溺愛ゲーマー

つる

文字の大きさ
21 / 29

気まぐれマジシャン 1

しおりを挟む
 大会の出場申し込みをする際、毎回困ることがある。
 俺の主用武器と職業だ。
 リアルではニート、武器を使える資格は持っていた気がするが、免許の更新をしていないため履歴書に書くだけの飾りになっていた。
 パラレルマギでは復帰してから主に使っている武器が存在しておらず、強いていうなら棒を多用している。職業は昔も今も定まらず、色々な武器を使ってもおかしくないということで、悩みに悩んで戦士ということにしていた。
 パラレルマギには他のゲームのように職業補正というやつがない。だから自由に職業を自称できた。
 それにも関わらず、プレイヤー達が職業を定めたがる主な理由は三つある。
 一つ目、エリアやダンジョンを攻略する際、大会出場する際に能力がわかりやすくチームを組んだりするのに便利だから。
 二つ目、自己紹介がしやすいから。
 三つ目、それっぽい職業がある方がかっこいいから。
 パラレルマギは老若男女に人気のあるゲームだ。もちろん、配信者にも人気があり、配信をみた人々が無課金エリアで遊ぶのも楽しい。その上魔術を学ぶのにいいといって、昨今では学習エリアもできた。
 そんなわけでプレイヤーが多く、初対面同士でチームを組むことも多々あるし、大規模ヌシ攻略となると他のチームと協力することもある。その際職業がわかれば何ができるかわかりやすいので、時間短縮になるし、作戦が立てやすい。
 他人と一緒に何かするなら自己紹介をする機会も増えるし、職業は話のネタとしても優秀だ。
 そしてプレイヤーの多くは年若かったりオタクだったりするもので……拗らせている可能性がある。つまり、そう、好きなのだ。どうしようもなく、現実ではあまり見ることのない職業が。
 そういったお年頃の時をパラレルマギをして過ごしたこともあり、俺は遊び心と憧れを持った大人になった。
 お陰様で未だに騎士とか暗殺者とか盗賊とか……書けない職業を書きたい誘惑に駆られる。
「どうしたものか……」
 ツーシーと顔合わせをして洞窟で互いの熱い思いで平行線をウロウロしたあと、俺の思いつきで当日参加できる大会に出場することになった。
 俺達の参加するのは廃棄都市バトルロイヤルで、廃棄された都市の建物群に潜み、戦い、生き残れば勝ちの大会である。
 その俺達が参加する大会で使われる廃棄都市は『虚構の栄華ネーレ・ガルバルリ』だ。栄華を極めたネーレ国のガルバルリという都市が大昔にあって、それが敵対国により一夜にして陥落した。それにも関わらずいつまで経っても栄華に縋り死人が彷徨っている。なんて話があるアンデッド系モンスターが踊り狂っている場所、それが『虚構の栄華ネーレ・ガルバルリ』だ。
 そんなところで大会をすると、モンスターを倒しながら大会参加者を倒すというハードなことをしなければならない。
 そうなると俺が使う武器は、アンデッドを倒すのに楽な武器がいいか参加者を遠距離から狙い撃てる武器がいいのか。
 武器によって大会出場申し込み用紙に書く職業は変わるので、俺はペンを持ったまま悩んだ。
『マジシャンにすればいい』
 悩みすぎて禿げそうになっていたところ、申し込み用紙の空欄を埋めてしまったツーシーから声がかかった。
「……書くの早くない?」
『早くない。あんたが遅いだけだ』
 ウサギの姿をしているのにどうしたらそんなに早く、空欄が埋まるのか。
 俺は名前しか書いていない紙とウサギが踏んづけている紙を見比べた。
「字、綺麗」
 ウサギってペンを持てる生き物だったかな? と、余分なことに思考を割き首を傾げる。
『……まぁ、半自動だから』
 ウサギが前足を上げて小さく唱えた。
『【書け】』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

ヴァレンツィア家だけ、形勢が逆転している

狼蝶
BL
美醜逆転世界で”悪食伯爵”と呼ばれる男の話。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...