10 / 22
【前世】
しおりを挟む「そう言うなら今から鍛えれば良いだろう?」
「ヤメてよ~僕は文官系なの。知っているでしょう」
「腕前は結構良いと思うのだが」
「ハイハイ、レスカと同じ扱いはしないでね~?僕はあの人程、何でもかんでもスマートに出来るタイプでは無いからね~」
「わかってるよ」
少し遠くからワアワアとケイン様、前世からの最推しであるニキ様が仲良く並んで他の棋士様達と共に引越し作業をこなしている。
こうしてお二人が並んで歩いているのを見ると、ケイン様って細いなーっ!乙女ゲームの設定では魔法大臣の息子と言うだけあって頭脳はずば抜けているけど、体力は他の攻略対象者の中では下から数えた方が良いくらい。確か一番下は隣国の王子様だった。
現実の今見ているケイン様は学生時代よりは大人びていて体格も取れてきてはいるけど、やはり他の騎士達やニキ様と比べると細身の印象が強い。当人も言っているが、肉体労働向きでは無く文官向きなのだろう。
それでもいざ戦うと、魔法を扱って来るから下手な騎士よりよっぽど強くなるのだけれど。
乙女ゲームでは魔法・剣技と扱って来るからルートによって隣国との戦争の際には絶対にメンバーに入れて置きたい人物ではある。オマケに戦争になると筆頭攻略者であるユウナレスカ様は弱くなってしまう。と言うか、メンバーから居なくなるのよねぇ。第二王子だから仕方が無いのかも知れないけど、必然的にメンバーから外れてしまう。
とは言え隠れて参戦させることも出来るのだけど、ソコの所は私知らないのよねぇ。
逆に戦争になると底力を発揮するとか、ぶっ壊れ仕様と言われているのが我が兄であるジーニアス兄さん。この前後位から兄さんは騎士団で『鬼神』や『戦鬼』と言われるのだけど、『鬼神』の場合は破壊活動が暴発はするけどまだ人ではあるのよね。逆に『戦鬼』になると…うん。
まぁ、この世界では終わったことだからもう関係ないよね。
何せ乙女ゲームの世界から数年経過しているし。
そう言えば裏ルートで隣国の王子であるアレクサ様とジン様、更にはジン様の妹君であるマリエル様をメンバーにして突き進むのもあったような…。
その時にはヒロインちゃん、どちらかと言うと大人しかったイメージが変わったのよね。おまけに何時の間にか恐ろしい攻略対象者で有名だったアレス・バーンド様がちゃっかり横に居て、彼とその獣人の執事が影に居て手を貸してくれる。
そこでこの乙女ゲームの真実が徐々に垣間見えるのよね…。
等とぼんやりと思考の渦とまで言えるのかな?という事を考えていたら、騎士様達の引っ越し作業の様子をご近所のおばさま達が頬を染めて眺めている。
が、何だろ。
昔何処かで聞いた日本語で、
「あんれまぁ、若い男子(おのこ)が大勢おるのぅ」
「イケメンだべなぁ」
「んだんだ、目の保養だぁ」
「おらが30年ぐらいわががったら声かけてたべ」
「嘘こけ、30年じゃきかんべさ」
「「「「んだな!」」」」
なんて言う幻聴が聞こえて来る。
「いや、ちゃんとした言葉言えよバッチャン!そこに居る子、バッチャン達の古い方言に驚いて呆然としてるじゃないか」
此方を見たお婆ちゃんの一人を迎えに来た青年が困惑した顔で話している。
ついでに言うと多分青年もお婆ちゃん達の言葉、多分理解していないのじゃないかなー…。
因みに私はバッチリ理解している。
いやー…何でだよ!幾ら何でも私の耳おかしくない!?
とは思ったけど、コレおかしい訳じゃぁないのよね。だって、以前妾として囚われていた地方の年寄り達の言葉だもの。ちょっと懐かしいと同時に嫌な思い出も蘇って来るのは残念だが仕方がない。
「あらー」
と言って一人のおばちゃんがコロコロと可愛らしく笑い、もう一人のおばちゃんが「あっはっはっはっ!」と威勢の良い声で笑う。
何処にでも居るおばちゃん達だけど、この笑い声を出すのはこの町が平和な証拠。
いい街だよねって思う。
「そこのめんこい(可愛い)娘っ子さんごめなー。かちゃまし(いらいらする)言葉だぁね。堪忍ね。」
「バッチャン、それ俺わかんない…」
「わいはー(あらまぁ)!えはるなし(むくれるなって)~」
あ、青年の目が死んだ。
これは完全に言葉がわかっていないみたいね。
そんな青年とお婆ちゃん達の笑い声を聞きながらふと視線を感じて振り向くと、眩しそうな顔をして此方を見ているニキ様と目があった。
※
「レナちゃんお疲れ―」
「店長お疲れ―!」
今日もとても店内は賑わい、私の労働時間終了まで大混雑。
そして本日も元気な愉快な町の酔っぱらい達や常連達は私が終わると元気に『お疲れ様!』と声を掛けて来る。
「レナちゃ~ん!終わった?おじさん達飯奢るから此方来ない?」
「そっちじゃなくて此方のおじさんと飯どう?酒も奢るよ!」
等と言う声を笑ってスルーし、帰宅の準備をする。
そりゃあね、お店のご飯も美味しいしお酒も美味しいのはわかっているのです。
ですがっ!本日はとても有難いことに!
パン屋の!
女将さんから!
特製ミルクシチューを頂いているのですよっ!
帰宅したら温めて食べるのをとても楽しみにしていたのですよ!
女将さんのご飯もパンもとても美味しいけど、ほんとーにあのミルクシチューは美味いのです!
あれは初めて女将さんに出会った時、お引越しの歓迎という名目でミルクシチューのお裾分けを頂いたのだけど、一口食べた時にあまりの美味しさに感動した。
と言うか無茶苦茶泣いた。
だって、だって…前世のクリームシチューのお味だったのよ~!
野菜もお肉もゴロゴロ入っていて、シチューも牛乳とバターと小麦粉を使っているシチュー。更にはお店で使っている野菜の残りを使ったと言う旨味成分がとても濃厚なミルクの味を引き立てていて、とても時間が掛かっている料理なのだと感動した。
翌日早速作り方を!と聞きに行ったら、何と。とても時間を掛けて出しを取ったと思われし旨味成分は、極々普通に売っていた。
コンソメとして…。
固形じゃなくて粉だったけれど。
これ、多分転生者か転移者がこの世界に居るのでは?と思って勘ぐってみたけど、考えてみたらこの世界は乙女ゲームの世界瓜二つ。色々なものは違っている気がしないでもないから完全にコピーした世界とは違うかも知れないけれど、こういう便利系は結構この世界にあるのかも知れない。
それが今まで妾と言う貧困した状況下だったため、更には子供だったから知らなかっただけでもっと色々なことが存在しているのかも知れない。
だとしたら、前世のブル○ックソースとかお醤油とかお味噌とか、更にはお好み焼きとか鰹節だって探せばあるのかも。
とかウンウン頭の中で唸りつつ、声には出さないで夜道の帰路を早足で歩いていた時。
ふと、何か黒いのが視界の端に写った気がして目を凝らしていたら。
グイッと誰かに腕を掴まれた。
36
あなたにおすすめの小説
氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました
まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」
あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。
ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。
それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。
するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。
好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。
二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
実は、公爵家の隠し子だったルネリア・ラーデインは困惑していた。
なぜなら、ラーデイン公爵家の人々から溺愛されているからである。
普通に考えて、妾の子は疎まれる存在であるはずだ。それなのに、公爵家の人々は、ルネリアを受け入れて愛してくれている。
それに、彼女は疑問符を浮かべるしかなかった。一体、どうして彼らは自分を溺愛しているのか。もしかして、何か裏があるのではないだろうか。
そう思ったルネリアは、ラーデイン公爵家の人々のことを調べることにした。そこで、彼女は衝撃の真実を知ることになる。
気配消し令嬢の失敗
かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。
15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。
※王子は曾祖母コンです。
※ユリアは悪役令嬢ではありません。
※タグを少し修正しました。
初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
恋心を封印したら、なぜか幼馴染みがヤンデレになりました?
夕立悠理
恋愛
ずっと、幼馴染みのマカリのことが好きだったヴィオラ。
けれど、マカリはちっとも振り向いてくれない。
このまま勝手に好きで居続けるのも迷惑だろうと、ヴィオラは育った町をでる。
なんとか、王都での仕事も見つけ、新しい生活は順風満帆──かと思いきや。
なんと、王都だけは死んでもいかないといっていたマカリが、ヴィオラを追ってきて……。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
私、お母様の言うとおりにお見合いをしただけですわ。
いさき遊雨
恋愛
お母様にお見合いの定石?を教わり、初めてのお見合いに臨んだ私にその方は言いました。
「僕には想い合う相手いる!」
初めてのお見合いのお相手には、真実に愛する人がいるそうです。
小説家になろうさまにも登録しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる