42 / 77
第7話
8
「嘘じゃねえよ」
「しょっちゅう会社で女の人とベタベタしてるくせに」
「あれは……入社直後だけだよ」
「あっそ」
相川は冷たい瞳のまま、興味なさそうに肩をすくめた。
掴むこともできていない相川が、手の中からただ滑り落ちていく。
みぞおちを殴られたかのように痛んだ。
なんとか相川を繋ぎ止めたくて、なりふり構わず言葉を重ねてしまう。
「本当だって。あの時はまだ迫ってくる女にどう対処したら良いかわからなかっただけ」
「へえ」
「今はそんなことないし。最近、相川に見られたこともないはずだけど」
「どうだろ」
相変わらず平坦な声はぶれない。
自分なんて相川にとってまるで眼中にないということを痛感して、胸が軋んだ。
「だろ。気をつけてんだよ」
「ふうん」
「お前……全然興味ないな」
「うん」
「……そこだけ即答かよ……」
興味ない。
自分で言った言葉が思った以上の威力で迫ってきて、胸を突き刺す。
その痛みをごまかそうとして、ちっと小さく舌打ちが漏れてしまった。
「糸川って、いつも愛想いいくせに私にはめちゃくちゃ態度悪いよね」
「な……っ。それを言ったら相川だって、普段はクールビューティとか言われてるくせに、俺にはめちゃくちゃ突っかかってくんじゃん」
ただじゃれているだけで、本当は仲が良いならよかった。
「別にクールビューティなんて言われてないし。そんなキャラ目指しているわけでもないし」
「……そうなの?」
「まわりが勝手に言ってるだけでしょ。ブリザードだって」
「ブリザードって……。だからそれ、意味違うと思うぞ?」
「え?」
相川が心底意外そうな表情を向けてくる。
やっぱり、自分に向けられる好意に対して相川は鈍すぎる。
「相川にどんなにアプローチしてもなしのつぶてだから、相手にされなかった男がやっかみで言ってるだけだろ」
「……え?」
二人、歩道の真ん中で立ち止まって向かい合っていた。
車道を通る車のヘッドライトに照らされる。
まぶしさに一瞬目を閉じ――再び開くと、相川の頬に涙のあとが見えた。
「あーやっぱ理解してなかったんだな。美人で仕事もできる相川のことを落としたい男が、近寄ってはすげなくされてるから恨んで有る事無い事言ってんの。だからブリザードなんていうのはフラれたやつの負け惜しみ。他の男は大体綺麗すぎて近寄れないっつって避けてんだよ」
「まさか」
「まさかじゃねえよ。今日吉野が相川を無理やり連れ出したのだって、普段誘っても来てくれない相川先輩を誘い出した私、を褒めてもらいたかっただけだろ」
「そんなわけないでしょ。そんな風に思われるわけない」
「あのな。そんなに俺のいうことが信じられないわけ?」
「糸川のことは元々信じてない」
「……お前な、」
「そんな嘘ついてどうするの? 糸川になんの得があるわけ?」
「だから嘘じゃねえって」
まるで売り言葉に買い言葉。普通、こういうぽんぽんはずむ会話って、仲良い人間とじゃないと出来ないものじゃないだろうか。
そうだったらいいのに――なんて、こんな言い合いをしている最中も思ってしまう自分は、やっぱり相川のことを好きすぎる。
深く、長く息を吐いた。
どれだけ重いため息をついても、白く濁った息は相川に届く前に暗闇のなかに吸い込まれていく。
「しょっちゅう会社で女の人とベタベタしてるくせに」
「あれは……入社直後だけだよ」
「あっそ」
相川は冷たい瞳のまま、興味なさそうに肩をすくめた。
掴むこともできていない相川が、手の中からただ滑り落ちていく。
みぞおちを殴られたかのように痛んだ。
なんとか相川を繋ぎ止めたくて、なりふり構わず言葉を重ねてしまう。
「本当だって。あの時はまだ迫ってくる女にどう対処したら良いかわからなかっただけ」
「へえ」
「今はそんなことないし。最近、相川に見られたこともないはずだけど」
「どうだろ」
相変わらず平坦な声はぶれない。
自分なんて相川にとってまるで眼中にないということを痛感して、胸が軋んだ。
「だろ。気をつけてんだよ」
「ふうん」
「お前……全然興味ないな」
「うん」
「……そこだけ即答かよ……」
興味ない。
自分で言った言葉が思った以上の威力で迫ってきて、胸を突き刺す。
その痛みをごまかそうとして、ちっと小さく舌打ちが漏れてしまった。
「糸川って、いつも愛想いいくせに私にはめちゃくちゃ態度悪いよね」
「な……っ。それを言ったら相川だって、普段はクールビューティとか言われてるくせに、俺にはめちゃくちゃ突っかかってくんじゃん」
ただじゃれているだけで、本当は仲が良いならよかった。
「別にクールビューティなんて言われてないし。そんなキャラ目指しているわけでもないし」
「……そうなの?」
「まわりが勝手に言ってるだけでしょ。ブリザードだって」
「ブリザードって……。だからそれ、意味違うと思うぞ?」
「え?」
相川が心底意外そうな表情を向けてくる。
やっぱり、自分に向けられる好意に対して相川は鈍すぎる。
「相川にどんなにアプローチしてもなしのつぶてだから、相手にされなかった男がやっかみで言ってるだけだろ」
「……え?」
二人、歩道の真ん中で立ち止まって向かい合っていた。
車道を通る車のヘッドライトに照らされる。
まぶしさに一瞬目を閉じ――再び開くと、相川の頬に涙のあとが見えた。
「あーやっぱ理解してなかったんだな。美人で仕事もできる相川のことを落としたい男が、近寄ってはすげなくされてるから恨んで有る事無い事言ってんの。だからブリザードなんていうのはフラれたやつの負け惜しみ。他の男は大体綺麗すぎて近寄れないっつって避けてんだよ」
「まさか」
「まさかじゃねえよ。今日吉野が相川を無理やり連れ出したのだって、普段誘っても来てくれない相川先輩を誘い出した私、を褒めてもらいたかっただけだろ」
「そんなわけないでしょ。そんな風に思われるわけない」
「あのな。そんなに俺のいうことが信じられないわけ?」
「糸川のことは元々信じてない」
「……お前な、」
「そんな嘘ついてどうするの? 糸川になんの得があるわけ?」
「だから嘘じゃねえって」
まるで売り言葉に買い言葉。普通、こういうぽんぽんはずむ会話って、仲良い人間とじゃないと出来ないものじゃないだろうか。
そうだったらいいのに――なんて、こんな言い合いをしている最中も思ってしまう自分は、やっぱり相川のことを好きすぎる。
深く、長く息を吐いた。
どれだけ重いため息をついても、白く濁った息は相川に届く前に暗闇のなかに吸い込まれていく。
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
恋に異例はつきもので ~会社一の鬼部長は初心でキュートな部下を溺愛したい~
泉南佳那
恋愛
「よっしゃー」が口癖の
元気いっぱい営業部員、辻本花梨27歳
×
敏腕だけど冷徹と噂されている
俺様部長 木沢彰吾34歳
ある朝、花梨が出社すると
異動の辞令が張り出されていた。
異動先は木沢部長率いる
〝ブランディング戦略部〟
なんでこんな時期に……
あまりの〝異例〟の辞令に
戸惑いを隠せない花梨。
しかも、担当するように言われた会社はなんと、元カレが社長を務める玩具会社だった!
花梨の前途多難な日々が、今始まる……
***
元気いっぱい、はりきりガール花梨と
ツンデレ部長木沢の年の差超パワフル・ラブ・ストーリーです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?