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【食堂】
しおりを挟むケイン・ノスタルジア・ジアス様。
何故このしがない庶民の食堂に!
この国の魔法大臣のご子息様が極々普通の市民の食堂に居るなんて、どう考えてもおかしいでしょ?しかも一般庶民が口にする、安価な食材を調理した食事をしているなんて。
ふと、前世の知識の中にあったエピソードを思い出す。
○中角○元総理大臣のお手伝いさんが買い物に出た際に魚のアラを購入。その際天下の総理大臣のお手伝いさんが何故魚のアラを購入?と、不思議に思った人が「それをどうするのだ?」と疑問に思って質問。答えに困ったお手伝いさんが、「犬の餌にする」と答えたという。
…本当は元総理大臣の好物で、そのことを知っているお手伝いさんがワザワザ購入したのだが、元総理大臣に申し訳ないと思い、咄嗟にお手伝いさんがついた嘘。
本当かどうかはわからないけど。
このエピソードから察するに、権力者と言うのは時として妙なモノを食すという事?
徳川家康も鯛の天ぷらの食べ過ぎで亡くなったと言うエピソードもあるし。
諸説あるけども。
私が努めている店の料理が妙なモノと言うわけではないし、前世の時の権力者である田○角○さんが若かりし頃苦労していたと言うのも聞いたことがある。
…どうでも良いのだけど、前世の自分の名前も家族の顔や友人の名前も一切出て来ないのに、何故かそれ以外の歴史上の人物とかが朧気だけど思い出すというのは一体どういうコトなのだろう。
未だに意味がわからない。
転生者のあるあるネタなのかどうかもこの世界ではわかっていない。
そもそも転生した人が他に存在して居るのかも私にはわからないし、現時点で調べることも出来ない。あ、乙女ゲームのヒロインは別でお願いします。
何せヒロインちゃんと交流したことが無いから転生者かどうかもわからないし、ね?
町の図書館に入れればもしかしたら調べられる?と思ったりもしたが、何せこの町の観覧料金が高い。他所の町の図書館等見たことが無いから知らないけど、断言できる。
高いなんて一言で言えるぐらいに高い。
観覧料が前世の日本円で軽く五千円を超える。恐らく滅多に人が来ない為に値段設定を高くし、本の保管料込の料金を払わせて居るのだろうとは思うけど、その御蔭で一度たりとも足を運んだ事がない。
多分この町の庶民も入ったことなど無いのでは無いかと思う。
何せ無一文に近い状態でこの街に着いたし、お金が無くて働いているし、貯めたお金は今後の事を考えて貯金をしているから無駄には出来ない。更に言うと私には身分証明が出来るものが無い。身分証明出来ないと町の図書館に入れないのよね~…困ったことに。
ジーニアス兄さんに頼めば恐らく入手出来るだろうが、何と言うか…あの兄さんのことだから、『伯爵令嬢』として記載しそうで…と言うか、あの兄なら確実にヤル。
と言うか、それ以外無い。
そして虎視眈々と私を伯爵家の令嬢へと仕立て上げるだろう。
最も現在手出できないようだけど。
私自身が拒否をしている状態だし、何より幼少時より我慢を強いられて来たのでジーニアス兄さんは『強制』が出来ない。
以外なことに、デュシー姉さんとその娘のティナちゃんが「レッティーナちゃんの嫌がることはしないで」と頼み込んで居るらしい。ティナちゃん、話せるようになったのか。そして随分と確りと考えを言うようになったみたいだなぁ~。まだ幼いから、デュシー姉さんの受け売りだろうけど。
この件は王都にいる長女のシドニー姉さんからの手紙で知った。
シドニー姉さん曰く「レッティーナが伯爵令嬢になってしまったら、まさか私もってコトはないわよね?」と言う理由らしいが。
シドニー姉さん、既に結婚して商家の旦那さんとの間に二人の子供が居る。そんな状態で商家の嫁としているのに、今更貴族って言うのは嫌らしい。
貴族にツテを得られるのは良いかも知れないけれど、その場合旦那の面目を潰してしまうのが嫌らしい。
何と言うか、まぁ…。
シドニー姉さん幸せなのだろうなぁ。
旦那さんに大事にされてなければこのようなこと考えないよねぇ。
チョット羨ましいゾ、っと。
もし仮に「前世の記憶があります」「前世の世界はビルと言う鉄筋コンクリートのジャングルが木々の変わりに」とか、「馬車ではなく鉄で出来ている車が道路を走っている」等と言いふらして居たら、私なら決してその人物には近寄らない。
ヤバイ奴にしか思えないもの。もしくは詐欺師。
最も、私の住んでいた場所は鉄筋コンクリートのジャングルなんてモノは無い。
田舎でしたから~、前世も今世も田舎者ですが何か?
ふ、都会者よ喜ぶが良い。前世の私の住む所は『町』ではなく、村だ。人口なんぞ限界集落と言われている場所で、ヤバイくらいに若い人が居ない。
居るのは年寄りばかりだ。
そんな場所だからコンビニなんて車で何十分も走って国道にでないと無かったし、百貨店?え、それって生きているの?スーパーナニソレ?という場所。
電車は通っていたから特に不自由はない。
…いや、平日朝二回と昼二回と夜に二回の系6回しか通って無かったのは不自由だったけど。せめて夜中と言うか、夜8時までは走って欲しかった。学校が終わってから急いで帰宅しないと間に合わなかったから、部活は遅くまで出来なかったよ。
さて、話をぶり返すが。お貴族様が何故このしがない店にと言ったら、ニキ様もですけど。勿論ケイン様も。お二人とも伯爵家のご子息様なのに。
ニキ様は皆に騎士団団長の息子と町の皆に知られているからいいけど(いいのかってツッコミは兎も角)、ケイン様はもしかしてお忍び?
そう言えば格好もお貴族様の衣装と言うより、少し身なりがいい…あれ?
ニキ様が護衛っぽい衣装しているのだけど。衣装は多少お金が掛かっている感じになっていて、対してケイン様はちょっと商家のお坊ちゃんっぽい感じがする衣装を身につけて居る。
記憶の中にある『乙女ゲーム』の世界だと、普段攻略対象者達や学園の学生達は指定された制服を身に付けて居た。それが日本の学生のようで、時代設定が中世っぽくて妙な感じがした。学生服のスカートが現代風のスカートで丈がミニスカートとは言わないけど、時代設定が中世設定なのにも関わらず比較的短めなのに対し、何かしらの行事があってドレス指定をされるとスカートの場合ロング丈が当たり前。ミニスカートの場合もあるけど、その場合は幼い娘限定になる。
その為、背伸びしたい学園の女の子達は皆ロング丈にしていた。大人に見られたい年頃ってワケですね~。もしくは好きな男性に少しでもよく見られたいと言う乙女心なのかもしれない。
尚乙女ゲームの主人公であるヒロインちゃんは、一学年の時は親から送られて来たお古のミニスカートに見えるドレス。ヒロインちゃんの家ってド貧乏だものね。
…ウチの実家も同じド貧乏だけど。
でもね。ぶっちゃけると、ヒロインちゃんの親がマシだったから、ウチよりかなりいい待遇だと思う。何せ私なんて実の父親に借金返済の為に身売りされた身ですから!
おっと、つい愚痴ってしまった。
ソレハトモカク。
時折イベントで着ていたケイン様やニキ様達攻略対象者の普段着等の衣装は、どの角度から見てもあきらかにお貴族様のお坊ちゃんっぽい衣装を身に付けていた。学園内だからみっともない衣装を身につけるのは体裁が良く&見栄みたいなモノなのだろうなあって今なら思う。
伯爵以上なら尚更だよね。
伯爵の子息や令嬢が、一般庶民な衣装を身に纏っていたらどうみても可笑しいし。
ウチみたいな貧乏男爵家だと、王都の学園に入学も出来ないから(長男は別だけど…)乙女ゲームでの情報しか知らないけど、前世の頃は制服以外の普段着の姿絵を見て、流石『乙女ゲーム』絵師の趣味か。もしくは製作者側の趣味かと思っていた。
言っちゃ悪いけど、前世の乙女ゲームでの攻略対象者の衣装って極稀に意味わからない変な衣装を着させて居るのが多かったし。
リアルでこれ着ている人居たら『痛い人』もしくは『残念な人』としか見えない。
製作会社の人達わかっているの?と問い質したくなる。
私の感性が人と違うのかしら?と思ったけど、ネットの評価も「服装がちょっと…」と言う評価が多かった。
最も私が偶然、偶々そういったのを『ちょっと多目に』見ただけかも知れない。
某ファミレス系ギャルゲーを作っていた会社の乙女ゲームなんて、攻略対象者達の制服の上着の襟の部分が、縞々…いや、その。
何かすまん!
趣味は人それぞれ。
うんうん、きっとそう。
誰か違うと言っても、そうだって言い切ってやる!
よし、話題を逸らそう全力で。
前世の乙女ゲームの知識だと、運が良いとランダムで発生するイベントの一つに街中に出掛けると言うのがあった。
そのイベントでは攻略対象者達がそれぞれ庶民の格好をし、お忍び(一部の人はどうみても見えないが…)状態で街中を彷徨いているというもの。
攻略対象者が一人(隠れた護衛は居る模様)で出歩いて居たり、護衛と共に裕福な商人の子の格好をして散策をしていたりと様々で、決してヒロインと共に出歩くと言う事だけではない。
高感度を上げていけば攻略対象者と街中で出歩くと言うイベントも発生するが、一学年はほぼヒロインはボッチ(御一人様)で街中を出歩き、その際に攻略対象者に極稀に出会うことがある。
そう言えば今気がついたのだけど、街中で偶然出会うのって、ジーニアス兄さんの場合が多いのよね…。
現在第二王子専属の近衛騎士として所属しては居るけど、最初は騎士団に入隊して居たらしいし。だから街中を彷徨いて居るのかしら?この辺り詳しく知らないのよねぇ。兄さんの攻略方法も、街中で云々よりも第二王子であるユウナレスカ様を警備して居る学園内でのイベントが多かったと思うし。詳細は覚えて居ないけど。
うーん、今度手紙で聞いてみよう。
ただうっかり何度も手紙を送ると、その都度謎のべろんべろんによれた手紙が届くことがあるからチョット…いや、かなり遠慮したい。
ジーニアス兄さん、これ絶対泣きながら書いているわよねぇ…。
御免ジーニアス兄さん。
ゲシュウの妾から開放されてから一度も会いに行って居ないから余計に心配掛けているのだろうけど、私は王都の兄さんの所に身を寄せる気はない。
『せめて顔を見せて欲しい、出来たら一緒に住んで欲しい。生活費のコトは気にするな、何なら手習い事でもなんでもやって良いから!』と何度も書いている手紙が来るけど。
手習い事って何あるのか知らないのだけど…。
この世界って前世のようなピアノとかあるのかしら?それと、うーん…習い事って習字とかバレエとか算盤、それにバイオリンに英会話、水泳にお茶と舞踊?料理教室に刺繍。
あとはええと…
剣道に空手に柔道、弓道に薙刀?
体操というのもあったわよね。
この世界、私が思ったことってほぼ刺繍以外無さそうだわ。探したらあるかも知れないけど、他に思い当たるのって何だか分からない。
西洋の武技と剣道は違うからね。
細々言ったら他にも違いはあるのだけど、武器が違うから。
やばい、話脱線し過ぎた。
乙女ゲームでの知識でだけど、攻略対象者であるレスカ様達が城下町でのイベントで、一般市民に紛れる為に着る衣装がまぁ…
最高に似合っていて格好良かった~!
変に飾り立てている様子もない。
市民が通う町に行くのに飾りたてるなんてコトはしてはならない。特に治安が悪い所に向かうにはあってはならない。まぁ王都の治安が悪いか良いかなんて知らないけど。ゲームの知識でもその辺りは無かったような気がする。
…覚えてないけど。
兎も角、無駄に飾りたてるのは『自分は裕福です、お金あります。さぁ犯罪者さん達狙って下さい!』と看板背負って無駄に犯罪に巻き込まれる為のアピールをしているようなものだ。
折角此方に転生したし、前世の記憶もあるし?
出来ることなら、否。もし機会があったら意地でこの目で一目でも見てみたかったと思って居た。最も乙女ゲームの時期は過ぎたし、何より彼等は王都から滅多に出ないだろうと思っていたし、来るとしたら領地位だろうし。そうなると何時見られるかわからない。もう無理だろうなって諦めていた。
の、に。
なんて事でしょう。
軌跡が起こった!
じゃなかった、一文字違う、奇跡の方!
軌跡だと車輪の跡の方になってしまう。そっちではなくて、驚くべき事柄の方!
落ち着け私!そして目の前の奇跡を脳内シャッターで切って脳に焼き付けて記憶するのよ!
長年夢見ていた目の前の奇跡をっ!
ニキ様とケイン様のお忍び衣装―!って、ニキ様はお忍びじゃないみたいだけど、それはそれで!ヤバイ、目が幸せ過ぎるっ!
目の保養!
おっと、今は仕事中だった。
ヤバイヤバイ、ウッカリ取り乱しちゃったわ。とは言え心の中でだけだけど。いやぁ、興奮して声に出してしまうなんて失態は致しませんよ?素で無表情にはなっているかも知れないけれど、今はお客さんが去ったテーブルを拭いて居るだけだから大丈夫。
無問題。
下を向いているからね!
…大丈夫だと思いたい。
「おい、今日もまた子爵様のご子息様が来店しているようだぞ」
「それいったらさ、ソコの席に座っているのって、男爵家のご令嬢だろう?」
もしも~し、それ言ったらソコに座っていらっしゃるニキ様にケイン様、伯爵家のご子息様ですぜ?しかも両名とも跡取り息子。拝んで良い?
とは言えないけど、コッソリ心の中で呟いておく。
うん。何故だろうね~。
ウチの食堂って何故かお貴族様の来訪が多いのよね。
オカシイ。下町の食堂なのに。
オシャレなカフェとかじゃないのだけど、良いのかお貴族様。
治安とかウチの店は微妙だぞ?そこの客なんて何処からどう見ても怪しいし。とは言え当人は見た目が怖いだけの筋肉自慢なだけなのだけど。
それとも貴族に流行っているのかしら?だから魔法大臣のご子息であるケイン様が訪れたとか?いや、それでもモイスト領からケイン様の領地は遠い筈だからワザワザ来ないわよね?だとしたらニキ様が偶々誘って来ただけってコトなのだろう。
「レナちゃんのオリジナルレシピがお貴族様達の口に合ったのだろな」
「滅茶苦茶旨いからな」
「だよな。先日から子爵家の料理人にどうかって誘いがあるって話だろ?」
お誘いは確かにあります。
でもね?
話をしに来たお貴族様、いや従者かな?
ちょっと良い生地の服を着ていたから判断つきにくいのだけど、多分貴族の当主って感じでは無かったと思う。そもそも、当主である当人がウチの食堂に来るわけ無いよね?というのもある。
お忍びは知らん。
直接挨拶されたわけじゃないし。
そして何故か、私の局部(胸)ばかりを凝視していたのよね。
当主じゃないよねぇ?
貴族と言ってもゲシュウみたいな外道も居るからソコの所分からないけど。
そんなワケでどう見ても胸目当て、身体目当てにしか思えないから速攻で断っちゃったよ。身の危険を感じますからお断り致しますって。
普通その場合、階級が下の『庶民』な私が逆らうことは出来ない。だがすぐ横で『伯爵子息』なニキ様が、何故か凍て付くような睨みを利かせていてくれたので事なきを得た。
『モイスト領の子息』である、と言うのを誘いに来た男が知っていたのかどうかはわからない。
だがニキが鋭利な刃物のような眼差しで睨み付けて居た時に言葉につまり、さっさと退散していった辺り、知っていたのだろうと思う。
お陰様で私は無事。
今もこうしてここの食堂で元気に働いている。
私のレシピなんてちょっと見たり食べたりしたら、料理経験のある人は何が中に入っているのかわかると思う。
何せ前世でもテレビ等で居たもの、料理を食べただけで再現してしまう人。
有名店の料理長の料理を再現しちゃう、謎の料理人(芸能人だったっけ?)。
コッチの世界でも居ると思うのよ、そう言う特殊な味覚と技能を持った人って。
視界の端には案の定、お断りをした子爵家の料理人が料理を幾つか頼み、全て食べて研究をしている。時折メモ用紙に書きモノをしている辺り、何を使用しているのか大体はわかったのでは無いだろうか。
ん、あれ?
何だか頭を抱えているようだけど、おや?
そのままテーブルにうつ伏せ…
おやぁ???
お、お酒でも飲んだ?でもテーブルの上には頼んだ料理以外は飲料水しか無い。
子爵家の料理人が滝のように涙を流しているようだけど、き、キノセイ…だと、思いたい。
「ぐぁ、この調味料が、うまっ!んがっ、何を使用しているのか、わからぬ!」とか言う声が聞こえて来たけど、きっと幻聴だろう。
やだなぁ私まだ十代なのに、もう耄碌したかしら?幼少時過酷な環境故のナントやらってコトかしらね?
「それにしても美味いね、ここの食事」
「だろう?」
「成る程、だからこうしてニキが通い詰めるのか~」
「まぁな、ぶっちゃけるとここの食事ウチの飯より美味い」
「ニキのとこの騎士達の~?それとも実家の?」
「両方」
「ほうほう」
失礼ながらニキ様やケイン様の居る方向に向けて聞き耳を立てつつ、ウェイトレス業務を熟す。ふっふっふ…推しメンの会話は聞き逃さないわよ!
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