シューターガールズ!バトルロワイアル!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

やじるし

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八話 六月十三日 金曜日

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「実夜、どういうことなのか説明して」

 実夜とその母は、十一時まで人が多い駅の中で身を隠し、その後、家に帰った。
 クレアはいなかった。

「あのね、お母さん……本当にごめん」
「ママ怒ってないよ。ほら、あんなことがあったことだし、実夜にもいろんな事情があるだろうからね」

 『あんなこと』とは、家が崩壊していたということであろう。それについては実夜が一番理解し、受け入れることが出来ているのだが、母に知る由はない。

「でもね、説明だけしてほしいの。そうでないと、実夜の相談に乗ることすらできない。だから、ゆっくりでいいから、話して」

 母は、優しく、優しく言う。
 実夜は、しかし、実夜は

「ごめん、本当に何もないの。さっきは少し、おかしかっただけ」

 本当の事を言うことは、出来ない。
 銃のことは、自分たちで何とかしなければならない問題であって、母に相談したところで、何かが解決することははない。

 母も引かない。

「違うよね。ママの手を引いて走り出したとき、実夜の顔は真剣そのものだったよ」
「いや、ほんとだってお母さん。信じてよ」
「実夜、ママに言えないことあるんでしょ?」

 構わず追求を続ける母。
 実夜は机を右手で叩き、口調を強め、

「ないって言ってるじゃん!」

 実夜は自分が思っている以上に、感情が溢れてしまったことに驚く。

 思えば、誰かに怒りを覚えたことは、これが人生で初めてだったかもしれない。家が凛に破壊された時だって、湧き出た感情は怒りではなく、悲しみであったし、クレアが無関係の母を巻き込んだことについても、焦りや心配が心を支配していた。

「実夜はそうやって怒るのね。残念だわ」

 母は、平静を保ちながら言った。あたかも、それが上に立つ者の気量だと示すかのように!

「それが、ムカつくんだってば! お母さんはこれまでいっつもそうだった。私を子供扱いして!」
「ママ、子供扱いだなんてしてない」
「お母さんは、自分のことママって呼ぶよね。私は、お母さんって言うようになったのも気に留めないで」
「そんな呼び方くらい……別になんだっていいじゃない」

 何も娘のことをわかっていないくせに、支配したような気持ちになっているのが気に食わなくて仕方がない。

「実夜、やっぱあんた疲れてるのよ。今日は早く寝なさい」

 自分が何をしたいのかもよく分からないくらい、実夜の頭には血が上っていた。ここで怒りを爆発させても、余計に母を心配させるだけだというのに。

「…………」

 今日はここにいてはだめだ。もっと最悪な状況になる。

 実夜は無言で、外に向かって歩き出した。

「ちょっと、実夜!?」

 実夜は振り返らなかった。


*   *   *


 というわけで、実夜はその晩、美香の家に泊めてもらった。

 そして次の日、共に同じ通学路を歩む。

「ごめんねー、昨日は突然押しかけちゃって」

 実夜は申し訳なさそうに、はにかみながら言った。

「別にそれはいいんだけど、昨日何かあったのか?」
「うん……まあ、いろいろあって」
「ふーん」

 美香はあえて追求するつもりはないようで、実夜はそれがとてもありがたかった。

「あと、昨日はおつかれさま」
「そっちもおつかれさん」

 あのときの判断は正しかっただろうか、と実夜は自分に問いかける。
 母を避難させることを優先させずに、ナイフでクレアに特攻していたら、クレアのことを仕留めることが出来ていたかもしれない。もっとも、母の目の前で人を殺すことを、実夜の覚悟で出来るかどうかは怪しいが。

 しかし、誰も犠牲を出さなかった。
 今はそれだけでいいかと、実夜は自分を納得させた。

 朝の会話はそのくらいだった。
 二人とも昨日の疲れが取れず、眠さから意識が朦朧とした状態だったのだ。
 戦闘が許されるのは午後十時三十分から十一時まで。このルールを考えた人は、女子高生がやるということを考慮に入れなかったのだろうか。それともただ単に性格が悪いのだろうか。
 どちらにせよ、実夜達は賭けの対象でしかなく、温情も何もあったもんじゃないのかもしれない。

 不幸な戦いを強いられた実夜たちに構わず、本日も学校はいつも通りに進んだ。

 放課後。
 今日になっても家に帰る気の起きない実夜は、そのまま直行で美香の家に行くことにした。

「なんだか美香ちゃんの家が一番落ち着くや」

 実夜はここ最近美香の家に行き過ぎて、なんだか、第二の家のような感覚を覚える。むしろ今に限っては、家よりも落ち着く。

「そういえば今日、凛とクレア、どっちもいなかったな」

 凛とクレアが、揃って欠席。
 これが偶然やらではないことは確かだろう。

「……何してるんだろうね」
「最悪なのは、二人がこちらと同じように手を組んだっていう線だな。そうなったら正直、かなり厳しい」

 実夜と美香は自然な流れで結束することになり、凛戦、クレア戦と、二人で協力し窮地を逃れてきた。
 しかしこれを相手にされたらどうだろう。
 こちらは二人に対し、銃はハリケーンの一双のみ。
 一方、凛とクレアが手を組んだ場合、二人それぞれが銃を一つづつ所持している。
 普通に考えて、勝てるはずがない。

「ま、凛はともかくクレアは性格に難ありって感じだし、うまく同盟を結べるかどうかは怪しいところではあるがな」
「うん、そうだよね」
「手を組まないと考えると、あいつらは今頃、勝負の約束でもしてるのかな」
「凛ちゃんとクレアちゃんの勝負……どうなるんだろう」

 どちらの銃も、想像を絶する程の戦闘力を誇る。
 破壊力のデストロイか。
 防御力のヴァンガードか。
 どちらが勝つか、実夜は全く予想ができない。

「あいつらで潰し合ってくれたら、こっちとしては無駄に戦わなくて済んでありがたいんだけどなー」
「私はあんまりそう思わない、かも」
「どういうことだ?」

 実夜は答える。

「ほら私達、これまで二回戦ってきたけど、誰一人として死んじゃった子っていないよね。これってさ、凄いことだと思わない?」
「んー……まあ、確かに」

 どの勝負も、決して手を抜いた訳じゃない。その上で、バトルロイヤルに関わった中の誰一人として死亡していない。
 これは奇跡に等しいことだろう。

「だからさ、もしかしたらみんな生きて終われるんじゃないかなって思ってるんだよね」
「そりゃ夢みたいな話だな」
「夢みたいな話だけどね、でも、四人で協力すれば、GZCの人達を困らせることくらいはできるはずだよ!」

 女子高生四人に殺し合いをさせ、挙句にはその結果を賭けの対象にして金を稼ごうとする連中。GZC。

 美香も何らかの仕返ししてやりたいと思っていた。

「わかった。んじゃ、これからは協力体制を整えるってことで」
「ありがとー」

 やっぱり実夜はその覚悟を決めたとはいえ、死にたくないし、戦いたくない。戦争なんて、武器なんて、絶対に存在しない方がいい。
 実夜はダイニングテーブルに無造作に置かれた一対の銃、ハリケーンを見た。
 あの銃を誰も握らなくて済む日は来るだろうか。

 と、そこで実夜はある疑問が湧き出た。

「そういえば美香ちゃん、学校に行ってないときはずっとそのダイニングテーブルに銃を置いているの?」
「ああ、そうだぜ。さすがに学校には危なくて持っていけねーよ」
「いや、その、家族の人とかにバレたりしないのかなって思って」
「それは大丈夫だぜ。あたし、一人暮らしだし」
「え、そうなの!?」

 そういえば。
 最近美香の家にお邪魔することが増えたけれど、これまで一度も家族とは会ったことが無い。美香の家に一晩泊まった時だって、そうだった。

「でも、一人暮らしにしてはすごく大きな家だよね」
「もともとは父さんと母さんと三人暮らしだったからな」
「そしたら、どうして」
「父は天国。母は監獄……ってな」
「え?」
「二年前、母が父を殺したんだ」

 父は天国。母は監獄。
 母は父を殺し、逮捕され、監獄に。
 父は母に殺され、死に、天国へ。

 そして、残された娘。美香。

「どうして……そんなひどいことに」
「母さんは詳しい事は何も話してくれないんだ。どうして父さんが殺されたのかも、母さんが殺したのかもわからない」
「…………」
「それからあたしは、母さんに心底絶望したよ。人殺しなんて最低な行為をしておきながら、だんまりを決め込むなんて」
「…………」
「あたしは、もう母さんを母さんとして見ることが出来なくなった。だから、もう一年以上は会ってないな」
「…………」
「母さんは、最後に『本当にごめんなさい、でも全部あなたのためだった』って言った。意味わかんねーよ、って思ったな。そんときは。家族を殺して、あたしを一人にして、なにがあたしのためだ」

 美香はちらりとハリケーンを一瞥し、続けた。

「でもな、一昨日、昨日と人を殺さざるを得ないって状況になって、あたし母さんに対する見方が少し変わったんだ」
「……変わった?」
「もちろん、人殺しは最低な行為で、許されないことであるって考えに変わりはないんだけどな。でも、気づいたらあたし『実夜のために』誰かを殺そうとしてるわけだ。誰かのために戦っているんだと、自分に言い訳をして、殺人を半ば正当化してたんだ」

 両親を失った美香に残されたのは、実夜だけだった。
 実夜だけは失ってはならないと、そのためには自分が犠牲になることも厭わないと、思った。こう言ってしまえば美しい自己犠牲のように聞こえるが、その実、やっていることはただの人殺し。美しいどころか、美香の言うところの「最低な行為」だった。

「でも実夜のためにそうしたことを、完全に間違いだと思うことも違うと思うんだ。殺人は悪いことだが、そうするしかなかった。ここで母さんの話に戻るが、母さんは、あたしと同じなのかもしれないと、思ったんだ」
「美香ちゃん……」
「だから、この先事件の真相が明らかになるまでは、とりあえず母さんのことを認めてあげてもいいんじゃないかって思った。……だから、この殺し合いが終わったら、母もう一度さんに会ってみようかな」

 皮肉な話だが、結果的にこのバトルロワイヤルは美香と母の関係を取り持った、と言える。
 運命というものは、いつでも思いがけない転がり方をするものだと実夜は思った。

「私も……変わらなくちゃだね」

 実夜は呟いた。

「うん?」
「昨日の夜、お母さんとくっだらないことで喧嘩になっちゃったの。あのときは私も少し混乱してておかしかったと思う……だから、謝らなくちゃって」
「そうだったのか……ところで実夜のお母さんってどんな人なんだ? そういえばあたし、まだ一回も会ったことなかったよな」
「私のお母さんはすっごく優しい人だよ。私に怒ったことも一度もないくらい。……いや、一回だけあったかな? なんだっけ、忘れちゃった」
「まあとにかく優しい人でよかったな。きっと謝れば許してくれるはずだ」
「うん。そうだね」

 会話の切れ目を丁度縫うように、美香のスマホから通知音が鳴った。
 美香はスマホ取り出し、確認する。

「凛からのLINEだ」
「凛ちゃん?」
「ええと……『クレアさんをどこかで見ませんでしたか? 見かけましたら、どうか御一報ください』だってよ」
「凛ちゃん、クレアちゃんを探してるんだね」

 クレアは所持する銃の特性上、当人はどこかで隠れながら戦うのがもっとも効率的だ。実夜と美香は、戦闘と捜索を分担することで対処しようとしたが、クレアは一人ではそれができない。

「でも、凛があたしらに助けを求めるってなんか不自然じゃねーか?」
「よっぽど切羽詰まった状況なのかな」
「ま、とりあえずあたしらも捜索に加わるとするか」
「そうだね」

 今、優先するのはこの戦いの平和的解決。凛とクレアが戦闘しようとしていることがわかった以上、ますはそれを止めることから始めるしかない。

 時刻は午後六時半。
 窓からオレンジ色の光が射し込む。
 
 実夜と美香は、自分のため、友達のため、あるいは家族のために、歩き出した。
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