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錆びた花
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最近、ふと思うことがある。
私という存在は、誰にも替わられない特別なものであろうか?
考えてはみるが、やっぱり駄目だ。私の中では自分という存在は唯一無二のものであって欲しいという思いがどこかにあるのだろう。「自分は替わられない不可欠なもの」であることは世界で、どれほどひどい扱いを受け、社会の尻に敷かれても立ち直る活力を与えてくれるものである。残念ながら、私が居なくても社会は回るだろうな。
或る日突然降って湧いたこの疑問は、その後も長く私の脳の中央をでかでかと占領し続けた。視界にモザイクをかけられたかのような不快な気持ち悪さ。それでいて幾ら思索を巡らせたとしても完全な答えには辿り着かない。至極厄介者である。私の小さな脳の処理速度は追い付かず、考えるうえで湧いた更に多くの疑問が脳の隅々まで侵攻していく。それまでは別のことに考えを遣る余裕もあった。だがここまで来るとそんな事はできない。日常生活にまで支障を来した。一度意識すると、外部からの何らかの働きがなければ元の世界には戻れなくなる程にまで没頭した。いや、没頭したというのは間違いだろう。私にその時間の記憶はない。
そのような生活を長く繰り返す中で、私の中には1つのこの問題に対する解釈が生まれた。これは神の試練、とは行かないまでも私に何かを得させたいどこかの誰かが与えた任務ではないか ...と。
そうしてこの任務は私が不可欠な存在かについての答えを明確に出せる迄延々と続くものだと思った。
私は自分で勝手に解釈しておきながら焦りを感じた。そのうち本当にそこにしか頭か回らなくなって、夢遊病者みたいな、"ヤバい奴"と判断され、社会から孤立してゆくのではないかとすら思った。
考えたら負けだ。その日から私は考えることをやめた。ただただ儀礼的に、日常の家事、通勤、仕事、就寝のライフサイクルを繰り返す。そこには何の感情(嬉しさも悔しさも)も感じないのだから。一抹の空虚感だけは残ったが、それもすぐに消え、心地よいレベルの安定をもたらしてくれた。
起伏のない毎日を過ごすにつれて、私は誰にも替わられない特別なものであるかという魔の疑問は浮かばなくなった。意識せず、他人に同調し、社会の大きな波に乗る人生は楽である。不平等に対して声を上げ、行動を起こすこともないのだから、世間から非難を受け心を痛めることもない。こんなに最高な生き方があったのか。
一つだけ憂慮すべきことがあるとすれば、周りの職場の人間、家族が私に全く接触しなくなったことだ。職場の同僚は、昼休みも机を囲んで、私には到底理解不能な言語を操っている。実家に規制したときもそうだ。両親は私の知らない言葉を操っていた。いや、それは言葉と呼べるものだったかな。わからない。
しかしそんなことはどうでもいいのだ。私には流されるだけの楽しい人生が待っている。
私は今日もいつもと同じ道を通って駅へ向かい、途中のコンビニで普段と全く同じおにぎりとサンドウィッチを購入する。
そして、おそらく同じ方向へ向かうであろう人らしきものが集まった駅という構造物に足を踏み入れる。
オートメーション化された構造物の中は、味気ない機械音と靴底の床を擦る音で充満していた。
人らしきものはドアが開くのと同時に動く鉄の塊へまるで流動する液体の様になって詰め込まれていく。
黒い帽子と制服に身を包んだ、顔の見えない何かに鉄の塊の中へ押し込まれた。
発車ベルが鳴り、ドアが閉まる。
塊はインバータの無機質なサウンドと共にここを出て行った。
私という存在は、誰にも替わられない特別なものであろうか?
考えてはみるが、やっぱり駄目だ。私の中では自分という存在は唯一無二のものであって欲しいという思いがどこかにあるのだろう。「自分は替わられない不可欠なもの」であることは世界で、どれほどひどい扱いを受け、社会の尻に敷かれても立ち直る活力を与えてくれるものである。残念ながら、私が居なくても社会は回るだろうな。
或る日突然降って湧いたこの疑問は、その後も長く私の脳の中央をでかでかと占領し続けた。視界にモザイクをかけられたかのような不快な気持ち悪さ。それでいて幾ら思索を巡らせたとしても完全な答えには辿り着かない。至極厄介者である。私の小さな脳の処理速度は追い付かず、考えるうえで湧いた更に多くの疑問が脳の隅々まで侵攻していく。それまでは別のことに考えを遣る余裕もあった。だがここまで来るとそんな事はできない。日常生活にまで支障を来した。一度意識すると、外部からの何らかの働きがなければ元の世界には戻れなくなる程にまで没頭した。いや、没頭したというのは間違いだろう。私にその時間の記憶はない。
そのような生活を長く繰り返す中で、私の中には1つのこの問題に対する解釈が生まれた。これは神の試練、とは行かないまでも私に何かを得させたいどこかの誰かが与えた任務ではないか ...と。
そうしてこの任務は私が不可欠な存在かについての答えを明確に出せる迄延々と続くものだと思った。
私は自分で勝手に解釈しておきながら焦りを感じた。そのうち本当にそこにしか頭か回らなくなって、夢遊病者みたいな、"ヤバい奴"と判断され、社会から孤立してゆくのではないかとすら思った。
考えたら負けだ。その日から私は考えることをやめた。ただただ儀礼的に、日常の家事、通勤、仕事、就寝のライフサイクルを繰り返す。そこには何の感情(嬉しさも悔しさも)も感じないのだから。一抹の空虚感だけは残ったが、それもすぐに消え、心地よいレベルの安定をもたらしてくれた。
起伏のない毎日を過ごすにつれて、私は誰にも替わられない特別なものであるかという魔の疑問は浮かばなくなった。意識せず、他人に同調し、社会の大きな波に乗る人生は楽である。不平等に対して声を上げ、行動を起こすこともないのだから、世間から非難を受け心を痛めることもない。こんなに最高な生き方があったのか。
一つだけ憂慮すべきことがあるとすれば、周りの職場の人間、家族が私に全く接触しなくなったことだ。職場の同僚は、昼休みも机を囲んで、私には到底理解不能な言語を操っている。実家に規制したときもそうだ。両親は私の知らない言葉を操っていた。いや、それは言葉と呼べるものだったかな。わからない。
しかしそんなことはどうでもいいのだ。私には流されるだけの楽しい人生が待っている。
私は今日もいつもと同じ道を通って駅へ向かい、途中のコンビニで普段と全く同じおにぎりとサンドウィッチを購入する。
そして、おそらく同じ方向へ向かうであろう人らしきものが集まった駅という構造物に足を踏み入れる。
オートメーション化された構造物の中は、味気ない機械音と靴底の床を擦る音で充満していた。
人らしきものはドアが開くのと同時に動く鉄の塊へまるで流動する液体の様になって詰め込まれていく。
黒い帽子と制服に身を包んだ、顔の見えない何かに鉄の塊の中へ押し込まれた。
発車ベルが鳴り、ドアが閉まる。
塊はインバータの無機質なサウンドと共にここを出て行った。
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