敷知の庭先

敷知遠江守

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第13話 ザ・ハーブ「紫蘇」

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 皆さんは、おにぎりの具というと何を思い出すでしょうか?
 梅干し。昆布。シーチキン。焼き鮭。おかか。焼きたらこ。なるほど、なるほど。
 え、焼肉? それも旨そうですね。
 個人的にはおかかが至高だとは思うのですが、そこまで人気じゃ無いらしいですね。

 実は私には、おにぎりの具というと思い出すものがあるのです。それが「紫蘇《しそ》の実の佃煮」。

 紫蘇というと、多くの人が思い浮かべるのは緑色の葉っぱ、「大葉」だと思うのですけど、実は紫蘇の楽しみ方というのはそれだけでは無いのです。

 流行病に罹患すると味覚が無くなるという話をよく聞きましたが、私も味覚が一時期壊れました。
 流行病に罹患してから一年以上経過したある日、初めて入った回転寿司で、消毒液臭いイカの寿司を食べ、そこから味覚が壊れてしまったんです。とにかく何を食べても味が無い。そして食べていると変な匂いに感じる。何を食べても不味いんです。

 その時、食べられた物は本当に少なく、乾麺の蕎麦やパスタ、カロリーメイトくらい。しかも醤油がダメで、出汁もダメ。どちらも排泄物の匂いがしてしまう。米や肉、野菜は下水の臭いに感じるという状況。
 とはいえ、蕎麦とパスタだけ、それも塩味では持って二日。そこで何とか味変を試みたのですが、その大半は失敗。最終的に何とか食べられたのが、S&Bの梅肉と青じそのチューブ。

 その頃、何がどうなってそうなったのかはわかりませんが、庭に紫蘇が生えていたんです。その葉を毎日採取して、一日ボウルに張った水の中に漬けておき、翌日細切りに刻んで、梅肉を和えて、それを蕎麦かパスタに付ける。
 そんな食生活が二か月くらい続きました。

 不思議な事に飽きないんです。それ以外、何を食べても絶望的な味なのですから、一番安心できる味という事だったのでしょう。ところが、ある日突然、それまで食べていた物が逆に不味く感じるようになったんです。
 それなのに、多くの食べ物が前のように美味しく感じるわけじゃない。ですけど、醤油が不快じゃなくなったんですよ。それとささみ肉が食べれるようになったんです。

 そんな私に家族が作ってくれたのが、庭の紫蘇の実を佃煮にしたものでした。
これまで紫蘇が食べられたのだから、もしかしたら、それでご飯を食べたら、徐々にご飯が食べられるようになるんじゃないかって。
 感謝で涙が出そうでしたね。

 紫蘇は花が咲いた後で、ぺんぺん草のような形で実が付くのですけど、これを放置しておくと実が飛び散り、翌年には周辺が紫蘇だらけになります。ハーブって、ミントとかもそうですけど、基本雑草の類なので、放置するとその強烈なまでの生命力で繁殖しまくるんですよ。恐らく庭に生えていた紫蘇もどこからともなく種が舞い込んで、そこから生えたものだと思うんです。
 なので、紫蘇は放置厳禁。

 大葉の天ぷらって、天ぷらの中でも大好きだったりするのですけど、この紫蘇の実に衣を付けて揚げた天ぷらも美味しかったりします。ですが今回は佃煮の話。
 採取した紫蘇の実は、そのままだと若干エグミがあるので、水に数時間漬けておくと良いです。基本的に茎の部分は食べません。穂先に向けて指で摘まんだまま滑らせて行くと実だけプチプチと外れます。
 後はそれを醤油、みりん、酒、砂糖で煮ていくだけ。

 味は完全に大葉です。ですが大葉と異なりプチプチとした種独特の食感が楽しいんです。これだけでも非常に美味しいのですが、味変として味噌を和えるとそれはそれで最高に美味しかったりします。
 白米の上に乗せてお茶漬けにしても良し、おにぎりの具にするも良しです。

 毎年紫蘇は実を付けるのですけど、それを見る度に私はその時の事を思い出します。あの時、毎食食べた紫蘇の実の佃煮のおにぎりの味と共に。


  今回はまさかの勝手に生えていた植物の話でした。
 次回は何を栽培するのか、次回をお楽しみに。
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