12 / 29
社畜への扉 4
しおりを挟む
『この洞窟も本当はこうやって焼いてしまうのが早いし楽だし、それが正攻法だからレベル高いやつか武器に相当積んだやつしかこれねぇの、あんた知ってる?』
知っているが、俺は武器に相当課金しているので真顔を作った。
『知ってるみてぇだけど、あんたが思ってるより高いからな』
俺がスン……とした顔になったせいでツーシーがいじけた声を出す。
成人男性がいじけて唇を尖らせていたら、俺もから笑いするだけだったが、なにせツーシーは小さな垂れ耳ウサギに変身している。低い声なのに可愛く見えて仕方ない。小動物ってずるいなと思いながら俺は岩から降りる。この辺りのスライム達が燃え尽きたのか、ツーシーがいじけてしまったせいか……潮が引いたように火の勢いがなくなっていたからだ。
『それにあんたはまだ、試してる』
ツーシーに近寄り、そんなことわかるんだと感心する。
この洞窟は最近解放されたものではなく随分昔に話題になったエリアで、ブラック会社に入る前から俺が頻繁に籠っていた。パラレルマギに復帰してからもかなり使っていて、俺の庭といってもいい場所でもある。
だから少し余裕があって、武器の装飾を増やしたときも新しい武器を手に入れたときも、試すのはここだ。
「いやでも」
しかしそれは俺が古参のプレイヤーで、この洞窟を多用しているからできることである。大したことではない。
『大したことあんだよ、あんたはすげぇの。俺はあんたがいなかったらパラマギでバトロイなんかしなかった……です』
思ったことをそのまま伝えようとすると、ツーシーが噛み付いてきた。
「大したことしてなかったと思うんですけど」
噛みつかれても事実を伝えることを諦めず、俺は首を捻る。動画でもそうだが先程からツーシーは俺を持ち上げてどうするつもりなのだろう。投げ銭くらいなら出すので早くライブ配信を開始して欲しい。
『……チョウラクノドカとやり合った時にあんた一人で落ちた』
ありがたさのあまりお布施がしたくなってきた俺を他所に、可愛いウサギから渋い声が出た。人は急に前触れもなくお布施をされたら驚くものだ。ツーシーはお布施の気配を察し、引いてしまったのかもしれない。
お布施から離れなければ……腕を組んで何度か首を捻り、俺は真面目なことを考えようとした。
そこで手を伸ばしてくれたのはノドカさんだ。
「チョウラク……ああ! あの時俺だけ落ちて笑われながらチームから追い出されたやつ」
チョウラクノドカとはチョウさん、ラークさん、ノドカさんの三人が組んだチームで、スリーマンセルのバトルロイヤルでは昔から大変有名である。
『あの時、チョウラクノドカの連中、あんただけは絶対落とすっていってた』
「あー、ノドさん達にはなんか気に入られてまして」
三人とは仲良くダンジョンに行ったりする友人であり、特にノドカさん……ノドさんとはリアルで飲みに行くような仲だ。ブラック会社に勤めていたときも三人から『早く会社辞めろ』といわれていた。いい奴らである。
『あんただけが怖いって』
「ボッコボコにしちゃった友人への配慮かな?」
『配慮なわけあるか! あるますか!』
怒ったりいじけたりしていたせいでツーシーから抜けていた敬語が勢いよく帰ってきた。勢いがよすぎて敬語というのもおこがましいことばになっているが、ウサギがいっているせいか微笑ましい。
「敬語、大丈夫ですよ。無理しないで」
『俺だって普通に敬いたい、ですが! あんたが、貴方様がっ』
知っているが、俺は武器に相当課金しているので真顔を作った。
『知ってるみてぇだけど、あんたが思ってるより高いからな』
俺がスン……とした顔になったせいでツーシーがいじけた声を出す。
成人男性がいじけて唇を尖らせていたら、俺もから笑いするだけだったが、なにせツーシーは小さな垂れ耳ウサギに変身している。低い声なのに可愛く見えて仕方ない。小動物ってずるいなと思いながら俺は岩から降りる。この辺りのスライム達が燃え尽きたのか、ツーシーがいじけてしまったせいか……潮が引いたように火の勢いがなくなっていたからだ。
『それにあんたはまだ、試してる』
ツーシーに近寄り、そんなことわかるんだと感心する。
この洞窟は最近解放されたものではなく随分昔に話題になったエリアで、ブラック会社に入る前から俺が頻繁に籠っていた。パラレルマギに復帰してからもかなり使っていて、俺の庭といってもいい場所でもある。
だから少し余裕があって、武器の装飾を増やしたときも新しい武器を手に入れたときも、試すのはここだ。
「いやでも」
しかしそれは俺が古参のプレイヤーで、この洞窟を多用しているからできることである。大したことではない。
『大したことあんだよ、あんたはすげぇの。俺はあんたがいなかったらパラマギでバトロイなんかしなかった……です』
思ったことをそのまま伝えようとすると、ツーシーが噛み付いてきた。
「大したことしてなかったと思うんですけど」
噛みつかれても事実を伝えることを諦めず、俺は首を捻る。動画でもそうだが先程からツーシーは俺を持ち上げてどうするつもりなのだろう。投げ銭くらいなら出すので早くライブ配信を開始して欲しい。
『……チョウラクノドカとやり合った時にあんた一人で落ちた』
ありがたさのあまりお布施がしたくなってきた俺を他所に、可愛いウサギから渋い声が出た。人は急に前触れもなくお布施をされたら驚くものだ。ツーシーはお布施の気配を察し、引いてしまったのかもしれない。
お布施から離れなければ……腕を組んで何度か首を捻り、俺は真面目なことを考えようとした。
そこで手を伸ばしてくれたのはノドカさんだ。
「チョウラク……ああ! あの時俺だけ落ちて笑われながらチームから追い出されたやつ」
チョウラクノドカとはチョウさん、ラークさん、ノドカさんの三人が組んだチームで、スリーマンセルのバトルロイヤルでは昔から大変有名である。
『あの時、チョウラクノドカの連中、あんただけは絶対落とすっていってた』
「あー、ノドさん達にはなんか気に入られてまして」
三人とは仲良くダンジョンに行ったりする友人であり、特にノドカさん……ノドさんとはリアルで飲みに行くような仲だ。ブラック会社に勤めていたときも三人から『早く会社辞めろ』といわれていた。いい奴らである。
『あんただけが怖いって』
「ボッコボコにしちゃった友人への配慮かな?」
『配慮なわけあるか! あるますか!』
怒ったりいじけたりしていたせいでツーシーから抜けていた敬語が勢いよく帰ってきた。勢いがよすぎて敬語というのもおこがましいことばになっているが、ウサギがいっているせいか微笑ましい。
「敬語、大丈夫ですよ。無理しないで」
『俺だって普通に敬いたい、ですが! あんたが、貴方様がっ』
0
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる