記憶喪失の令嬢は皇太子に激執着される

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思と想







 狩猟大会前に一緒に歩いた庭園にフラッと入る。

 …ここで立ち止まり花を見てたな。

 アルヤの行動。すべてを思い出せる。

 誰にでも見せるあの笑顔を、俺だけに向けてほしい。と何度も思った。

 いや、違うな…。

 楽しげに笑う姿も。
 負け時と反抗してくる姿も。
 驚き顔を赤くする姿も。
 何かを考え目を細める姿も。
 案外キツく睨み怒る姿も。
 ポロポロと涙を溢れさせる姿も。
 不意に見せる悲しげだが優しい微笑みさえも…

 全部。

 俺だけのものにしたかった。

 だが、広場で楽しそうに笑顔を振りまき踊り舞うアルヤを見て思った。

 アイツは俺の横でも変わらずにずっと、そんな顔をする事が出来るのだろうか。

 自然と笑顔が溢れてくるような。
 そんな日々を、この俺が与えることは出来るのだろうか。

 俺が与えられてばかりで、何かを与えてやる事は出来るのだろうか。

 幸せに。してやる事は出来るのだろうか。


 アイツの幸せを考えると…
 俺ではないような気がしてきていた。


 考えつつ目的もなく歩いていたが、目の前にアルヤと入った薔薇の温室の目の前にいた。

 アルヤの事を考えていたからだろうか、あの日と同じ道を歩いてきていた様だった。

 中に入りはせずにその場で温室を眺める。

 “まさか、あんな渡し方をするとは考えてもみなかったな…”

 シャンドリ邸から帰り、婚約の話をする為に用意していた。
 …なんて、もう死んでも口には出来ない。

 付け上がり自惚れていた自分自身に腹が立たつ。

 皆が俺を慰めるかのように言った。
『あんなのはあまりにも想定外の出来事だった。』

 だが、その言葉は俺にとって首を絞められる様な感覚にする。

 想定外でも対処出来ると思っていたからだ。

 いっその事、皆で俺を罵ってくれたほうが楽だった。

 ただマルセルだけが違った。
『お前の失態だ。』

 胸ぐらを捕まれ凄まれたが、言い返す事なく受け入れた。
 紛れもない事実だったから。

 そして、何故か安心したのを覚えている。

 アルノや皇宮医師の診察により、命に別状はないと知るが
『何故目を覚まさないのか分からない。
 このまま目を覚まさない可能性も…。』

 そんな話を聞き、その日の夜から薔薇を一本ずつアルヤの横に置いた。

 用意した11本を全て渡し終わるまでに目が覚めなければ、自ら命を断とうと決めて。

 自己満足なのは分かっていたが、俺のせいで眠り続けるアルヤを見ていられなかった。


 頬に触れながら眠るアルヤに毎日語った。


『俺にできる事ならば、何でも叶えてやるから…目を開けてくれ。』


 思い出し、フッと鼻で笑う。

 シャンドリ邸にはもう連れていける気はしないが…
 他のことは聞いてきたつもりだ。

 温室から目を離し、クルッと振り返り来た道を戻る。

 “…ったく。
 こんな事考えてると、会いたくなってくるな…。”

 会いたくなった。
 だなんて言うと、どんな顔をするのだろうか。

 揶揄い笑う?
 驚き赤面する?
 それとも…ただ喜んでくれるだろうか。

 目的もなく歩いていたが今度は違った。

 皇宮内には入らずに皇宮の外の壁に沿って歩きつつ少し上を見上げる。

 柱の関係で凹凸のある外壁を進み、ある窪みの所で足を止め暗い部屋を確認する。

 “まぁ…寝てるよな。”

 窪みにもたれ掛かりそのままズルズルと両膝を立て座り込む。
 ここは、アルヤの部屋の窓の下。

 ココには昼夜問わずたまに来て、物思いにふける。
 意外静かでアルヤを近くに感じる様な気がして気に入っている場所だった。

 昼間だと開けられた窓からアルヤの声が漏れ聞こえたりもし、癒しにもなっていた。

 深夜の今。
 聞こえてくるはずのない声が聞きたくて来てみたが…

 はぁー…。

 “何やってるんだ俺は…”

 立てている両膝の真ん中に頭を下げる。

 アルヤが目を覚ましたあの日を思い出す。

 丁度このくらいの時間だったか…

 ベットで眠り続けるアルヤの前に座り、数時間ウトウトして日が昇る前に部屋に戻り仕事をする。

 そんなサイクルが出来つつあったあの日、俺に触れようとする気配で目が覚めた。

 目を開けすぐにアルヤと目が合った。
 夢かとも思ったが、抱きしめた感覚は本物だった。

 息ができないほど驚き…いや、嬉しかった。

 そんな事を思い出していると、足音が聞こえ近づいてくる。

 誰なのかは顔を上げずとも分かる。
 歩き方の癖もだが、ここの場所を知っている奴。
 そんなのは一人だけ。

「やっぱりいた。」

 ムカつく声がする。
「…俺に何か様か?」

 そう言いつつ顔を上げると、やはりムカつくニヤケ顔のマルセルが立っている。




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