初めてはアイツと!?〜大嫌いなチャラ同期に、鉄壁の秘密を暴かれました〜

萩野詩音

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第7話

8

「嘘じゃねえよ」
「しょっちゅう会社で女の人とベタベタしてるくせに」
「あれは……入社直後だけだよ」
「あっそ」

 相川は冷たい瞳のまま、興味なさそうに肩をすくめた。
 掴むこともできていない相川が、手の中からただ滑り落ちていく。
 みぞおちを殴られたかのように痛んだ。
 なんとか相川を繋ぎ止めたくて、なりふり構わず言葉を重ねてしまう。 

「本当だって。あの時はまだ迫ってくる女にどう対処したら良いかわからなかっただけ」
「へえ」
「今はそんなことないし。最近、相川に見られたこともないはずだけど」
「どうだろ」

 相変わらず平坦な声はぶれない。
 自分なんて相川にとってまるで眼中にないということを痛感して、胸が軋んだ。

「だろ。気をつけてんだよ」
「ふうん」
「お前……全然興味ないな」
「うん」
「……そこだけ即答かよ……」

 興味ない。
 自分で言った言葉が思った以上の威力で迫ってきて、胸を突き刺す。
 その痛みをごまかそうとして、ちっと小さく舌打ちが漏れてしまった。

「糸川って、いつも愛想いいくせに私にはめちゃくちゃ態度悪いよね」
「な……っ。それを言ったら相川だって、普段はクールビューティとか言われてるくせに、俺にはめちゃくちゃ突っかかってくんじゃん」

 ただじゃれているだけで、本当は仲が良いならよかった。

「別にクールビューティなんて言われてないし。そんなキャラ目指しているわけでもないし」
「……そうなの?」
「まわりが勝手に言ってるだけでしょ。ブリザードだって」
「ブリザードって……。だからそれ、意味違うと思うぞ?」
「え?」

 相川が心底意外そうな表情を向けてくる。
 やっぱり、自分に向けられる好意に対して相川は鈍すぎる。

「相川にどんなにアプローチしてもなしのつぶてだから、相手にされなかった男がやっかみで言ってるだけだろ」
「……え?」

 二人、歩道の真ん中で立ち止まって向かい合っていた。
 車道を通る車のヘッドライトに照らされる。
 まぶしさに一瞬目を閉じ――再び開くと、相川の頬に涙のあとが見えた。 

「あーやっぱ理解してなかったんだな。美人で仕事もできる相川のことを落としたい男が、近寄ってはすげなくされてるから恨んで有る事無い事言ってんの。だからブリザードなんていうのはフラれたやつの負け惜しみ。他の男は大体綺麗すぎて近寄れないっつって避けてんだよ」
「まさか」
「まさかじゃねえよ。今日吉野が相川を無理やり連れ出したのだって、普段誘っても来てくれない相川先輩を誘い出した私、を褒めてもらいたかっただけだろ」
「そんなわけないでしょ。そんな風に思われるわけない」
「あのな。そんなに俺のいうことが信じられないわけ?」
「糸川のことは元々信じてない」
「……お前な、」
「そんな嘘ついてどうするの? 糸川になんの得があるわけ?」
「だから嘘じゃねえって」
 まるで売り言葉に買い言葉。普通、こういうぽんぽんはずむ会話って、仲良い人間とじゃないと出来ないものじゃないだろうか。
 そうだったらいいのに――なんて、こんな言い合いをしている最中も思ってしまう自分は、やっぱり相川のことを好きすぎる。

 深く、長く息を吐いた。
 どれだけ重いため息をついても、白く濁った息は相川に届く前に暗闇のなかに吸い込まれていく。
感想 2

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