敷知の庭先

敷知遠江守

文字の大きさ
17 / 19

第17話 自分だけの小さな畑

しおりを挟む
 今ではごく一部になってしまいましたが、幼い頃、私の住んでいる辺りはいたる所が玉葱畑でした。私も親戚の手伝いに駆り出され、玉葱を扱いだのを覚えています。
 不思議なもので、幼い頃は虫なんかに刺されても全然気にならなかったんです。後から手や足がかぶれて、周囲がそれに気付いて大騒ぎという感じでした。

 いつの頃からか、親戚は畑を辞めて、土地を売ってしまいました。後から知ったのですけど、北海道で大々的に玉葱栽培を始めた関係で、玉葱が安く買い叩かれる事になったのだそうです。
 確か、落花生の栽培もやっているとも聞いていたのですけど、それも辞めてしまったようなんです。そちらは中国から格安の落花生が輸入されてきたからだと聞きました。

 最近では地産地消なんて言葉を耳にするようになりましたけど、当時は地元の収穫物は地元以外で売るのが当たり前だったそうです。農家の方からすれば、売った時の値段を知っているわけです。ですから、なんであの値段で買った物が、この値段で売る事になるんだとなりますから、小売りからしたら当然の判断なのかもしれません。

 大人になるにつれ、畑仕事をしている風景というのがみすぼらしいと感じるようになっていました。その頃、世の中の景気が非常に良化していた頃でしたから、土に汚れて働く姿を貧しさの象徴のように感じていたんだと思います。

 自分で働くようになると、働くという事は服を汚す事なんだという事に気付くようになりました。自分が食事を取れるのは、多くの人が服を汚して働いてくれたからなんだという事を、遅ればせながら実感する事になりました。

 美味しんぼという漫画が好きで読んでいたのですけど、その中に非常に印象深い話があったんです。菜食主義だから肉は食べないという若い女性に、野菜だって生きているんだという事を教えて、生あるものを食すという点では、野菜も肉も同じなんだと諭すというお話です。
 「人は何かの命を奪わないと生きてはいけない業の深い生き物」「だからその生をいただきますと感謝して食べよう」とお坊さんが説くんです。

 至極もっとも。美味しんぼの話は、狂った話も多いし、軸が左に偏り過ぎていて、読むに堪えないものも多いのですけど、この話だけは本当に良い話だと今でも思っています。
 いつか自分でも何か野菜を育ててみたい。ぼんやりとそんな事を思っていました。

 大人たちにとってはお仕事でも、幼い私には遊び場という印象だったのでしょう。あの時の玉葱のツンとする匂いと、雨が降り出した時のような土の香りは、大人になっても比較的良い思い出、良い匂いとして心に刻まれていました。

 食べ終わったジャムの瓶や、鮭フレークの瓶。食材が入っていたスーパーのパック。そして、家の前のほんの少しのスペースに並ぶ鉢とプランター。本当に小さな小さな存在だけど、私にとっては念願の自分だけの畑なんです。

 CMでも言ってました。一日楽しむなら本を読みなさい。一年楽しむなら種を植えなさいって。(静岡県のローカルCMらしいです(汗))
 来月からは、徐々に気温が上がっていきます。今年は何を栽培しようかな。


 今回はちょっとノスタルジックなお話になってしまいました。でも最終話じゃないですよ(笑)
 次回は何を栽培するのか、次回をお楽しみに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...