地獄島

ハシも

文字の大きさ
4 / 5

第4話 真実

しおりを挟む


望月先生と私は、静かに並んで座った
ソファーの少し軋む音だけが、耳に残る。

目の前には、淡い紺の着物を纏い、背筋を真っ直ぐに伸ばしたまま座るその姿。
彼の気配は、妙に空間を圧迫していた。

「失礼をいたしました。改めまして来来島(くりまじま)から参りました。尾𥔎と申します。
あなたのお母様のいとこにあたります。」
男は軽く頭を下げたが、その動作にも無駄がなかった。

「望月先生、どうすればいいの…」
視線を尋ねると、先生は少しだけ顔を伏せて
立ち上がりながら、やわらかく微笑んだ。

「じゃあ、私はお茶を淹れてきますね。
二人で、ゆっくりお話して頂いて」

その言葉に、私は思わず望月先生の袖を掴みそうになった。
けれど、何も言えなかった。

望月先生は静かに部屋を出て行く。
襖がすうっと閉まる音が、やけに大きく響いた。

二人きりになった室内。
尾嵜という男は、微動だにせず、じっと私を見つめていた。
逃げ場が、どんどん消えていく――そんな気がした。

「里奈さんを、ずっと探しておりました」
言葉は静かだったが、その奥にある執念のようなものが、ひしひしと伝わってきた。

「実は現在、島の財産と土地。すべての名義があなたに移っております」
尾嵜は、まるで淡々と事務手続きを説明するような調子で言った。

「いきなりで戸惑うと思いますが、島の後継者。正式には“守り人”と呼びますが、それがあなたです。
あなたのお母様が姿を消したあの日から、すべてあなたに引き継がれていました」

「えっ、守り人…何を言ってるか
ちょっとわからないです。」

「お母様は、島を出たことで――“役割”を放棄されました」
尾嵜は、言葉を選ぶように、ゆっくりと続けた。

「けれど、“血”は残った。あなたに。
血筋は、儀式よりも重いとされているのです。
だから……
はっきりと言えば戻っていただきたい、
来来島(くりまじま)へ。
気持ちが整ったら――それで構いません」
ゆっくりと、けれど確かな口調で言葉を続けた。

尾嵜は懐から、小さく折りたたまれた紙片を取り出した。
それを卓袱台の上にそっと置く。

「これは、私の連絡先です」
静かな声で言った。

「もし“お母様のこと”を、本当に知りたいと思ったなら。そのときは、ここに電話をください。」

紙の上には、簡素な数字と苗字だけ。
見慣れない市外局番が、妙に重く見えた。

私は、まだ何も答えられなかった。

尾嵜は、ふと視線を落とし、

「……私の寿命も、あまり残されていません」
そう言ったときの声は、先ほどまでの冷静な口調とはまるで違っていた。

「だから、せめて“今のうちに”伝えねばと思ったのです。
あなたの母が、なぜ島を捨てたのか。
そして、なぜ……あなたが呼ばれたのかを」

その目には、老いというよりも、何かに蝕まれているような影があった。
時間との静かな戦い。その終わりが、もう見えている人の目だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

処理中です...