Game is Life

つる

文字の大きさ
11 / 11
あんたがいればそれでいい

アイスティーとバゲットサンド2

しおりを挟む
 問いに答えられないままゲーム開始の合図代わりに俺は重ねる。
「消えろ」
 魔術で描いた線を伸ばし、ロドナークの使っている魔術……赤雷の魔術を消そうとした。しかし赤雷の魔術は消えず、ロドナークの手のひらにパチパチとまとわりつく。
 ロドナークがいうには赤雷の魔術は他人にイメージさせることでできているんだとか。赤と雷、その二つをイメージすることによりそういう魔術だと他人は認識している。確かに赤雷は雷の魔術を使う。だが、これは見た目を派手にするためのもので、実際はとても地味な補助魔術を主に使うそうだ。
 そうやって自分の友人の魔術を明かしたくせに、自分の魔術は当ててみろというのだからずるい男だ。
 俺は静かにロドナークへと近寄りながら考える。
 ロドナークは他人の魔術を拝借するというが、それは何を借りているのだろう。
 少し前まではそのまま丸々借りてくる、あるいは真似をしているのだと思っていた。
 魔術の仕組みや多様性、使い方を知った今は少し選択肢が増えた。
 ロドナークのいう赤雷の魔術は、見た目が派手で地味な魔術……いわば見た目で人を騙し本来の魔術をわからなくしているものだ。
ロドナークはその本来使っている地味な魔術を真似ているのか。本当に丸々結晶にでも記録して借りてきているのか。あるいは魔術の仕組みを借りているのか。
 もしも魔術の仕組みを借りているのなら、俺はロドナークに騙されていることになる。見た目が派手でロドナークが借りているというから、雷の魔術を使っていると思っているわけだ。
 ならば俺はよりいやらしい方法が正解だと考える。ロドナークという男がプロキシゲームで好かれていないことと、二つ名で盗人呼ばわりされていること、何よりロドナークの家に棲みついた厄介者として家主のことを考えてそう思う。
 ロドナーク・アルディという男はしつこい性質で学者肌なところがあり、知らない事に触れたがる癖がある。興味の範囲は広いが外側に触れるだけで深く足を踏み入れることはない。だが、一度足をつっこむとしつこくしつこく根掘り葉掘り聞いて触って、調べていじって楽しんで……大事に大事にする。
 もちろん、これだけの情報だけでいやらしい手を使うとは判断できない。
 しかし暇つぶしにものを教えてもらい始めてから、事あるごとにロドナークのいやらしさに遭遇した。
 例えば魔術を使ってみるようになって、実際試してごらんと俺を観察している時がある。見守っているのではない。俺がどういったことをするのか、教えた通りにできるのか、教えたことによりどう発展していくか。怒鳴ったりはしないが、じっと俺を見て楽しそうにしている。しかも俺に何かを期待したりもしておらず、ありのままの俺を見て最高に楽しんでいた。悪趣味極まりない。
 そんな男がただ魔術を借りてくる、真似をするだなんてわかりやすいことをするか。おそらくしないだろう。
 そんなロドナーク・アルディはいやらしさが足りない上にロドナーク・アルディの風上にもおけない。
 では俺はロドナークの使う赤雷の魔術をどうすればいいのか。
 まず消すこと、魔術の邪魔をすることを諦めた方が良いだろう。
 俺にはまだ難しい魔術を操ったり魔術の仕組みを瞬時に解き明かしたりできない。ロドナークのいう地味な補助魔術も解らず、見せかけの魔術にも騙される。
 俺のできることは魔術的なアプローチではなく、いつも通り避けて殴って蹴ることだ。
「曇れ」
 だからといって魔術を使わないわけではない。
 俺は部屋の中をさらに暗くするために濃霧を作る魔術を使った。明かりを消しても雷の魔術を使っているため、ロドナークの姿や部屋の様子がちらつくのが嫌だからだ。
 雷の魔術がずっと使われているのならまだしも、小さな雷を時折走らせるだけなのでチカチカしてとても邪魔臭い。時折見える部屋の様子すらうっとうしく感じる。
 俺は自らの視界から邪魔な景色を消すため、ロドナークの視界を悪くするために魔術を使う。部屋が湿気て不快感はあるが、今はまだチカチカするよりマシである。長時間続くとこの不快感も最悪だが。
 兎にも角にも赤雷の魔術をどうこうしないなら、外に働きかけて自らに有利な状況を作る必要がある。プロキシゲームで俺がずっとやってきたことだ。俺はこれを作るのにいつも時間がかかる。
「なるほど……でもこれ以上セディウスも見えないんじゃないか」
 今もそうだ。ロドナークのいう通り俺の目の前は真っ暗であまり有利とはいい難い。チカチカする鬱陶しさはなくなったが、部屋の中が俺も見えないからだ。暗視の魔術もあるらしいが、俺にはまだ使えない。
「別に慣れている」
 ただ少しだけ有利な点があった。俺は暗い場所が好きなのでよく暗いところにいる。だから暗いのには慣れていた。
 それにこの部屋もよく知っている。家主なのだから部屋についてはロドナークの方が詳しいが、俺も魔術を使うようになってからこの部屋をよく使っている。だからそこそここの部屋に詳しいのだ。
 足音を立てぬようにそろりと動き出す。息をひそめ足先の感覚を頼りにゆっくりとロドナークに近づく。
「それは俺もそうなんだが……」
 パチッと雷が弾ける音がした。
 俺は魔術で厚く暗い雲を作るイメージをし、深く濃い霧を作っている。お陰でロドナークが魔術を使うとわずかに光が見えるが、あたりが明るくなることもなかった。
「雲の中に入るみたいなのに雷は走らないのか。霧が純水ならこの雷が弱いのか」
 小さな声で俺の魔術を解き明かすロドナークに、観察がお得意なことでと笑ってやることも今はできない。声で位置を知らせないためだ。
 俺とは逆にロドナークは話し続けているため、俺はその声でロドナークの位置を知ることができる。
 そろそろと近寄って、今は三歩ほどの距離まで近づいただろうか。魔術で声を散らしていない限りは正確な距離感だと思う。
「まぁ、これだけ濃い霧の中じゃ高圧の雷鳴って俺も危ない」
 そう、狭く暗い部屋の中では下手に雷で攻撃すると俺だけでなくロドナークも危ないのだ。
 こうしていると俺が少し有利なようだがそうでもない。
 俺は暗い中ロドナークとの距離を詰めるだけの余力がある。だがロドナークに近寄るということはロドナークも俺に近寄るということだ。俺が動くならあえて動く必要は無い。俺がやってくる方向がわかるならなおのことだ。
 それでも俺はロドナークに近寄る。今の俺にはロドナークを攻撃する方法など殴る蹴るぐらいしかない。ゲームに登録している時と違い互いに武器を持っておらず、ロドナークから武器を奪うこともできないからだ。
 あと一歩というところまで近寄るとパチッとまた雷が弾ける音がした。とても近くで聞こえた気がするのに今度は光がまったく見えない。その代わりに一瞬にして霧のせいで肌にまとわりつく湿気の感触が消える。
 あと俺がわかったのは風が吹いたということだけだ。
「セディウス、まだ開始の合図を聞いていないんだが」
 急な爽快感に動きを止めた俺の頬を撫で、ロドナークがゆるく笑った。霧を晴らして灯りまでつけてくれたらしい。
 眩しさに目を細めつつ俺は不貞腐れる。
「必要か?」
 魔術はまだ全然役に立たず、ロドナークの使っている魔術もよくわからない。動きを止めずに一気に攻めればよかったのにロドナークに頬を撫でられるとそれもできず。
 もう何をやっているのかよくわからない。
 俺がようやく鼻で笑ってやると、ロドナークは口元を緩めた。
「合図をしたらまた最初から考えてくれるんだろう?」
 最高じゃないかと俺を見つめるクソ野郎に俺は舌打ちをした。
「しねぇよ。あんたに魔術合戦なんて仕掛けるもんじゃなかった!」
 苛立ちは魔術について考えている間に忘れてしまったが、クソ野郎に対して腹が立ち始める。
 ゲームを開始したと思ったのならさっさとゲームを終わらせればいいものを、ニヤニヤ観察しやがって。
「勝ったらパンとコーヒー強請ってやろうと思ってたのに」
 悔し紛れにそういったが早々に諦めてしまっている。未練はあっても欲しがりはしない。
 しかしロドナークは破顔してこういった。
「実はアイスティーとバゲットサンドならすぐに用意できる」
 ロドナーク・アルディはもしかしたら天才なのではないだろうか。
 単純な俺はすべて忘れ、大きく頷きロドナークから離れた。
 ロドナークは相変わらずなんの抵抗も反応もみせない。俺から嬉しさがはみ出ているからだろうか。
「今から食う」
 特別が戻ってきたからか、急激な空腹が襲ってきた。
 俺はいそいそとリビングルームへと向かう。
「……振り回されてるなぁ」
 ポツリと呟かれたことばは聞こえないフリをした。後ろで笑う声がしたから別に構わないだろう。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

虐げられた令息の第二の人生はスローライフ

りまり
BL
 僕の生まれたこの世界は魔法があり魔物が出没する。  僕は由緒正しい公爵家に生まれながらも魔法の才能はなく剣術も全くダメで頭も下から数えたほうがいい方だと思う。  だから僕は家族にも公爵家の使用人にも馬鹿にされ食事もまともにもらえない。  救いだったのは僕を不憫に思った王妃様が僕を殿下の従者に指名してくれたことで、少しはまともな食事ができるようになった事だ。  お家に帰る事なくお城にいていいと言うので僕は頑張ってみたいです。        

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

処理中です...