初めてはアイツと!?〜大嫌いなチャラ同期に、鉄壁の秘密を暴かれました〜

萩野詩音

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第8話

3

 社外で仕事の話をすることをお互い意図的に避けているせいか、どうしてもプライベートな会話が増えてしまう。
 糸川は相変わらず料理に凝っているようだ。出てきた料理を興味深そうに咀嚼しては、「これ家で作れねえかな……」なんて呟いている。

 私の日々の楽しみは、ミトのライブ映像を見ることぐらいだ。
 大音量で音楽を流したいから、賃貸アパートは鉄筋一択だと語ったら笑われた。
 もっとも「家で何してんの?」と聞かれて、こんなに気を遣わなくてすむ相手は楽だ。
 堂々と「ライブ見てる」と答えられるひとなんて、今までひとりもいなかった。
 糸川は「あっそ」とつれないけれど。

「あ、でも時々映画とかは見る」
「へえ。映画館で?」
「ううん。サブスクで見ちゃうことが多いかな……」
「じゃあ今度行こうぜ。たまには大画面で見たいよな」
「あ、そういえば来週からちょっと面白そうなのやるって」
「へえ、マジ。なんてやつ?」

 正確なタイトルは思い出せなかったけれど、糸川は私の説明を素早くスマホに打ち込むと、映画名を特定してしまった。

「面白そうじゃん。ミステリーか。じゃあ来週の金曜な」
「え……?」
「帰りに行こうぜ。飯食ってからでもいいし」

 にっこりと笑った糸川は「上映スケジュールでたらまた連絡するわ」と続けて、スマホをテーブルに置いた。
 流れるように次の予定が決まってしまった。
 けれど少しだけ心が躍る。
 忘れないようにスマホのカレンダーに映画と打ち込んで、しばらくその文字を眺めた。


 週に一、二度糸川と過ごすのが当たり前になっていた。
 仕事終わりに食事をしたり、土日のどちらかに待ち合わせて出かけたり。
 映画は何度か行ったし、買い物も行ったし、美術館にも行ったし、水族館にも行った。

 たいてい、話しているときに出た話題の場所や、一緒に歩いていて目についた広告に興味を示すと、流れるように次の約束が決まっている。
 気づけば、それを当たり前のように受け入れていた。

 ひとりで過ごすことが多かったから、他人と一緒にどこかへ出かけることは不安もあった。  
 でも、悔しいけれど糸川と同じ時間を過ごして、気づいた。感じたことを誰かと共有できる尊さに。
 同じ魚を見て「可愛い」という感想を伝えるのも、鑑賞した絵画のわけのわからなさについて話すのも。ひとりで見る熱帯魚より、ふたりで覗く深海魚のほうがよっぽど可愛い。
 推し活でさえ仲間もおらず、常にひとりの私にとっては本当に新鮮だった。
 

 糸川は、美味しい店を探し出す達人でもあった。
 気が引けるほど高級ではないけれど、工夫を凝らした料理を出してくれる丁寧な店が好きなようだった。毎回、違う店に案内してくれる。

 個室がある時は個室を取ってくれることもあって、その時は遠慮なく仕事の話もできた。業務中に必要な話はしているものの、振り返ったら浮かぶちょっとした疑問とか、どうしても一緒に仕事をしづらい社員の話なんかを共有できたのは有意義だった。

 おかげで、次のプレゼン、糸川は乗り気じゃないんだろうなあ、なんてことも手に取るようにわかった。おそらく、事前に客先と接触した段階の手応えが悪いのだろう。けれど上からの指示で交渉を進めなければならない……そんな板挟みの状態になっているように見受けられることが、儘あった。

「思った通りにやらせてもらえれば、結果出す自信はあるんだけどなー」とさりげなく溢していた。もっとも、すぐに話題を切り替えてしまうから、あまり喋りたくないのかもしれない。

 そんな時は少しでも力になれるよう、こちらの準備にも気合いが入った。

「俺、ひとつ間違ったかもって思うことがあるんだよな~」

 週末、魚料理の美味しい店で、器用に焼き魚をほぐしながら糸川がため息を吐いた。
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