乙女ゲームの期限は過ぎ、気が付いたら三年後になっていました。

柚ノ木 碧/柚木 彗

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【元妾】

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「えーと、暴漢リッチが強引に迫って来たから悲鳴を上げた、だったっけ」


 何だか妙なことを口走っている一人の騎士さんに、近くにいたケイン様が爆笑している。

 よっぽど昨夜の事柄が妙な具合に噂になっているのだろうなぁと遠い目をしてしまう。

 と言うか、先程の噂では魔物?の筈のリッチが何時の間にやら人扱いのリッチさんになっているような。しかも暴漢という事は犯罪者のリッチ。それが迫って来たからって…。

 リッチに勘違いされたゲシュウ、業が深い。

 因みに只今私ことレナは寮の1階に出来上がった騎士団の詰め所の中におります。
 内装やら諸々が引っ越ししたてのためか乱雑に散らばったまま。箱やら椅子やらを強引に部屋に引っ張って来て、一人の中年に差し掛かるかな?と言う年齢の騎士さんが、


「散らかっていて悪いね」


 と言いつつ私に椅子を勧めてから自分も向かい側に椅子を引き摺ってきて、箱の上に紙とインクを置いて羽ペンを片手に昨夜のことを私から聞いていると言う状態。

 そして何故か部屋の隅にケイン様が立ったままで此方の様子を窺って居たのだけど、今は爆笑して床にお腹を抑えて伏せている状態。


「あ~腹痛いっ!」


 と言いながら片手で抑えて悶絶中。


「お前なぁ。そんな理由ならワザワザ此処まで来て貰って事情徴収とかしないっての」


 ニキ様が先程出会った時とは違ってきちんとしたモイスト領の騎士服を身に纏い、手には幾つかのカップを乗せた御盆を手に持ち部屋に入って来た。


「ははは、まぁそうなのでしょうけど。今朝此方に配達に来た、お喋り大好きな少年がペラペラと喋っていてね」

「鵜呑みにするなっつーの」


 どうぞと言ってニキ様がカップを此方に寄越してくれる。


「詰め所の安いお茶で悪いが」

「有難うございます」


 うわわわ、推しから頂いちゃったよ!
 やっばい、今日はとても良い日だ!

 記念日だ!
 昨晩があまりにも最悪だったからきっと少しでも良い日になるようにって言うご褒美デスネ。
 神様仏様ご先祖様有難う!
 この世界には仏様は居ないけど、前世は居たから拝んでおきます。今はそういう気分ナンデス!
 なむなむなむ~。


「いや、そんな何処の年寄りみたいにお茶に祈らなくても。」

「はっ!つい!」


 ニキ様と言う推しに出されたお茶が尊すぎて!
 とは何とか口から出ずに何とか済んだ。
 ただ何となくお茶に祈る年寄りと同じ行動をする女だとは思われたことだろう。
 誤解だ!誤解なのよ~!…く、ま、まぁ良いんのですけどね!

 奇行女とか思われて居ないことを祈る…。
 あ、駄目、涙が。ぐうう…。


「そう言えばアレイ領とその隣のロドリゲス領は、地方によりある程度のご年配の人々が何かに付け祈りを捧げていたな。一回祈ってみるか」


 等と言ってニキ様がお茶に向けお祈りー!
 はわわわ、尊い。何この尊さ。

 多分私を庇ってくれたのかな?とか思ったのだけど、ある意味年寄り扱…いや、私まだ10代だし!乙女だしー!前世の年齢は残念ながら覚えていな…げふげふ。多分きっと乙女!年齢は聞くなって言う三十路な気もするけど!そして身奇麗な独身だった気がするけど!そこは突っ込まないで!

 内心吐血しながら目の前の尊いご尊顔…推し様の素晴らしいお姿を直視する。
 普段はパッチリとした活発そうな瞳を閉じ、両手で祈りを捧げているお姿。
 これぞまさしく、


「ありがたや、ありがたや~」

「ブハッ!あんたら朝から一体何をやっているんだよ~!」


 再度お腹を抱えてゲラゲラ笑い出したケイン様にニキ様が「何時までも笑っているな」と軽く蹴りを入れている。あ、これ先程のケイン様に素足で蹴られていたお返しかしら?と思っていると、名前も知らないモイスト領の騎士様が彼等のじゃれ合い?を華麗にスルー。


「それじゃお嬢ちゃん、昨夜の暴漢に心当たりはありますか?」


 もしかして毎度のことかしらん?
 そしてゲシュウ、等々伯爵家嫡男から下降して暴漢になってる。
 今は伯爵家嫡男から【元】がついちゃったお坊ちゃん育ち。
 それが昨夜見た時は、見るも無残な汚い盗人風情な風貌に変わり果てていた。

 少し前の幼女な時の私が「イエイ!」とVサインをしている幻影が見えた気がするが、それらはスルーして目の前の騎士様に目を向ける。

 …背後のお茶目な元攻略者達のじゃれ合いは確かに絵になるが、今は…このままじーっと見ていたい気もするが、ギギギと無理矢理目線をニキ様達から名も知らぬ騎士様に固定し、口を開ける。
 その私の姿に目の前の騎士様が苦笑して居るような気もするけど、仕方ないなぁと余裕な風体の騎士様。あ、これ大人の雰囲気。成程、よく見ると中々凛々しいお顔をしていらっしゃる。
 筋肉も結構付いていて、鍛えていると言う感じがヒシヒシと見受けられる。

 ふむ、出来たらうちの店に来ませんか?夜間暇な常連客が腕相撲の相手を探しているのだけど、結構良い所まで行けそうな気がする。
 とは言え今はそんな事は言える雰囲気では無い。
 本当は言いたいのだけどねー!ほっとくと常連さん達、何時の間にか掛けの景品が『私とのお喋り』やら『レナちゃんのお手製メニュー』になっていたりするから、誰か止めて欲しい。
 帰り支度前にされると困るんだよ。

 と、今はそんな事は兎も角。
 騎士様のお手を煩わせるわけには行かないしね。


「あります。私と姉は昨夜の暴漢の元妾です。」

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