22 / 29
気まぐれマジシャン 2
しおりを挟む
ツーシーの声がいやにはっきりと聞こえたと思ったら、俺が持っているペンがキラキラと光り出し、俺の手から勝手に抜け出す。その後、くるくると申し込み用紙の上で踊り出し、あっという間に俺の職業を書き出した。
「なんでマジシャン?」
キラキラのペンが書き出したのは、先程、ツーシーが口に出した『マジシャン』という職業だ。俺はパラレルマギを始めてから今日まで、ゲーム内では人前で魔術を使ったことがない。そんな人間に魔術師とは……ツーシーには一体何が見えているのだろう。
『奇術師でもいいが……俺が見たいから』
奇術師といわれて脳裏にシルクハットと鳩が思い浮かんだ。そう思えば手品をする人もマジシャンといったなぁ……と、しみじみ思い、俺はおもむろに親指を隠し、親指切断マジックをしてみせる。
「マジックショーを?」
『ディーサンの魔術を』
ウサギはたぶん真顔で首を振った。
種も仕掛けもありませんというにはあからさますぎたようだ。もっと初めから隠さないといけないか……と俺は心の中で深く反省する。
そんな俺を無視してウサギは急に前足を揃え、目を背けた。
『マジシャンなのは……あんたがびっくり箱みてぇな人だから』
俺は恋人の第一印象でも聞いたのだろうか。ウサギの声が照れくさそうで、なんだかかゆい。恋人じゃないですよ、ただの厄介キモオタですよと走り出したい。
「けど流石に詐欺だよなぁ、マジシャンじゃあ」
俺は暴れ出したい衝撃を抑え、冷静に真っ当なことをいったが、まだかゆい。腕を組んで掻き出さないよう手を押さえた。
『なら、なんの武器が使いたい?』
「有利ならなんでも」
『なら、こうか』
ウサギの前足が動くと、再びペンが動き、マジシャンの横に『便利屋』と記入する。さっきまで照れていたウサギは何処にいったのか。俺の切り替えも早いが、このウサギもなかなかだ。さらっと俺に対する皮肉っぽい職業を書き出した。
「便利?」
『有利な武器を色々使ってくれるなら、便利だ。それとも万能屋がいいか?』
かつて俺の憧れた職業とは違うが、オールラウンダーは流石に格好良すぎる。便利や万能は職業ではなく特性のような気もするが、俺は未だにキラキラしているペンを手に取りマジシャンに二重線を引いた。
『万能じゃなくていいのか?』
心底残念そうにウサギがこちらを見上げてくる。だが、残念ながら万能は過言である。
「便利屋くらいがちょうどいいかなと」
便利に使われているという意味ならぴったりの名前だ。
俺がペンを動かし始めると、キラキラがスゥーっと消えた。
「弓、投げナイフ、槍、棒、剣、短剣、杖……くらいでいいか」
用紙に書いたものを確認するために口に出すと、ウサギがぴょんぴょん跳ねて喜び出した。
『ディーだ!』
「あ、はい。ディーです」
ウサギなのでかわいいのか、可愛らしい反応だからかわいいのか。なんだかとてもかわいいツーシーに面食らっていると、ウサギはぐるぐる回って再びぴょんぴょんと跳ねた。
『ディーだ……!』
「あの、ツーシーさん?」
跳ねてはぐるぐる回り、また跳ねる。
ツーシーの喜びようがあまりに激しく、俺は置いてきぼりを食らった気分になりつつ声をかけた。
『はは、ふふ……ディーとゲームだ』
あまりに嬉し過ぎたのか、俺の声は聞こえていないようだ。申し込み用紙二枚の角をまとめて咥えて、ウサギが走り出そうとする。
もしかしてそのまま申し込み窓口に提出するつもりだろうか。
「ちょっと待って……待って!」
ウサギのスピードが加速する前に、ウサギを囲うようにして腕で壁を作るとウサギが俺の腕を跨いだところで動きを止めた。
「チーム名! チーム名いれてないから!」
ウサギはハッとしたようで、身体を固めたあと、ふにゃふにゃと力を抜く。
『ごめん……』
「いや、謝ることでもないから、というか……そんなに俺とゲームしたかった?」
ウサギがピョーンと驚いたように跳ねると、あわあわと辺りを見渡し始めた。もしかして隠れる場所を探しているのだろうか。
そう思うと同時に俺はウサギの足元を手で囲っていた。
「いや、待て!待たないとチーム名勝手に決めるぞ……!」
「なんでマジシャン?」
キラキラのペンが書き出したのは、先程、ツーシーが口に出した『マジシャン』という職業だ。俺はパラレルマギを始めてから今日まで、ゲーム内では人前で魔術を使ったことがない。そんな人間に魔術師とは……ツーシーには一体何が見えているのだろう。
『奇術師でもいいが……俺が見たいから』
奇術師といわれて脳裏にシルクハットと鳩が思い浮かんだ。そう思えば手品をする人もマジシャンといったなぁ……と、しみじみ思い、俺はおもむろに親指を隠し、親指切断マジックをしてみせる。
「マジックショーを?」
『ディーサンの魔術を』
ウサギはたぶん真顔で首を振った。
種も仕掛けもありませんというにはあからさますぎたようだ。もっと初めから隠さないといけないか……と俺は心の中で深く反省する。
そんな俺を無視してウサギは急に前足を揃え、目を背けた。
『マジシャンなのは……あんたがびっくり箱みてぇな人だから』
俺は恋人の第一印象でも聞いたのだろうか。ウサギの声が照れくさそうで、なんだかかゆい。恋人じゃないですよ、ただの厄介キモオタですよと走り出したい。
「けど流石に詐欺だよなぁ、マジシャンじゃあ」
俺は暴れ出したい衝撃を抑え、冷静に真っ当なことをいったが、まだかゆい。腕を組んで掻き出さないよう手を押さえた。
『なら、なんの武器が使いたい?』
「有利ならなんでも」
『なら、こうか』
ウサギの前足が動くと、再びペンが動き、マジシャンの横に『便利屋』と記入する。さっきまで照れていたウサギは何処にいったのか。俺の切り替えも早いが、このウサギもなかなかだ。さらっと俺に対する皮肉っぽい職業を書き出した。
「便利?」
『有利な武器を色々使ってくれるなら、便利だ。それとも万能屋がいいか?』
かつて俺の憧れた職業とは違うが、オールラウンダーは流石に格好良すぎる。便利や万能は職業ではなく特性のような気もするが、俺は未だにキラキラしているペンを手に取りマジシャンに二重線を引いた。
『万能じゃなくていいのか?』
心底残念そうにウサギがこちらを見上げてくる。だが、残念ながら万能は過言である。
「便利屋くらいがちょうどいいかなと」
便利に使われているという意味ならぴったりの名前だ。
俺がペンを動かし始めると、キラキラがスゥーっと消えた。
「弓、投げナイフ、槍、棒、剣、短剣、杖……くらいでいいか」
用紙に書いたものを確認するために口に出すと、ウサギがぴょんぴょん跳ねて喜び出した。
『ディーだ!』
「あ、はい。ディーです」
ウサギなのでかわいいのか、可愛らしい反応だからかわいいのか。なんだかとてもかわいいツーシーに面食らっていると、ウサギはぐるぐる回って再びぴょんぴょんと跳ねた。
『ディーだ……!』
「あの、ツーシーさん?」
跳ねてはぐるぐる回り、また跳ねる。
ツーシーの喜びようがあまりに激しく、俺は置いてきぼりを食らった気分になりつつ声をかけた。
『はは、ふふ……ディーとゲームだ』
あまりに嬉し過ぎたのか、俺の声は聞こえていないようだ。申し込み用紙二枚の角をまとめて咥えて、ウサギが走り出そうとする。
もしかしてそのまま申し込み窓口に提出するつもりだろうか。
「ちょっと待って……待って!」
ウサギのスピードが加速する前に、ウサギを囲うようにして腕で壁を作るとウサギが俺の腕を跨いだところで動きを止めた。
「チーム名! チーム名いれてないから!」
ウサギはハッとしたようで、身体を固めたあと、ふにゃふにゃと力を抜く。
『ごめん……』
「いや、謝ることでもないから、というか……そんなに俺とゲームしたかった?」
ウサギがピョーンと驚いたように跳ねると、あわあわと辺りを見渡し始めた。もしかして隠れる場所を探しているのだろうか。
そう思うと同時に俺はウサギの足元を手で囲っていた。
「いや、待て!待たないとチーム名勝手に決めるぞ……!」
10
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる