溺愛ゲーマー

つる

文字の大きさ
13 / 29

社畜への扉 5

しおりを挟む
 混乱して敬語がおかしな方向を走り始めている。
 俺はとりあえずうんうんと頷き友人知人を怒らせることばを吐き出した。
「わかるわかる、俺が怒らせてるのは」
 ツーシーならばどんな反応をするのか。試しにいってみたのだが、ツーシーは非常にご立腹らしい。ピョンッとその場で跳ねて、前足でフライングディスクを殴り始めた。
『認めんな! そんなだから色んな奴らが調子乗ってひでぇ扱いすんだよ! あん時だって、あんたがいなけりゃ予選すら通らなかったチームなのにポイ捨てみたいに……!』
 俺がいったのは激情家の友人なら胸倉を掴んで怒鳴り散らすくらいの煽り文句だ。ツーシーも例に漏れず怒った。しかしこのウサギは俺よりも俺をポイ捨てしたチームに怒りを感じているようだ。俺に飛びかかったり、俺に向かって怒りで鼻を鳴らしたりしなかった。
 それはそれとしてポイ捨てされたのは数年前だし、捨てられた本人は『このチームでやれることはすべてやり切った』と燃え尽きており、脱退が楽で良かったとすら思っていた。それほど俺は力一杯精一杯自分のやれることをやりたいようにやっていたのだ。ツーシーのように悔しいと思うことがなかった。
 お陰様で数年経った今でも『戻ってきてくれ』と頼まれることもない。友人知人やツーシーは憤るほどの出来事だったが、その時できることに全力過ぎて余力がなくコミュニケーションも最低限だったので、チームメンバーには『ディーは役に立たない』という印象を植え付けたらしかった。
「実際戦果は散々だったから」
『あれはあんたの足を引っ張ってたんだよ、あのチームが! あんたが散々になるほど働いて犠牲になってなんとかなってたんだよ! サクリファイスとかクソみたいな陰口叩かれてたんだぞ』
 フライングディスクを激しく蹴ってもどかしさを全面に押し出したウサギには悪いのだが、まったく後悔していないし恨みにも思っていない。あの頃はチームのことなどどうでも良く、それこそ試していたのだ。何ができて何ができず、偏った戦略でできることを愚直に試していた。
 ポイ捨てするのもなかなか非道だが、俺は俺で色々試すためだけにチームにいたのだから、お互い様である。
「実際、そうでしたから」
 俺が戦況を整え、囮になって戦線離脱する。そういう作戦でやってきたチームだった。最初は違ったのに、何回か上手くいってしまい、その作戦しかしなくなった。そりゃあ、犠牲サクリファイスともいわれるだろう。
『物分かりが良すぎる……!』
 フライングディスクをガツンと殴り、項垂れたウサギは弱々しくもかわいい。どうも俺はツーシーの姿に惑わされすぎである。
「本当のことなのに皆信じてくれないんですよね……何故か」
 友人知人もツーシーも俺の自己肯定感の低さを知っているから、また卑屈になっていると思うのだろう。それ故、本当のことなのに信じてくれない。
 だからといって悲しくなるわけではないし、それなりに図太いところもある。いいように思ってくれているなら、一応事実を告げてあまり彼らの意見を否定しないようにしている。
『そりゃあ、すげぇんだもん、あんた……俺、ずっと好きだし、憧れあんだもん』
 相当可愛げのある後輩みたいなことをツーシーがいいだし、俺は右手を抑えた。
 この可愛いうさぎを撫で回してしまったら、きっとこのきゅんとくる後輩感は無くなってしまう。
 尊敬されるキラキラの先輩には今更なれないが、この可愛げを一瞬でも長く浴びたい。
「俺のほうこそ、ツーシーさんが好きなんですけどね」
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

ヴァレンツィア家だけ、形勢が逆転している

狼蝶
BL
美醜逆転世界で”悪食伯爵”と呼ばれる男の話。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...