記憶喪失の令嬢は皇太子に激執着される

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一途








「はぁ…。やっぱ前皇帝もろともアイツも殺っとくべきだったなぁ。」

 冗談ではなく真剣な顔をし呟く親父を黙って見る。

「またそう言う…。
 あの時、国から追い出すのも殺さないとも決めたのはアナタでしょ。
 今更言わないの。

 言いたくないけど、あの前公爵が居なければまだここまで復旧は出来ていないわ。」

 親父の空いたグラスに酒を注ぎ次に自分のグラスにも注ぎ言う母親。

「まぁな…」

「元商人なんでしたね。」

「そう。個人で貿易までしていた。
 その為顔も広く知識もあり口も上手い。
 目利きもあり、特に宝石類はずば抜けている。」

 この話は聞いたことがある。

 鉱山をいくつか所有している公爵家にとってほしい人材だった。

 が、アイツは自分をも商品とした。

『公爵家の一員にしてほしい。
 それならば、この力を存分に発揮してみせる。』

 当時の公爵はハッキリと言いのける男を気に入り、二人娘の18になったばかりの長女との婚約の話を持ち掛けた。

 だが、それを断り
『次女の方と婚約をしたい』
 と、交渉したらしい。

 流石にいい顔はしなかったが公爵家側も条件を出したようだ。

『その力とやらを発揮してみせたなら考えなくもない。』

 その約3ヶ月ほどで、公爵家の収益が倍になった。

 大層喜んだ公爵は約束通り次女との婚約を進めた。
 この時30歳だった男だが。

 次女はまだ、12歳だったと聞く…。

 “12…ねぇ。”

 フッと急遽親父が連れ帰ってきた当時のアルヤを思い出しイラ立ちを覚える。

 思わず眉間に力が入った。

「顔も態度も何もかも嫌いだが、今の貿易があるのはあの男の功績だ。
 認めたくないがこの帝国再建の立役者の一人と言っていい。」

 親父の言葉にため息をつきつつグラスの酒を空にする。

 デカイ腹をし、すべての指に宝石がどデカくギラつく指輪をはめた前公爵が頭をよぎる。

 “ムカつく!”

 力が入りダン!っと机にグラスを叩きつける型になるが気にせず立ち上がる。

 この話はもうしたくなかった。

「…戻る。」

 そう言い扉に向かうが母親に呼び止められる。

「待ちなさい。」

 “…くそ。”

「なんだよ。」
 面倒ながらも身体を少しひねり母親を見る。

「まだ皇女の事聞いてないわ。
 私はその為にアンタを連れてきたんだもん!」

 指を差しながら言う母親を思いっきり睨む。

 “このババァ…”

 だが、横の親父に凄まれ睨むのを辞めた。

「ははは。もう皇女と仲良くやってろよ?」

 揶揄うマルセルの声が聞こえるが、ムカつくだけだろうから視線は母親と親父に固定して言う。

「今朝も言ったし、さっきも言った。
『何もない。』それ以上ない。」

「じゃぁ何で皇女が、楽しく話したー。なんて言うのよ!?」

「知るか。
 大体、何で皇女の言葉を信じて俺を疑う。」

「んー。…日頃の行い?」

 少し考え首を傾げ言う母親にイラッとし眉間シワがよる。
「あ”ぁ”?」

 親父とマルセルの笑い声が重なる。

 呆れ、ため息をつき言い返す。

「大体。楽しく話したって何をだよ。
 俺が聞きてぇよ。」

「だって皇女が言ってたぜ?
『楽しくお話させて頂きましたー。』ってさ
 楽しくはまぁ置いといて話はしたんだろ?」

 ニヤニヤとムカつく顔を向けるマルセルをちらっと見て答える。

「話なんてしてねぇよ。」

「おーおー。
 全面否定か?」
 笑う親父と、楽しそうな母親。

「事実だ。
 勝手に俺の後ろでギャーギャーと騒いで、勝手に去って行った。
 それだけだ。」

「えー?本当にー?」

「あぁ。
 返事もしてなければ、振り向いてすらない。
 まず、話すら聞いてもない。」

「なーんだ。つまんないの。
 と、言うか。初めからそう説明しなさいよね?」
 そう言いながらグラスに口をつける母親。

 ムッとしながらも俯きため息がでる。

 “何もないと言ってるんだから、それでいいじゃねぇか…”

 長々と、どうでもいい事を揶揄い聞いてくるのがウザいだけだった。

「へーへー。
 すみませんでしたね。」
 鬱陶しくとりあえず謝っておく。

 身体を扉へ向き直した所でマルセルの笑い声。

「ははは。流石に皇女可哀想っ!
 話くらいしてやれよー。
 俺の所頻繁に来だしたらどうするんだよー。」

 そんな事知ったこっちゃない。

 普段なら気にせずに部屋を出ただろうが、何となく振り返り言い返した。

「知るか。皇女なんてどうでもいい。
 俺はアルヤとだけ話せればそれでいい。」

 俺の言葉に皆が笑う。

 そんな奴らを見てフッと笑う。

「俺は一途なんだ。」

 笑い声はピタリと止み、驚く三人の顔が一瞬だけ見えたが、右手を軽く上げすぐに部屋を出た。




 薄暗い廊下をゆっくり歩く。

 今の事を思い出し足が止まる。

 “何やってんだ…俺…。”
 急に恥ずかしくなり、急激に熱くなった顔を片手で覆う。

 普段しない事をやった後悔が押し寄せる。

 “ったく。酒なんか飲むんじゃなかった…”
 酒のせいにしようとするが、違うのは自分がよく分かっている。

 はぁ…

 顔を上げ再び歩き出す。

 部屋に戻るつもりだったが、何となく外へ出る。

 心地よい風が、火照った顔を冷やす。



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