波のように生きてきた私へ ―仮死状態で生まれた命の記録―

cocohera

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第5章 姉と兄――やさしさの継承者たち ①

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小節1:姉のまなざし――静かなやさしさ

姉のまなざしは、いつも静かだった。  
大きな声で何かを言うことは少なくて、  
でも、私が困っているときには、すぐに気づいてくれた。  
その気づき方が、母に似ていた。  
いや、もしかすると、母よりも近くにいてくれたぶん、  
もっと繊細だったのかもしれない。

私は、姉に髪を結ってもらうのが好きだった。  
手ぐしで髪を整えて、ゴムでくるりと結ぶ。  
その手つきは、やさしくて、どこか儀式のようだった。  
髪を結ばれている間、私は安心して目を閉じていた。  
その時間が、私にとって「守られている感覚」だった。

姉は、よく絵本を読んでくれた。  
声に抑揚は少なかったけれど、  
その淡々とした語り口が、物語の世界を深くしてくれた。  
私は、姉の声を通して、たくさんの物語を旅した。  
その旅の中で、私は「想像する力」を育ててもらっていた。

ときどき、姉は私の話をじっと聞いてくれた。  
くだらないことでも、最後まで耳を傾けてくれた。  
「ふうん」「そうなんだね」と、短く返すその言葉に、  
私は「受け止めてもらえた」という安心を感じていた。

姉のやさしさは、目立たなかった。  
でも、その静けさが、私の心に深く染み込んでいた。  
何かをしてくれるというより、  
「そばにいてくれる」ことが、何よりのやさしさだった。

今思えば、姉は「母のやさしさの継承者」だった。  
母が忙しいとき、姉がそっとその役目を引き受けていた。  
でも、それは義務ではなく、自然な流れのようだった。  
その自然さが、私の心をあたためてくれた。

姉のまなざしは、今も私の中に残っている。  
誰かを見つめるとき、私は姉の目線を思い出す。  
やさしさとは、声の大きさではなく、  
「気づいて、そっと寄り添うこと」なのだと、  
姉が教えてくれた。
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