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EP08 対話
しおりを挟むOIDOの地下施設の廊下を、私と星原先輩とアルスさんは進んでいく。すると前の方から見知った顔の二人が歩いてきた。それは蕨野花さんとレオ君。
「あら星原先輩とアルニギアスさんではありませんか、ご機嫌麗しゅう。この度私と隣のレオは正式に魔法少女と勇者ロイドとして戦線に加わることになりましたの。今後ともよろしくお願いします」
蕨野さんはそう言って先輩に手を差し出す。
そうか、そうなったか。思うところがなくはないが、星原先輩とアルスさん、それに人類にとっていいことだろう。少なくとも私みたいなのがぶっつけで戦場に出ることはなくなる。
「そう、よろしく」
「よろしくな!頼りにしてるぜ!」
先輩は蕨野さんの手を握って答えた。アルスさんは元気よくサムズアップをする。アルスさんはともかく、先日見舞いに来てくれた時より態度が冷たいように感じるのは、私の願望ゆえだろうか……?
「あの……アルスさん?兄貴って呼んでもいいですか?」
目を輝かせながらレオ君はそう言った。勇者にとってもこの二人は憧れの対象ということなのか。
「おお、いいぜ!どんどん呼んでくれ!」
勇者二人はすぐに打ち解けたようだ。勇者の無邪気さゆえと言ったところか。
「そして、愚かな独断専行を行った罪人さん」
花さんの視線がやっとこっちを向く。
ある意味私がこんなことになったのはこの人たちのせいだ。でも、そのおかげで彼に会えた。だからだろうか、怒りも何も湧いてこない。
「レオと契約できなかったからどこの馬の骨とも分からない男と契約したらしいではありませんか、溺れる者は藁をもつかむ、と言いますか。そのようなあがきで鋼魔を抑えられたとは驚きです」
流石にその言葉を聞いて胸に焼けつくような怒りが湧く。彼は……。
「あそこにいたのは私でもあなたでもなかった。そして、この子はあの場の全員を守り切った。私はそれをとても尊敬するし、魔法少女はが気にすべきことはそれだけだとも思う」
私がどれだけ落ちこぼれでも守れればいい。そう先輩は評価してくれている。それが私にはとても嬉しかった。
「ついに目上の者に媚びることを覚えましたか碧乃さん。まぁ、いいでしょうどのみちあなたが戦場に立つことはないでしょうから、足を引っ張られる心配はありませんからね」
彼女の視線と言葉が、私の胸に刺さる。そうだ、彼を失えば私はもう魔法少女でも何でもなく、彼が乗り気にならないなら私は戦いをあきらめるしかない。多くの場合、そうなるだろう。
仮に彼が私と共に戦うことを了承したとしても、それは右も左も分からない少年兵を戦場に送るような残酷な行為ではないか。
「それではごめんあそばせ」
二人は先輩たちに頭を下げ、その場を去る。私たちは何も言わず、目的地に向かった。
「ここで変身しないといけない。少し離れて」
彼が入れられている部屋の手前のセキュリティルームで静かに星原先輩が言った。臨戦態勢の二人が監視につくということか、気が抜けないな。
あれ?ということは二人の生着替えならぬ生変身が間近で見れる!?
「よおしっ、いっちょいくか!サーキット展開!トランスフィールド起動!」
鈴原先輩の前に立った。アルスさんの号令で、彼の背中が開き、黄色い魔力のエネルギーが二人の周囲で渦を巻く。
「ブローミング・ドライブ!」
変身の掛け声で渦の勢いが強まる。近くにいたらバラバラになりそうな威力がある。資料映像で何度か見たことはあるが間近で見ると迫力が違う。
「天望愛齎、シンセリー・テルス!」
「天巌勇者、アルニギアス!」
やがて、エネルギーが張れた時、二人は軽くポーズを決め、名乗りを上げる。先輩はもともとの美少女っぷりがさらに増して眩しいし、アルニギアスもゴツイフォルムと炎のような赤い装甲が死ぬほどカッコいい。
助けられる市民の立場ならスマホで写真を撮りまくるだろう。
「非戦闘時に名乗りを上げるのは……さすがに恥ずかしいわね」
「そういうもんか?別に仕事の内だろ……?」
頬を赤らめるシンセリ―とキョトンとしているアルニギアス。何というか眼福です……。真面目な場面なので、にやけてしまわないように必死に表情筋を引き締める。平時とは言うが、この場合は私とノクスが敵役なのではないのだろうか?敵扱いされなくて嬉しいような、貴重な機会を逃して悔しいような複雑な気分だった。
「じゃ、俺は向こう側配置だから、先に行くぜ」
そう言ったアルニギアスは正面のでかいゲートの脇にあるドアの向こう側に進んだ。どういうことだろう?
「面会時間は10分、情報共有禁止の話になったら、止めに入るから。それじゃあ、行くわ」
アルギニアスが先に行ってからしばらくして、センシリーが面会のルール教えてくれるその禁止することとは?と私が訊き返すと、解体分析の話だという。私は、それはそうかと納得しつつも、それを言えないなら何を言うべきか分からなくなってくる。
その後、大きな機械音を響かせて、正面のゲートが開く。その向こうには刑事ドラマとかでよく見るガラスで仕切られた面接室があった。
「ノクス!」
「ヒトミ!」
ガラスの向こうで囚人のような服を着せられ椅子に座っているノクスが見えて、私は彼の方へ駆け寄る。その後ろにはアルギニアスが控えていた。なるほど勇者は勇者を、魔法少女は魔法少女を見張る、というわけか。
「身体大丈夫?ご飯とか食べさせてもらってる?」
「ヒトミの方こそ無事か?」
なんだか、お母さんみたいなことを聞いてしまう。しかしそのおかげで、お互い最低限の環境は保証されていることが分かった。身体も清潔に保たれているようで先日よりもずっと男前だ。
「ごめんなさい。私が戦いに巻き込んだせいで、あなたに不自由な思いをさせてしまってる」
「気にするなよ。ああしなきゃ、お互い死んでたんだろ?全部じゃないが俺をつかまえたやつらから聞いた……そうでなくても、ヒトミが俺のために動いてくれてたってことは、心がつながった時にちゃんと伝わってる」
その言葉で、私は心の中の重しが一つ無くなったような気分になる。しかし、それを受け入れていいものか、彼の優しさゆえのウソなのかは判断がつかない
「ありがとう、あなたが私を助けてくれたこと。本当に心強くて、嬉しくて、力になった」
謝罪はとりあえず済んだ。それがまっとうなものはともかく、まだまだ話しておくべきことは多く、時間も限られている。その中でも感謝は絶対に伝えるべきことだ。そのために私は心のモヤモヤを無視して話題を進める。
「それもお互い様だぜ。俺もお前が立ち向かってたから、俺もやらなきゃって気になったんだ」
「うん、うん……」
そのころにはもう私は泣きながら話していた。彼からかけられる言葉の温かさとそれゆえの申し訳なさで胸がいっぱいになったから。
「泣くなよ。お前は何も悪くないし、むしろ感謝してるんだ。むしろ俺の方が、厄介な存在だったせいで、ヒトミも面倒なことになってるんだろ?」
話は、ノクス自身のことに入る。
「俺は人間じゃなくて……ゴーレムって大昔の存在なのかもしれないんだろ?」
「でも、ノクスには人間と同じ心を持ってるって私は思う」
心を繋げた私だから、それだけははっきりと言えた。
「記憶のない俺には人間かどうかも、そんなに重要なことじゃないんだ」
彼の返答は意外なものだった。
「俺は、俺が何なのかさっぱり分からない」
彼は一瞬俯いて、隠しきれない困惑の表情を見せる。
「でも、ヒトミとあの姿になって一緒に戦ってる時、これが俺のあるべき形だって思ったんだ。だからあの時戦ったことは絶対に間違ってない。少なくとも俺にとっては……」
そんなことをこの人は考えていたのか。彼の考えに一つのアイデアが頭に浮かぶが、私にはそれが言っても良いものか判断がつかない。そんな私の背中を押すように彼は言葉を続ける。
「むしろ戦うことで、俺が何者なのか見つかるのかもしれない」
そう、彼が思っているなら、それを望んでいるのなら、私は……ともに探し求めたい。彼の求めるものを。
「ねえ、ノクス提案があるの」
私は彼に、この後も私の勇者として戦わないか?と聞いてみる。
「……やる」
諸々のリスクを説明する前に、彼は即答した。
「…………!?」
「それが俺のためにも、ヒトミのためにも、この前みたいに襲われる人のためにもなるんだろ」
黙り込んでしまう私にノクスは畳みかける。勇者という使命への理解度、魂に刻まれているというべきか。彼が乗り気なら、そうすべきなのだろう。審議会という関門はあれど、彼が生きる道はそれしかない。そして、彼のとりあえずの立ち位置も確保することにつながる。解体のリスクを伝えられないことは心苦しいが、暗号を通して伝えられるような頭の良さは私にはない。彼のために私が彼の運命を背負うしかない。そう覚悟を決めた私は彼に行った。
「ノクス、私も一緒に戦って探すよ。あなたの正体を」
それが今私が彼に言える精一杯だった。解消しようもない後ろめたさが私の心にのしかかる。そんな私の内心を見透かしていたのか彼は最後にこんなことを言った。
「俺の運命、お前に預けるぜ。ヒトミ」
それはあの時の私の言葉だった。
「うん、あなたとならたくさんな人を助けられるって組織の人を説得する。だからもう少し待ってて」
その言葉にうなずく彼を見届けて、面会は終わった。
私は、ノクスの未来を開くためにも審議会で何としても彼の価値を示さなくては、
私は施設の出口へ向かう道中でそんな決意をした。それがかなわない場合どんな身の振り方をするかさえも……。
「寮まで送るよ」
施設から出た時、元の姿に戻った星原先輩とアルスさんはそんな提案をしてきた。正直ぐちゃぐちゃな感情を整理するために早くひとりになりたかったが、自分が謹慎中の身であったことを思い出し、お願いした。
「彼の正体は分からずじまいだけど、私もあの人は勇者になれると思う。私も審議会に出るし、あなたのサポートをしようと思う」
「そうだな。仲間は多い方がいいに決まってるし」
その帰路で先輩たちがかけてくれた言葉は願ってもないことだった。
「ホントですか!?どうかお願いします!ノクスは必ず、たくさんの人を救えます。
私も、それにふさわしい魔法少女になります!だから、だから……」
私は二人の手を握って、話すうちに縋るように泣き出してしまった。
「うん、一緒に頑張ろうね……」
先輩は泣いている私の背を撫でて、泣き止むまで落ち着かせてくれた。
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