魔法学校に入学したので兄ちゃんに会いたい。

つる

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兄ちゃん、お元気ですか。俺はピンチです。

夢と希望を持ってもいいじゃない3

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 心の中で兄に呼び掛けてみたり、すぐに兄のいったことを思い出したりするが、ヒューの前でブラコンを出していただろうか。
 記憶にないほどナチュラルにブラコンをさらけ出していたとなると、さすがの俺も焦りで声が震える。

「兄ちゃ……兄貴のこと、俺、いった?」

「聞いた」

 噂に聞く口に出していないつもりが口に出していたという奴だろうか。
 俺は恥ずかしさのあまり足が速くなった。

「わ……忘れては?」

 急に早歩きし始めた俺に合わせるわけでもなく、ゆったり歩いているヒューをちらりと確認する。ヒューは目を細め、俺を品定めするように見ていた。

「難しい」

 どんなにいい奴でも、忘れがたい奇行というものがあるのだろう。

「そっかー……そっか、まぁ……俺、兄ちゃんのこと好きだしね、うん……まごうことなきブラコンだからね……しかたないよね。そう、ブラコン、ブラコンだから……でも、変にひとりごといってるときは教えてね」

 俺は『はは、はは……』と小さく笑い、ダンジョン内に珍しいものはないか探す。そうでもしないと恥ずかしさでダンジョンの奥まで一気に走って行きたいからである。ブラコンとて無意識に兄ちゃん兄ちゃんと連呼していたと気が付けば恥ずかしくなるものなのだ。

「そんなおかしなことはいってなかったが」

「んーまぁ……そう、それなら、うん、マシかなー……」

 ヒューの認識がふわっとしているのか、それとも恥ずかしそうな俺に対する慰めか。
 やはり俺はその場でジタバタして走り出したい気分になった。
 もう一度、辺りを見渡しても珍しいものなど見当たらないし、自分自身をどう誤魔化せばいいかもわからない。

「ところで、このままいくと普通に順路を行くことになるが」

「順路……ダンジョン、他、道、ある?」

 珍しいものが見当たらないし、特に脇道もなかった。順路云々という前に一本道である。迷いようもなく行く場所も一つしかない。順も不順もないように見えた。
 俺は立ち止まり、ヒューに振り向く。

「あるが」

 しかしヒューは何の気なしに木々が立ち並ぶ道なき道を指さし、あるという。
 動く大木に出会ってからそれほどたっていないが、相変わらず辺りはただの森で俺たちの行く先には木々しかない。ダンジョン攻略に張り切っているだろう生徒すらいなかった。大木が特別だったとしか思えない。

「俺、見えない」

 率直に羨望と悲哀を込めて呟く。
 俺には見えないものがヒューに見えるだなんてただの心霊現象としか思えない。しかしながら、ここは魔法界で魔法使いには鋭い感覚の持ち主もいれば、そういった不思議を見るための魔法もある。俺にはどちらも適正はないので、やはり心霊現象のようにしか思えなかった。

「見えはしない。俺も今はわかるってだけだ……それにしても、どうして片言なんだ」

 ヒューは俺の羨ましさに、他の成分が混ざっていることに気が付いてしまったらしい。一緒に洗ったはずの靴下が片方しか見つからない人のような顔をした。

「羞恥心」

「恥ずかしくって上手におしゃべりできねぇわけか。そういうのは求めてねぇな」

「俺だって求めてないんですけどー」

 そういうのは好きな人とあって、もどかしい思いをしたいものである。残念ながら俺には好きな人どころか気になる人もいないので、縁遠い話だ。
 片言をやめて酸っぱいものを食べたような気分を味わっていると、ヒューが音に出さず笑い、木々の間を指した。

「おしゃべりじゃねぇから、魔法はうまく使えるよな?」

 いい人だと思っていたが、意外に意地が悪い。どこかの兄のようである。小粋でありながら意地悪な言動は兄が好んでしているけれど、明るくて素直な俺はいつまでたっても遊ばれてしまう。

「おしゃべりは上手にできるから、そういう甘酸っぱい感じはない感じで」

 クールな男には、もうなれない。諦めて、口を尖らせ可愛げのある拗ね方をする。逆に憎らしく見えてしまう顔であるが、ヒューも今度は声を出し笑ってくれた。

「そうだな、運命はもっと違う奴と感じたい」

「お、運命論者らしいことば。理想の運命……は聞いたら面倒くさそうだなぁ」

「まぁな。大概、理想とは程遠いがな。色々」

 魔法の世界も現代社会も、そこは似たようなものだ。理想というものは遠くて儚く、追い続けて掴み取るにしても並々ならぬ努力と運と徳とその他もろもろが必要になるものである。
  

「今はそれじゃなくて……魔法はさ、補助魔法というか……こう、開けゴマ的な魔法は得意じゃないんだ。ヒューはできる?」

「おう、今は補助魔法のほうが得意だ」

 大木についていた石を壊した魔法は攻撃魔法で、一言で発動していた。驚きのあまり間抜けなことをいってしまったくらいすごいことなのに、ヒューはそれより補助魔法のほうが得意だという。こうなると一言も発さず、指を鳴らすだけで魔法を発動させてしまうのではないだろうか。

 俺はヒューが一人でダンジョンに入ろうとした理由が、一緒に行ってくれる人がいないこと以外にもあるような気がしてきた。

「じゃあ、お願いします」

 他の連中は足手まといだからとか、そういう怖い答えが返ってきたら嫌だ。だから、あえて突っ込まずに俺は手を合わせ頭を下げる。

「わかった。横道にそれる方向だな」

 ヒューは特に嫌がる様子もなく、指を鳴らす。すると木々が道を作るように脇に避け消えていった。

「規格外かーい」

 本当にヒューが指を鳴らすだけで、木々の一部が消えたことには驚きどころか感心が勝る。これでヒューの魔法的なスペックがチート級であることを確信した。今度から苦手分野はゴマをすっても頼っておこう。俺はそっと心の中で菩薩のような笑みを浮かべた。

「……さっきから、俺が魔法を使うたびになにかいってるが」

「他の人はいわないっていうなら、それは慣れってやつだと思うんだけど」

 ヒューは困ったような顔をしているけれど、俺の常識を覆す魔法を使うから、俺の口が滑らかになっているだけだ。俺も慣れればそのうち『よっ! まってました!』といって手を叩くと思う。

「当たり前に思われているんだが」

「ヒューのレベルが当たり前なら、俺、やばくない?」

 だが、ヒューの答えは意外なものだった。
 すっかり横道ができてしまったダンジョンの中、俺は急に絶望する。ヒューのレベルが普通なら、俺は入学式をする前から劣等生だ。入学試験もギリギリ合格、ダンジョンもヒューがいたからなんとかなったとかいうレベルではないか。

 これから魔法学校の授業についていけるのか、にわかに不安になってくる。

「そんなことはねぇよ。俺がこうであることが当たり前ってだけで、普通は……そう、ああいう感じの」

 ヒューが指さす先には、女の子の二人連れがいた。一人は綿菓子みたいなふわふわとした水色の髪の子で、もう一人のビシッとした灰色ストレートのおかっぱの子だ。
 水色の子は大剣を構え、灰色の子を狼五匹から守っていた。

「あー……灰色の子が魔法使いなんだねーあれが普通なら、俺も普通に……って、そうじゃなくない? 助けるところでしょ!」

 俺は慌ててバングルに触れた。
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