シューターガールズ!バトルロワイアル!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

やじるし

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九話 六月十三日 金曜日

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 凛は脳にガンガンと響く自分の心臓の音を聞きつつ、額に滴る冷や汗を右手の甲で拭った。

「蘭!」

 凛は自宅の玄関を開け、愛する妹の名前を叫んだ。
 しかし返事は無い。

「本当にどこに行ったんですか……」

 蘭は病気の治療のため、いつもは近くの病院で入院している。しかし今日、蘭がベッドから消え、病院内のどこにも見当たらないのだという連絡が、病院から来た。
 それから美香は学校を早退し、思い当たる場所を虱潰しに探して回っているのだが、しかし、どこにもいない。

 おかしい。

 そして美香は一つの結論に至った。
 きっと誰かが蘭をさらったのだ。
 では誰が?
 蘭をさらうことでメリットになる人がいるとすれば、それはバトルロワイヤルのモニターの誰かだろう。
 その中でも実夜と美香だという線はないだろう。その二人は、どちらかと言うと戦闘は避けてできるだけ平和に終わらせたいという風だったし、無関係の人を巻き込むほど外道な手段を選ぶ人達とは思えない。
 となれば、消去法的に犯人はクレアということになる。
 そう決め打って、数少ない知り合いの一人である美香にも、クレアの情報提供をLINEで要請した。これだけ自分が探し回っても見つからないのだ。美香に目撃されることはないだろうとは思うけれど、本当に凛は、藁にもすがりたい気持ちだった。

 蘭は凛の生きる意味だ。蘭のために、母親と頑張って働いてきたし、このバトルロワイヤルを勝ち抜こうと覚悟を決めたのだ。蘭を助けるためなら、この命だって惜しくない。
 絶対に、守らねば。
 凛は自分を鼓舞し、また走り出したそのとき。凛のスマホに電話の着信が届いた。

 美香からか?

 そう期待し開いたが、違った。知らない番号だ。
 関係ない電話だとしたら時間は惜しいが、念の為と応答した。

「もしもし、吉祥ですが」
『もっしもしー? こちらクレアちゃんだよー』
「く、クレアさん!?」
『凛ちゃんはなんとなく勘づいていると思うけど、蘭ちゃんは隣にいるよー』

 間違いない、誘拐犯はクレアだ。

「ど、どこにいるんですか! 早く答えてください!」
『それは言えないかなー』

 状況はこちらが圧倒的不利。相手を刺激することはやってはいけないと凛は怒りを抑え、自分を落ち着かせる。

「……私は何をすればよろしいでしょうか」
『えっとねー、今夜十時三十分までに、学校の校舎の中で待ってるから、そこに来てねー。もちろん一人で、銃を持たずに』
「そうすれば、確実に蘭を解放して頂けますか?」
『うん、それは保証するよー』
「わかりました……よろしくお願いします」

 

 夜の学校は、暗く、静かで、いつもの賑やかな様相と対を成すようだった。
 凛は約束の時間より十分早く、学校に到着した。もちろん、一人で、銃を持たずに。
 凛の銃はデストロイ。洗濯機程度の大きさの箱型の形状であるため、体のどこかに忍ばせておくことも出来ない。

 指定された場所は、漠然と「学校の校舎の中」というだけだったので、どの教室にいるのかわからない。が、暗闇の中をしばらく徘徊していると、四階の一年六組の教室にいた二つの人影を確認することが出来た。

「お、よく来たねー、凛ちゃん」

 クレアの右手には包丁が握られていて、彼女の目の前の、手足が縛られて身動きの取れそうにない中学生くらいの少女、蘭の首元に突きつけられていた。
 クレアと蘭の二人の周りには、スズメバチが巣を守るように飛び回る、クレアの銃。名称はヴァンガード。
 蘭はどんな手段を使われたのか、すやすやと寝息をたてて眠っていた。

「蘭っ!」

 思わず蘭の元へ駆け寄りたくなり、右足を踏み出した凛を、クレアは何も握られていない左手で制する。

「だめだよー。それ以上近づかないでねー。一応この子は、『人質』なんだからー」

 人質。
 蘭はその役割をこれ以上ないくらい全うしているだろう。抵抗することが出来ず、凛にとって何にも替えがたい大切な存在。

「人質……ということは私に何かを要求するんですよね?」
「そうだねー、クレアちゃんが要求するのは二つだよー。一つめは凛ちゃんに死んでもらうことー。二つめは凛ちゃんの銃の場所を教えることー」
「なるほど……なかなか現実的で建設的な要求ですね」

 クレアの要求からは、確実に自分の勝利のことだけを考えていることが実感できた。
 一つ目の要求、凛の死は直接勝利条件に関わってくることだし、二つ目の要求は、ついでに銃をもう一つ手に入れてしまおうという思惑を感じる。

「昨日、美香ちゃんたちと戦って、なんとか引き分けっていう形に持ち込んだんだけどさー。クレアちゃんのスペックの低さを感じたんだよねー。もう同じ戦い方はあの二人に通用しないし、本気をださないといけないなーって思ったんだ」
「なるほど、そう言う訳で確実に銃を奪おうとしているのですね」

 たしかに、凛のデストロイを手に入れたクレアの戦闘力は跳ね上がることだろう。
 破壊力のデストロイ。
 防御力のヴァンガード。
 この二つが組み合わされば攻めにも守りにも対応することが出来る。

 そして凛を殺すことは、単純に対戦相手が三人のうちの一人減ることであって、言い換えれば勝利条件の三分の一を達成することである。

 クレアは人質を使うことで、その二つを安全に遂行しようとしているのだ。

「すばらしく抜かりないですね。実夜さん達と戦ったときには、自らの手の内を明かすだなんて、もはや手加減とも言える行動をとったそうなのに」
「んー、まあ、あれは第二形態で不意をついて確実に仕留めようとしたっていう意図のもあったんだよねー。結局失敗しちゃったけどー」

 クレアは美香をあと一歩のところまで追い詰めることに成功した。しかし、実夜が想定より大幅に早くクレアを探し出すことに成功したことにより、美香を殺すことは叶わなかった。

 クレアは、美香との勝負には勝ったが、実夜との勝負に負けた、と自己分析する。

 もし実夜が銃を持っていたら?

 クレアは確実に死んでいただろう。
 凛が実夜の銃を破壊してくれたことに、深く感謝しなければいけないなとクレアは思った。が、そう思いながらも、これから凛を殺そうとすることには変わりないのだが。

「じゃ、まず最初に、銃の場所を教えてくれるかなー? 凛ちゃん」

 クレアは勝利を確信した、安堵を含んだ笑顔で言った。

「……私の家の、二階の北側の大きな窓のある部屋に置いてあります」
「おっけー! 嘘じゃないよねー?」
「はい、嘘はついていません」

 クレアは違法なルートを通じて、モニター全員の住所の情報を手に入れている。
 デストロイは、この瞬間、クレアの所有物となったと言える。

「よーし、あとは殺すだけだねー」

 ヴァンガードの銃口が、凛の頭に向けられる。

「最後にお願いがあるのですが……もしクレアさんが優勝したら、蘭の病気の治療費を出していただけませんか?」
「善処するよー」
「ありがとうございます。あともう一つ、いいしょうか?」
「なにー?」
「私は学校の屋上が一番好きな場所でして、死ぬとしたらそこで死にたいと思っているのですが……」

 ドアノブが壊れていることを知った日から、凛は毎日昼休みは屋上に通った。
 誰もいない屋上は、世界で自分一人しかいなくなってしまったかのような錯覚を味わうことが出来る。その間だけは、日常の憂いや悩みを全て忘れられたのだ。

 しかしクレアは、

「屋上ねー。うーん、いやめんどくさいから却下ー」
「……そうですか」

 凛は一瞬悲しそうな顔をしたが、クレアは妹の治療費を出してくれるのだから、とやるせない気持ちを消化させた。

「それじゃ、サヨウナラ、凛ちゃん」
「さようなら。妹をよろしくお願いしますね」

 ヴァンガードは、クレアが念じるだけで思い通りに操作出来る銃。

 クレアは発砲司令を出して、凛を撃とうと、した、そのとき。

「ちょっと待って!」

 銃を持たず、自分は安全だと示すように両手を上げたまま、一年六組の教室に現れたのは、実夜だった。


*   *   *


 数分前のこと。
 平和的解決を実現するため、凛とクレアの捜索をしていた実夜と美香だったが、午後十時前、学校の方へ歩く凛を発見した。
 おかしい。
 どうしてもうすぐ決戦の時間だと言うのに、銃も持たずに学校の方へ歩いているのか。

 不信感を覚えた二人は、凛のあとを気づかれないようにつけて行き、一年六組に辿り着いた。
 そして扉の影に隠れ、凛とクレアの会話を盗み聞きしていたのだ。

「美香ちゃん、私が間に入って止めてくるよ」

 扉の影にて、実夜は小声で美香に言った。

「いや危険だ。あたしが行く」

 美香は実夜の提案を認めない。
 確かに危険なのは間違いない。今クレアはヴァンガードを所持していて、人を殺すのに一秒と要らない。

「いや、私が行かなきゃいけないの。ここからは戦っちゃいけないんだから、自分の銃を持ってない私が行くほうが、向こう的に安心して話し合いがしやすいと思う」

 美香は、その意見は一理あると思った。
 だけど、だけどだからといって、認められない。いくらなんでも危険すぎる。

「すまん、実夜を危険な目に会わせられない」
「これまで私は美香ちゃんに頼りすぎてた。昨日も一昨日も、一番危険な役目をしていたのは美香ちゃんだった。だから、これは私にやらせて」
「無理だ」
「大丈夫、私、絶対に死なないから」

 実夜は、美香に笑顔を向けて、教室に手を上げて走り出して行った。

「待って!」

 美香は咄嗟に叫んだがもう遅い。
 クレアの銃口はすでに実夜の方へ向いていて、ここから自分が介入する余地はなかった。
 残された美香は、祈ることしか出来ない。

 生きて帰ってこい、実夜。


「実夜ちゃんだ。え、どうしたのー?」
「な、何しに来たんですか!? 実夜さん!」

 クレアと凛はそれぞれ驚嘆の声を上げた。
 実夜は、訴えかけるように返答する。

「もうこんなことやめよう! 二人とも! 争うなんて、間違ってるよ! おかしいよ!」
「おかしくなんてないよー実夜ちゃん。クレアちゃんは、決められたルールの中で勝負しているだけなんだからー」
「それがおかしいんだって! だって、誰が決めたのかもわからないルールの中で戦わされてるって、おかしくない? 意味わからないよ!」
「あれれー? 実夜ちゃん、昨日言ってたことと正反対じゃない?」

 昨日実夜は、このバトルロワイヤルの真実を知ってもなお戦うと宣言した。それは紛れもない事実だ。

「……あの後考えていたんだけど、やっぱりそれは違うなって思ったんだ。うん、私は意志が弱いのかもね。でも、やっぱり私たち戦うなんて間違ってるよ」
「実夜さん、間違っているでしょうか? この私の決断は」

 反論したのは、本来であれば今頃脳天をヴァンガードに撃ち抜かれ死んでいたはずの、凛。
 凛はいつでも妹のために戦ってきた。妹のために、優勝賞金が必要だった。

「実夜さん、私は今頃死んでいるはずでした。死んでもよかった。私の死が妹の命に繋がるなら、それでもいいと思っていました。この気持ちは、間違いだって言うんですか?」
「うん。凛ちゃんが死ななきゃいけないなんておかしいよ」
「じゃあ、GZCに頼らずに、どうやって妹を助ければいいんですか!」

 凛がこれまで感情的に叫んだのを見たのは、実夜は初めてだった。落ち着いていて冷静だというイメージの凛からは想像もできない感情的な叫び。

 その声は、眠っていた凛の妹、蘭を目覚めさせた。

「うん……? あれ? ここどこ? ん? あ、おねーちゃん……って、え? 私なんで縛られてるの?」

 蘭は両手両足が固く縛られていることに気づき、困惑する。

「蘭ちゃん、あんまり動いちゃダメだよー君は人質なんだからー危ないよー」
「ひっ……!」

 クレアがナイフを持つ手をさらに蘭の首元に近づけ、恐怖でコントロールしようとする。

「蘭! 今私が助けるから、お願い。少しだけ待って!」

 凛は自分の妹がいたぶられていことに耐えられない。しかし動けば妹がさらに危険だというジレンマに襲われる。
 そして凛は続けて叫んだ。

「誰か私を殺してください!」

 凛が死ねば、蘭は人質としてやくわりを完全に果たし、解放される。そう考えた凛は、自分を殺してくれるように懇願した。

 それに共鳴するかのように蘭も叫ぶ。

「待って、待ってください。おねーちゃんを殺すのは、やめてください! いや、状況はよくわからないんですけど、私を助けるためにおねーちゃんは殺されなくちゃいけないんですか? そうだとしたら、死ぬべきは私の方です! 私はどちらにしろ、病気で近いうちに死んでしまうので、私を助けても意味ないですから!」
「蘭、私が死ねば、あなたの病気も治るんだよ?」
「おねーちゃん無しで生きても仕方ないよ!」
「私も蘭無しで生きてられないよ!」

 唐突に始まった姉妹喧嘩に、立ち尽くすそれ以外。

「私を殺して!」

 と、姉。

「いや私を殺して!」

 と、妹。

「あははー。もうカオスな状況だー」

 この状況を作り出した張本人であるクレアは、面白がるように言った。

「クレアちゃん……もうこんなことやめようよ。こんなの誰も幸せになれないよ」
「だったら実夜ちゃん、どうすればいいってのさー」
「四人で協力してGZCを倒そう」
「無理だよー。GZCは実夜ちゃんが思ってるよりも大きな組織だ。戦っても全員死ぬだけだよー」
「でも……」

 何がいけなかったのか。自分は何の報いでこんなことになってしまったのか。考えてみたけれど、実夜は何もわからなかった。ただ、運が悪かっただけなのか?
 それが私の運命なのか?

 クレアは閃いたとばかりに手を鳴らし、

「あ、いいこと思いついたー。凛ちゃんと蘭ちゃん、どっちも殺されたがってるみたいだけど、どちらが死ぬかは実夜ちゃんに決めてもらうっていうのはどうかなー」
「え……? どうして」
「クレアちゃんは見てみたいんだよー。実夜ちゃんの本性をねー」
「そんな! いやだよ!」
「ほんとかなー? 本心では人を殺したくて殺したくて仕方が無いんじゃないのー?」
「違うよ!」
「でもね、これだけは間違いないよー。クレアちゃんと実夜ちゃんは、同類だ」

 同類なはずなんてない。
 私は、虫を殺したことさえないというのに、クレアのように平気で人質をとったり、人を殺すことなんて、できない。
 どちらを生かしてどちらを殺すかなんて、そんな非情な決断なんてできるわけない。
 できるわけない。

「実夜さん、私をお願いします」
「いや、おねーちゃんを助けてください」

 ねえ。

「私には生きている意味なんてないんです」
「私の方が生きてる意味ありませんから」

 そんなこと言わないで。

「私を殺してください」
「私を殺してください」

 やめて。

「私を」
「私を」

 うるさい。

「殺して!」
「殺して!」


「うるさい!!!!!!!!」


 ばん。
 と、銃声が鳴った。

「え?」

 どさ。
 一瞬遅れて、何か重いものが力の抜けて倒れる音がした。

 蘭が、左胸から血を流し、倒れていた。

「なんで?」

 誰が撃った?

 ?

 右手から、火薬の匂いがする。
 私の、実夜の右手から。

 実夜の、銃に変形した右手から。
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