ある日突然Ωになってしまったけど、僕の人生はハッピーエンドになれるでしょうか

柚ノ木 碧/柚木 彗

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番外編 ある意味最強凶器で打撃武器

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 side.クラウディオ・レオーニ


「それ、俺が殺されるだろ。」

「お前そんなに弱かった?」


 買い被るなよ?少なくともお前に会った当初の俺はお前よりも弱かったからな。


「…クラ…あ~倉敷?だかの番相手、皇グループの御曹司だろうが。」


 だから?と、キョトン顔の不破。
 お前がそんな顔をするなんて珍しい…等と思ってみたが、そう言えば最近のコイツは以前とは違い、顔付きに感情があるようになって来ている。
 初めてあった時はありきたりな表現だが、研ぎ澄まされたナイフのようで、うっかり触れると此方が怪我をしそうだった。それが今では場合によってだが、以前とは違った柔らかい表情を見せる。

 面白くない。

 惚れた相手が別の相手を番にして幸せそうに過ごしている。
 出来たら不破の相手は俺だったら良かったのだが、クソ生意気にも10代のお子様と来た。
 更にはΩ。そうして俺はα。

 …どうやっても覆せない。

 世間的にはΩはαに勝てないとか、αは王様なんて言われているが、実際にはΩが優位な場面は多々ある。

 例えば、αはオメガのフェロモンに弱い。
 意中の相手がαの場合、絶対的にΩに勝てない。
 力や権威で勝てても、必ずしも優位になれるわけ出はない。

 他にも儚くも優美なのは圧倒的にΩ性の方が男女共に上。
 俺の主観だが、αは美しい者も居るが、何方かと言うと威圧系や冷ややかな冷徹さと言ったモノの方が多い気がする。中身腹黒とかは特に多い。
 その方が優位になりやすいからなのだろうが、恐れられたり怯えられたり、逃げられたり冷たい目で見られる率の方が多い。

 特に日本人!
 俺の容姿が怖いからとか、身長が高いからとかで一目見ると一歩下がる輩が多すぎる。
 ぶっちゃけると怯えたりしなかったのは不破とその番相手位しかいないぞ。

 …いや、最近一人の女が極々普通に接してくれたなぁ。
 日本に来てからほぼ初めて出会った人間、特にΩやβには怯えられることが多すぎて辟易するのに対し、その女は堂々としていた。

 正直ちょっとだけ興味が湧いた。
 湧いたのは良いのだが、不破の番相手よりも若いと聞いてからこう、何と言うか、年齢的にも子供としか思えない。
 学生らしいし。
 ただ何故かやたらと話が合うし、一緒に居ても気疲れなど無く気楽で居られる珍しい女。いや、女の子か。ただ女というような性別を感じさせる風なことがない、不思議な人物。

 …今はこの話は置いておこう。


「皇グループとは言え、日本の企業だから。」

「?」

「日本人って危機感無いだろう?」


 確かに。
 俺達みたいなモノから見たら隙だらけにしか見えない。簡単に騙せそうだし、一時期ノーと言わない日本人なんて言葉もあるぐらい圧に弱そうだ。
 外国等に行けば、ほぼほぼアジア人はスリ等のターゲットになる。それだけ隙があり過ぎるからだ。


「確かに。」

「特にレオーニみたいな裏世界に居た人間から見て、皇グループってどう見える?」


 ふむ、と声に出して思案する。


「企業としては上流だが、現段階で言えば…今回の倉敷?と言う子供が弱みだと設定するならば、拉致し、番相手から金を引き出させることは出来る。その後、顔を見られたら殺してしまえばいいし、死体は国内よりも外国に持ち込めば良いだろう。Ωってだけで死体でも内蔵を欲しがる変人は多いからな。それとも生かしたままで外国に連れ去ってからバラすって言う手もあるか。他にも薬漬けにして記憶も意識もあやふやにしてからその手の組織や場所に売るという手もある。」

「…こわ!外国こわ過ぎ!お前怖い!」


 元マフィアだからな、一般人なら怖いだろう。
 そうして怖いと言っている不破の方が過去やらかした具合が恐ろしいのだが、自覚していて今この台詞を吐いているだろうな。
 怖いと言いつつ目付きは完全に態度と台詞とは違って楽しんでいる。
 全く、銃刀法違反等と言うモノがある国家の日本人が他国でぶっ放した回数、百や二百では足りないからな?少なくとも平気なツラで銃撃戦の最中に突っ込んで、一人生き残るなんて異常だから。
 防弾ベストを着ていたと言っても普通は無理だから。


「不破が聞いてきたのだろうが。」

「で、ソレってお前なら出来ると言う奴?」

「危ない橋は渡る気もないし、渡るつもりもない。少なくともお前の知り合いにはやりたくはないし、やりたいとも思わん。」

「それって俺は喜ぶべき事柄なのか、それとも嘆くべきなのか…。」

「言っとくが、表立ってその手の仕事は今はしていないぞ。」

「過去していたと。」

「ノーコメント。」

「こっわ!」

「此処じゃしねーよ。」

「それってお前…、まぁいいや。今はそんな話じゃない。」


 斜め上を見ながら不破が口を開く。


「さっきのレオーニの台詞を蒸し返すが、お前が死ぬっていうのは無いのでは?」

「不破が頼んだ護衛対象の番が上位αでなければな。」

「あ~…。」

「上位αって言うのは威圧が高い。不破みたいな最上位で、年齢も経験も熟している相手なら皇坊やの威圧は効かないだろうが、俺だと微妙だな。不意打ち食らえば一瞬の硬直位は掛かるだろう。で、硬直した途端一発で終わるな。」


 一瞬で済むのか。
 なんて声が聞こえたが、ソレは皇坊やが経験未熟な年齢だからだ。
 これが政治的な意味でも人生経験でも、社会に出て経験豊富な三十代中盤に差し掛かると恐らくその一瞬の解除は出来なくなるだろう。

 最悪、一般的では無いが傭兵にでもなり戦場に出る様になると更に威圧が桁違いに悪化する。その悪化した相手が今目の前にいるって言うのも稀だよな。


「そう言えば皇君は最上位だったか。」


 忘れていたと呟き、片手で自身の顎を触る不破。
 滅多に居ないからな、最上位αって言うのは。
 少なくとも俺は不破以上の最上位なんて見たことがないぞ。それこそ、ついこの間ソレっぽい輩を見たがフェロモンも出ないβだったので驚いたけど。
 α性があるが残念ながらβになってしまった男なのか?と思ったぐらいだ。
 その男の伴侶というのもΩ臭いくせにβの男だったな。異様な程に妖艶な美人で、その沸き立つ色気に一瞬訳ありの女が男装しているのかと思ったぐらいだ。

 ………その美人、今回不破が依頼してきた子供にソックリなのだが。いや子供がソックリなのか。もしかして、関係者だったりするのか?親戚や身内とか?不破が昔やらかしたってことは…。

 三角関係だったとかするのか?

 何だろう、すげーむず痒いのだが。


「所で不破、時間不味いのではないのか?」


 色々話を聞きたい気がするが突っ込んだら駄目な奴だコレ。
 絶対鬱憤が貯まる。確実に貯まる。


「うげ、20分過ぎている!」


 20分じゃなく既に30分越えているな。
 等と思った次の瞬間、ドアの前からオドロオドロシイ気配?
 いいや違った、殺気が…。

 俺は日本に来て初めて幽霊もしくは妖怪?と言うのか?頭と言うか額からツノが出ているような錯覚、いや幻覚が見えるような…。


「不破、俺はお前の番が心底恐ろしいと思う。」


 あの殺気は俺には出せないし、不破も無理だと思われる。
「ぴゃ!」とか変な声を出した不破が大慌てでドアを開けると、極寒の地を思わせる冷気を纏った赤銅未明が、フライパンを片手に突っ立っていた。

 ※

 不破  「何故フライパン」
 レオーニ「ある意味最強凶器で打撃武器」
 不破  「確かに…げふぅ」
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