もしも超売れっ子人気小説家が多重人格者だったら

saitou@朱雀

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 僕は多田重信。作者名『多重たしげ』と言う小説家として活動中だ。ネーミングセンス?そんなもの何処かに捨てたやったさ。僕の代表作はファンタジー小説『そしてまた、巻き戻る。』で、今人気である。書いている本人的にはまさかこんなゴリゴリファンタジーが人気になるとは思ってもなかった。まぁ、僕がこんなにも名を轟かせた理由はもう一つある。それは僕の小説を出す数だ。普通、掛け持ちをしている小説家でも一度出したら数カ月は出さない筈だが僕はほぼ毎月一冊以上は出している。正直言ってこの速度は異常だ。僕自身としてはもう、表紙を描いてくれる絵師さん方に申し訳なく思っている。早くて申し訳ない。…で、話は少し逸れてしまったが何故僕はこんなにも沢山の小説を書けているのかと言うと、まぁ、そんなにも得意げに話すことではないが、
『僕は多重人格者なのだ。』
 実際にこの事を知っているのはほんの僅かだ。実の妹である優愛と編集者さん、あとは…行方知れずの僕の父のみ。巷では僕の小説は何人も雇われたゴーストライターが書いたんだと言われている。…そんなの雇うお金なんてこの家にはない。だからこうして小説を書いているんだ。
 とまぁ、僕が有名な理由を上げたが実際、僕はそんなに有名じゃなくても良かった。金銭的な問題で言うなら有名な方がいいけど、こんなにも言われるようなほど僕は天才でもない。ただ出版する数が多いだけ。それも他の自分も小説を書いているからこそあんなにも出版する数が多い。僕という人格だけだったらきっとこんなにも有名じゃなかっただろう。これならもっと名を轟かせるべき作家は沢山いるはずなんだ。例えば…そう、僕が作家になりたいという思いを抱かせた『コイワスレ』の作者、『銀鈴 流星』さんなどがもっと有名になって欲しい。…最近は本を出していないようだけど。
 あぁ、話がまた逸れてしまった。僕は長い会話というものをするとどうしても逸れていってしまうんだ。許して頂きたい。だから僕は小説でもいらないことを書いてしまう癖があるんだ。…消していってはいるんだけどね。
 では、次に他の人格を紹介しよう。とは言っても僕は知らないから妹である優愛談を挟んで説明する。
 まずは一つ目、青春ラブコメ小説『僕の彼女は何かがズレてる!?』を執筆している『俺』だ。独特なシチュエーションやセリフで新要素溢れる。初めて僕が読んだとき感じた事は、新しい展開の仕方や時々入る甘酸っぱいラブシーンの入れ方が自然だと思った事だ。性格は思いの外、と言うか予想の斜め上を行く奇人だ。僕の正反対と言ってもいいくらいに明るく、人を笑わせに行くことが好きなんだそう。優愛曰く、『中2の男子見てる気分』になるくらいに垢抜けているそうだ。
 二つ目がミステリー小説『Forget Memory』を執筆している『私』だ。主人公である女子高校生の現実的な思考と風刺が目立つ。これを読んだ時に感じたのは現実への理不尽な残酷さや社会のどこか抜けている穴を指摘しているように感じた。性格は僕よりも喋らない寡黙家のようで、喋ったとしても言葉が欠落していて理解に少し掛かるらしい。そして、あの小説を書いているおかげか現実にどこか諦めのようなものを抱いていそうなオーラを放っているのだそう。
 三つ目が戦国小説『我 君の為こそ 戦える』を執筆している『自分』だ。殺伐とした戦場の最中から希望を見出して勝利しようとする武将の話だ。この作品は人の正の感情が色濃く描写され今の心が荒んでいる人たちにどこか胸打たれるものがあるように感じた。性格は一言で言うならロマンチストなんだそうだ。言い回しがシェークスピアに似ているらしい。なかなか素面で言うにはキツイような事を普通に言う。…いくつか優愛から聞いたが僕は背の浮くような感覚が一日中続いていた。
 最後に四つ目、SF小説『スペース altar』を執筆している『ぼく』だ。今までに誰かが書いていそうで書いてなかった世界観で人間が超常生物を研究する話だ。これは未知なものに対する好奇心や細かい設定描写が多くて読み進めたくなる書き方だった。性格は夢見がちで行動パターンが読みにくく、奇抜な思考の持ち主らしい。だだし何事にも好奇心を持つので優愛曰く、「小学校低学年の男の子を世話してる気分」になるそうだ。
 以上が僕の人格たちだ。なかなかに個性派揃いだなぁ、と他人のような感想しか抱いていないけど優愛は面白い人たちだと言っていた。あの優愛が認めるのだからきっとそうなのだろう。僕も一度話してみたい、なんて願いは恐らく叶わないだろうけど皆が楽しそうならば、僕はそれでいい。
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