1 / 2
プロローグ
『誰かの手記』
しおりを挟む
俺が知っているこの都市は案外変わっているのかもしれない。外部が出版していた本を片手にふと、そう思った。
ノーレニー都市。その名の通り、ここは雨が降らない都市だ。何故降らないのかなんて今でも俺には分からない。しかし、その珍しさからか何時しかこんな言い伝えが出てきた。
『〝雨〟が降ると悪夢が始まる』
そんな言い伝えが昔からずっと続いている。何故、そんな物が出来たのかは察しがつくだろう。過去に〝雨〟が降ったその日は大体不幸な事件が多発していたからだ。まぁ、そんなただのこじつけがましい様な言い伝えだが少なくとも良い事は起きていないらしい。
例えば、そんな言い伝えの始まりとして挙げられるのはやはり『狂乱壊世界戦争』だろうか。これはまだこの都市が一つの国家であった時代に起きた最後の大戦争だ。被害が最も酷く、凄惨な風景しか広がっていなかったらしい。戦場にいた兵士は全滅、近くの土地は枯れ果て、人が住めない状況になったそうだ。戦争に参加していた国家全てにとっては大きな痛手を負い、勝者も敗者もないものだった。戦地は血に濡れ、数え切れない程の死体の山が、死の匂いが充満している様が、悪夢が今でも語り継がれている。
そんな戦争が雨の日に起きた。雨の匂いと潤いのお陰で死臭も腐敗も抑えられ、土地も小規模の被害で済んだとも言えるし、そのせいで血の川ができて水が汚れてしまったとも言える。地獄絵図がこの地の上で起きていたのだ。
遠い昔の出来事でも、こうして語り継がれているのは事の大きさ故なのか何なのかは分からない。しかしここに住む者たちには〝雨〟が悪夢の始まりの象徴となるには十分過ぎる出来事であろう。この都市周辺はただ単に雨が少ないだけなのかもしれないが人はそんな不思議をつけていたいものだ、そんな心理が読み取れるような言い伝え。近代化が進んだ今でも信じ続けられている伝承。
手に取っていた本を元の場所に戻し、資料館から出る。今日も晴れ晴れとした太陽は初夏を知らせる様にじりじりと俺の体を照りつけた。少し汗ばみながらも赤いマフラーを巻き直して孤児院へと戻る。
今年は何をしてあの子たちの思い出を作ろうか。
ノーレニー都市。その名の通り、ここは雨が降らない都市だ。何故降らないのかなんて今でも俺には分からない。しかし、その珍しさからか何時しかこんな言い伝えが出てきた。
『〝雨〟が降ると悪夢が始まる』
そんな言い伝えが昔からずっと続いている。何故、そんな物が出来たのかは察しがつくだろう。過去に〝雨〟が降ったその日は大体不幸な事件が多発していたからだ。まぁ、そんなただのこじつけがましい様な言い伝えだが少なくとも良い事は起きていないらしい。
例えば、そんな言い伝えの始まりとして挙げられるのはやはり『狂乱壊世界戦争』だろうか。これはまだこの都市が一つの国家であった時代に起きた最後の大戦争だ。被害が最も酷く、凄惨な風景しか広がっていなかったらしい。戦場にいた兵士は全滅、近くの土地は枯れ果て、人が住めない状況になったそうだ。戦争に参加していた国家全てにとっては大きな痛手を負い、勝者も敗者もないものだった。戦地は血に濡れ、数え切れない程の死体の山が、死の匂いが充満している様が、悪夢が今でも語り継がれている。
そんな戦争が雨の日に起きた。雨の匂いと潤いのお陰で死臭も腐敗も抑えられ、土地も小規模の被害で済んだとも言えるし、そのせいで血の川ができて水が汚れてしまったとも言える。地獄絵図がこの地の上で起きていたのだ。
遠い昔の出来事でも、こうして語り継がれているのは事の大きさ故なのか何なのかは分からない。しかしここに住む者たちには〝雨〟が悪夢の始まりの象徴となるには十分過ぎる出来事であろう。この都市周辺はただ単に雨が少ないだけなのかもしれないが人はそんな不思議をつけていたいものだ、そんな心理が読み取れるような言い伝え。近代化が進んだ今でも信じ続けられている伝承。
手に取っていた本を元の場所に戻し、資料館から出る。今日も晴れ晴れとした太陽は初夏を知らせる様にじりじりと俺の体を照りつけた。少し汗ばみながらも赤いマフラーを巻き直して孤児院へと戻る。
今年は何をしてあの子たちの思い出を作ろうか。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】勇者の息子
つくも茄子
ファンタジー
勇者一行によって滅ぼされた魔王。
勇者は王女であり聖女である女性と結婚し、王様になった。
他の勇者パーティーのメンバー達もまた、勇者の治める国で要職につき、世界は平和な時代が訪れたのである。
そんな誰もが知る勇者の物語。
御伽噺にはじかれた一人の女性がいたことを知る者は、ほとんどいない。
月日は流れ、最年少で最高ランク(S級)の冒険者が誕生した。
彼の名前はグレイ。
グレイは幼い頃から実父の話を母親から子守唄代わりに聞かされてきた。
「秘密よ、秘密――――」
母が何度も語る秘密の話。
何故、父の話が秘密なのか。
それは長じるにつれ、グレイは理解していく。
自分の父親が誰なのかを。
秘密にする必要が何なのかを。
グレイは父親に似ていた。
それが全ての答えだった。
魔王は滅びても残党の魔獣達はいる。
主を失ったからか、それとも魔王という楔を失ったからか。
魔獣達は勢力を伸ばし始めた。
繁殖力もあり、倒しても倒しても次々に現れる。
各国は魔獣退治に頭を悩ませた。
魔王ほど強力でなくとも数が多すぎた。そのうえ、魔獣は賢い。群れを形成、奇襲をかけようとするほどになった。
皮肉にも魔王という存在がいたゆえに、魔獣は大人しくしていたともいえた。
世界は再び窮地に立たされていた。
勇者一行は魔王討伐以降、全盛期の力は失われていた。
しかも勇者は数年前から病床に臥している。
今や、魔獣退治の英雄は冒険者だった。
そんな時だ。
勇者の国が極秘でとある人物を探しているという。
噂では「勇者の子供(隠し子)」だという。
勇者の子供の存在は国家機密。だから極秘捜査というのは当然だった。
もともと勇者は平民出身。
魔王を退治する以前に恋人がいても不思議ではない。
何故、今頃になってそんな捜査が行われているのか。
それには理由があった。
魔獣は勇者の国を集中的に襲っているからだ。
勇者の子供に魔獣退治をさせようという魂胆だろう。
極秘捜査も不自然ではなかった。
もっともその極秘捜査はうまくいっていない。
本物が名乗り出ることはない。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
繰り返しのその先は
みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、
私は悪女と呼ばれるようになった。
私が声を上げると、彼女は涙を流す。
そのたびに私の居場所はなくなっていく。
そして、とうとう命を落とした。
そう、死んでしまったはずだった。
なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。
婚約が決まったあの日の朝に。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした
猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。
聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。
思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。
彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。
それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。
けれども、なにかが胸の内に燻っている。
聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。
※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる