅうぶんに暮らしていける」
「……」
黙ってしまうクレナ。
……いや、待っている。期待を込めて、クレナは待っているのだ。
だからエドワールは、クレナにそっと、口づけした。
「……!」
二人は抱き合い、熱いキスを交わした。地面の雪が、夜風に吹かれて、わたがしみたいにふわっと舞い上がった。
エドワールとクレナは、森へ続くあぜ道を歩いていた。
地平線から太陽が顔をのぞかせている。あたたかい朝陽が、二人の足元を撫でる。
いつの間にか、夜が明けていたのだ。
「森を抜けて、ダンジョンの洞窟を通り過ぎれば、隣町が見えてくるはず。教会がある美しい町らしい。俺たちにぴ
ったりの町だ」
「そうね。エドワールのステータスを見て、町の人はみんなびっくりするんじゃない? それだけの実力があれば、王都にも住めるかもしれないのに」
「いいんだ。しばらくは、ゆっくりとした生活を送りたい」
森の入口が見えてきた。
エドワールは、クレナとの新しい生活に向けて、力強く一歩を踏み出した。
……その時。
とつぜん、眩い光が天から降ってきた。たちまちエドワールの周囲を、目も開けられぬほどの光が覆い尽くす。
やがて、抗う間もなく意識が遠のいてゆき……。
目を覚ますと、そこは、雲の上のような一面が白に包まれた世界だった。
ああ、見覚えがあるぞ。
ここは確か……俺がこの世界に転生する前に立ち寄った場所。死後の世界。
ということは。
「お久しぶりですね、エドワールさん。いや、あの世界を完全攻略した、勇者さん」
やはり、いた! 山のように大きな女神。
「ダンジョンとモンスターがうろつく異世界は、どうでしたか? 嫌だった、やっぱり地球がよかった? それとも、案外悪くはなかった?」
鳥のさえずりみたいな美しい声で、巨大な女神はエドワールに語りかける。
「どうして俺は、ここに連れてこられたんだ? もしや、死んだのか、俺は」
「いいえ。死んでなどいません」
女神はきっぱりと否定する。
「では、なぜ?」
「あなたが強くなりすぎたから。妖魔を倒した時点で、あなたと戦って敵うモンスターが、あの世界に存在しなくなった。いうなれば、ゲームクリアです。ゲームをクリアすれば、メニュー画面に飛ばされるでしょう? それと一緒です」
「……はあ」
本来なら、泣いて喜ぶ場面なのだろうが、なぜだかエドワールは、ちっとも嬉しさを感じなかった。
女神は淡々と続ける。
「ゲームクリア者、勇者となった者の特権です。あなたを好きな世界へ転生させてさしあげましょう。美女の国、動物の国、魔法使いが暮らす世界、あ、もちろん地球でも構いません」
さも喜ばしい事であるかのように、女神は提案した。
「どうしますか? 久しぶりの勇者誕生ですからね。私もはりきって、どんな世界へでも転生させますよ」
……転生。どんな姿にでも、一瞬で変わることのできる、まさに夢のような話。
しかも今度は、運任せではない。
何から何まで、自分の思い通りに転生することができるのだ。
だがしかし。
まるで走馬灯のように、エドワールの脳裏に、あの世界で出会った者たちの顔が浮かんでは消えていった。
魔術師カエサル、暗殺者セバスター、剣士ハンス、エルネット、アメリエル、村長ガーネット、村の女性たち。
そして、聖女クレナ。
エドワールの心の中で、答えは決まっていた。
「転生しません」
巨大な女神を見据えて、エドワールはそう告げた。
女神は一瞬、驚いたように目を見開くと、やがてすぐに、いつのも毅然とした態度に戻った。
「意外な回答ですね。そんなことを言ったのは、あなたが初めてです。後悔はありませんか?」
「はい」
「いいでしょう。望みどおりにしてあげます。でも、せっかくゲームクリアしたんですから……あの世界に隠された秘密を聞きたくはありませんか?」
「秘密?」
「ええ。誰も知ることのない、秘密です」
エドワールは、ごくりと生唾を飲んだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
勇者の隣に住んでいただけの村人の話。
カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。
だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。
その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。
だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…?
才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる