乙女ゲームの期限は過ぎ、気が付いたら三年後になっていました。

柚ノ木 碧/柚木 彗

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【香油】

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「つ か れ た ぁ~…」


 二階にある自室、借りている寮の部屋に入り靴を脱いでベッドにダイブ。

 ばふんっと飛び乗り、部屋に付いている家具の中でも比較的良い品のせいか、記憶の中でも一番の柔らかい感触がする。シーツは残念ながら早々に購入した為に店で一番安売りを購入した為、ザラザラとした感触がする。多分綿だよね、このザラザラ感。

 木綿を粗目に糸にして織り上げたせいなんだろうなぁ~店の人も見習いが作った品だとかって言っていたし。でもこのザラザラの感触が結構好きだったりする。

 実家で使用していたシーツなんて所々補強して継ぎ接ぎだらけだったし、妾時代も似たようなモノ。下手すると今使っているのが一番高級だったりする。


「そろそろ新しいのが欲しいなぁ~」


 何ならもうチョット良い品を購入しようかな?でもこの粗目の織り上げた感触も捨てがたい。

「新しいのを購入したら、今使っているのは予備にするか、それとも袋でも縫って置いて買い物袋にでもしようかな。余った布の部分は窓拭き用の雑巾とかっていうのも良さそう。

 色々考えていると急に、お腹がぐ~きゅるると鳴る。


「おうふ、お二人と一緒にいるうちに鳴らなくて良かった~」


 未婚の乙女としてソレは全力で回避したい。

 未だベッドの上でゴロゴロと転がりつつ、食堂の女将さんから頂いた紙袋に入ったサンドイッチを取り出す。今日の食堂はお客さんが多すぎて、賄いを食べられる時間が無かった。

 其の為、女将さんがワザワザサンドイッチを紙袋に入れて持たせてくれたのだ。


「お湯を沸かせて~お茶をいれて~有り難く頂きますか」


 転がっていたシングルベッドから無理矢理身体を起こし、でもその前にと台所に足を運ぶ。


「水樽の水は~と、ギリギリ間に合いそうかな?よし、それじゃ、と」


 窯横に置いてある乾燥させた薪を入れ、使い古した布も入れてから火を付ける。

 本当は紙のが良いのだろうけど、この世界の紙は結構高価なので買うことが出来ない。

 ならばと、布巾にしてから雑巾にまで使い古した布を乾燥させてから薪に火を付ける為に入れている。

 ちなみに女将さんが包んでくれた紙は大事に取っておくのだ。何時か使用するかも知れないし、室内干しして乾燥させれば再使用可能。とは言えドンドンと溜まっていけばゴミにしかならないので10袋以上溜まったら火を付ける時に使用している。女将さんも「火を付ける時に使ってね」って言ってくれているし、そこの所は心配していない。

 節約大事。貧乏性とも言うけど、心は錦なり。

 貧乏は悲しいけどね。


「は~…魔石で火が付くというコンロやっぱり欲しいな~。でもまぁお金貯めるには薪を使った方が良いしねぇ」


 前世はとても楽だったなぁ。

 ガスコンロはスイッチを作動させれば簡単に火が付いた。

 目の前の窯は一昔前の日本と同じ。

 でも幼少時よりもかなりマシなのよね~コレ。

 妾時代も実家に居た時も、薪なんて無かったし。毎日近隣の林とかに入って小枝を拾って来て火を起こしていたし。朝の日課だったもの。勿論小枝なんて見つからない時もあったし、色々苦労していた。下手すると家の一部を剥がしてって言うほど切り詰めて居た時も。

 それと比べるとなんて素晴らしい生活。

 とても贅沢ですよ!

 ちなみに電気を使用するIHクッキングヒーターは使ったことがないのでわからない。でもきっと使いやすいのだろうなぁ。


「火が付いたし今のうちにっと」


 水を入れた大きめの薬缶と鍋を窯に置き、お湯を沸かす。そして物置に置いてある大きな盥を取り出して、そこに湧いたお湯を入れる。

 大きな盥とは言え、セントバーナードを洗うことが出来る位の大きさなので自身はすっぽりと入ることが出来る。

 つまり、簡易お風呂の出来上がり。

 とは言えこの部屋に付いている洗濯場が無いと出来ないのよね~このお風呂って。配水の問題があるし、何より他人から見えない状態で湯船に入るのって難しい。

 と言っても、この簡易お風呂は脹脛位迄しかお湯が入れられないから微妙。でもさ、贅沢にも石鹸を使って身体を洗うことが出来るのが何よりも嬉しいのです。しかもちょっとだけど本日は香油をいれちゃうよ!

 この香油はジーニアス兄さんから贈られて来たもの。

 匂いが良いから多分高価なんじゃないかなぁと思う。庶民の私にはわからないけど。香油って、町の店屋にはゼロの桁が…数がいーち、にー、さん、しー…。

 其処で数えるのをやめた。しかも貴族用の香油らしき品は五桁だったような気がするが、きっとキノセイ。更に言えば、兄さんから贈られて来た香油が貴族御用達用の装飾が素晴らしい、綺麗な箱に入って居たとかなんとか…。


 兄さん、なんて物を……。


 きっと高い。

 しかも物凄く。

 アノ涙で濡れて乾いた便箋を送ってくる兄のことだ、きっと無駄に兄妹愛…シスコンを拗らせ、庶民である私には到底手に入れられない様な品を贈って来たに違いない。

 転売すれば三ヶ月位普通に暮らせるぐらいには。


 そんなワケで毎日は入れないけど本日は簡易ながらもお家で湯船。

 普段は町の銭湯に行くので、本当に疲れた時はお湯で身体を拭うだけにしている。


「でも今日はそんな気分じゃ無いのさ~♪」


 推しメン其の1と其ノ弐に会えたのだ。

 そんな貴重な体験をした日の夜ぐらい、豪華に薪を使って更には香油まで使って湯船に使ってもいいだろう。

 その日の夜は良い匂いで包まれて、とてもいい気分で眠ることが出来た。







 * * *






 Side,ケイン


「あの娘がそうなの~?」

「ああ」

「ふーん、それで?」

「は?」

「は?じゃないよねぇ~?」


 ニヤニヤと多分今の僕は嫌らしい笑みを浮かべていると自覚している。

 だって、ねぇ?

 ニキの表情ったら、今まで見たことが無い程『面白い』以外には無いんだよねぇ~。

 こんな表情なんて学園に入ってから見たことは…あ、あったか。

 確か僕達が二学年に上がった年に新入生の入学式があって、その際ずっとキョロキョロとしていたからどうしたのかと思っていたら、式典が終わる頃には絶望の面持ちを浮かべていて。

 一体どうしたのかと聞いてみたら、


「やっと、会えると思っていたのに、そんな…」


 と言って其の場に崩れ落ちた。

 いやー吃驚したよ?だって、怒ったりすると感情の起伏は激しくなるけど、どっちかって言うと彼は自身の感情を抑え気味にするんだよね~。

 それなのにさ、その時ばかりは抑えることも出来ずに崩れ落ちたんだもん。

 僕じゃなくても吃驚すると思うよ?


 その後ニキから無理矢理問い正して聞いた話だと、何でもニキの初恋の相手が一つ年下で。今学期入学して来ると思って居たら、既に彼女は幼少時から「妾」としてとある貴族の子息に囚われていて、今はまだギリギリ『白い結婚』状態であると。


 因みにその情報は僕達の横に居たこの国の第二王子ユウナレスカ・アナジスタ。

 ――…の、彼専属の『近衛兵』であるジーニアス殿から。


 何でも、ニキの初恋相手は彼の兄妹の一人であると、ニキの説明を聞いて彼は顔面蒼白になりつつ説明をしてくれた。

 実家であるアレイ家の父親が自身の娘を隣接している領地の貴族に売り渡したクズであり、自分はこの王都に行ってお金を稼いで身売り同然で強制的に連れて行かれた妹を何とか連れ戻す為、騎士団に入団したと。

 この時彼は今の地位…アレイ男爵家三男であり、騎士団に入っては居たがお金も地位も無かった。だがその後彼の遠縁の者がガルニエ家の伯爵家の血筋であるとわかり、更には隣国との戦争が開幕した際、ジーニアス殿自身の類まれなる戦闘能力によって一気に地位が向上。

 ジーニアス・アルセーヌ・ガルニエ伯爵となり、『近衛兵』から『近衛騎士』へと一気に駆け抜け行った。

 更には戦後にアレイ領の隣接されたロドリゲス領地からの内部告発があり、ジーニアス殿の実父であるカルロス・アレイとロドリゲス家の不正が発覚。と同時に一気にロドリゲス家一族の摘発をした際、内部告発をしたのがジーニアス殿の妹君であるとわかり、それならば早速救いに向かったら既に住まいである家はもぬけの殻。

 そのことから妹君は相当頭が回る人物であると、感心しちゃったんだよね。

 僕だったら今後のことを考えたら周囲の状況を見て、今後の身の安全を確保するためにその場に居残っていたもの。

 でもジーニアス殿の妹君は違っていたみたいね~。


 彼女は産まれた時から庶民以下の生活を強いられていたから、今更貴族社会の生活には馴染めないと常日頃から話していたらしく、貴族である兄との接触を恐れて居たらしいって。

 逃げる時に娘が居ることで女の身一つではどうにも出来ないであろう姉のデュシーさんとその娘さんをジーニアス殿に託し、一番安心して今後の生活を送れるであろうと送り出したと。

 その際、馬車の料金が足りないからと自身は乗らずに逃げ出す時に別れたって。


 普通そんなことする?


 だってお兄さん貴族だよ?しかももう当時伯爵の爵位を継いでいるから当主だし。戦争があったからその報奨金だってすんごーく稼いでいたジーニアス殿だよ?だったら贅沢出来るでしょ?おまけにジーニアス殿、どっからどう見てもシスコンで。きっと一緒に生活できたら溺愛されちゃうって思えるよ?

 それなのに自分は王都にも寄り付かないってあり得る?

 スッゴイ女性だよね。

 こう言うのって女傑っていうのかな。

 僕はそれまで長い間とある女に幼少時から追い掛けられて居たせいか、女性と接触するのも話すのも苦手だった。でもこんな話を聞いたらさ、興味湧くよね?おまけにニキの気になる人だよ?初恋の人だよ?どんな女性かって思ったよ。

 まぁ~王都に居ると僕に無理矢理と言うか強制的に見合いをさせようとするから、コッソリと逃げ回っているって言うのもあるのだけど。


 さて、この話はここまでで。


 僕は『もう一度』確認する為にニキを見詰める。

 それは僕がこの街に来たもう一つの理由。

 決して見合いが嫌だって言うだけじゃない、正当な理由があるのだからね?

 まぁ、彼女がどんな人物か見たかったと言うのはあるけどね~。


「それじゃ、ニキ。本当のこと?彼女の身が狙われているっていうのは」

「……事実だ」
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