毎朝俺の悲鳴から始まる!世話焼き幼馴染の溺愛治療

えなが つぐみ

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5-3 占いの館ダングリング・ポンチオ

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俺たちはショッピングモールの裏通りを歩いていた。
ここには昔からの居酒屋通りがあって、昼間の時間帯は閑散としている。

優成はズンズンと奥に進んでいき、ビルとビルの間にできた暗がりの路地へ入っていった。
俺は優成の後を追って暗がりを曲がると、そこにはビルの裏口のような小さな扉があった。

扉の前でスマホを確認している優成に俺は恐る恐る声をかけた。
「な、なぁ……目的地ってここなん??」

「たぶん、そう」

たぶん?
優成も初めてくる場所ってことか?
俺は少し怖くなって優成のTシャツの裾を掴んだ。

そして優成はスマホを閉じてドアを開け、中に入っていった。
俺も優成のTシャツの裾を皺くちゃになるほど掴んで、一緒に入っていく。


中に入ると、やけに甘ったるい匂いが鼻を突いた。
空気も霞んで、照明の光が乱反射しているほどだ。
天井にはランプが吊り下げられ、壁には山のようにガラスの置物が、床には高級そうなカーペットが敷いてあった。
一言で言えば、異様な空間だった。

「優成……ここ、どこなの?」
俺はTシャツから優成の腕へと掴む場所を変えていた。
怖さを紛らわすために、少しでも優成とくっついていたかった。

優成は俺の問いかけに声を潜めて答えた。
「ここは占いの館、ダングリング・ポンチオだ」

「占いの館、ダングリング……ポンチオ?」

「俺はここにいるはずの、レイチェルっていう占い師に会いに来た」

優成の顔は至って真面目だけど、俺の耳にはお笑い芸人のネタにしか聞こえなかった。

「ダングリング・ポンチオ……。絶対ヤバいとこじゃん……」
たぶん、風俗店か何かだぞ……?

でも何故か声に出して言いたくなる。
「ダングリング・ポンチオ……ダングリング・ポンチオ……」


「シーッ、静かにしろ」
優成が口の前で人差し指を立てる。

その時、奥のカーテンがガバッと開いた。

「ようこそ……ダングリング・ポンチオへ……」
現れたのは、派手な衣装にターバンを巻いた、妙齢の女……男……あ、いや女が出てきた。

「さぁ、ここに座って」
ターバン女の言葉に俺たちは素直に従い、目の前の椅子に座った。

「はじめまして、私の名前はトモロウ」

「男?!」
まさかの“トモロウ”という名前に俺は反射的に声を上げてしまった。

「男……という括りで考えてもらいたくはないの。もっと垣根を超えた存在よ」

「俺と同じじゃないっすか」
きっと俺の状況とは違うだろうけど、トモロウに親近感を覚えた。

「優成さん、というのはどちらかしら?」
トモロウが目を細めて俺たちを見比べる。

「俺です」
優成がまっすぐトモロウを見つめて返す。

「ふふ、わかっていたわ」

──それなら、聞くなよ

「それなら聞くなよ、なんて思わないでね」
トモロウの言葉に俺は目を丸くした。

「え、わかるんですか?」

「わかるわよ」
ふふ、と怪しげに笑うトモロウが、異質なものに感じた。

──トモロウ、本物かもしれない。
俺はゴクリと唾を飲み込んだ。


「さて、優成さん。悩みを聞かせて」

「悩み……というか、人を探してます」

「名前を聞いても?」

「はい。その人の名前はレイチェル、この館で占い師をしていたと知って来ました」

「…………レイチェル、ねぇ」

トモロウは、一度思考するように目を瞑り、息を吐いた。
そして、ゆっくりと優成に視線を向ける。

「今はいないの」

「いない?どこに行ったんですか?」

「……刑務所よ」

え?

「詐欺罪で捕まったの」

何それ、突然めっちゃリアルじゃん。
俺は口をあんぐりと開けて優成を振り返った。

「もしかして、あのサイトですか?」

「たぶんね。でも詳しいことは何も……」
トモロウは、そう言ってキセルをふかした。

「もし、レイチェルがここに来たら連絡をもらうことはできますか?」

「約束はできないけど、あなたの気持ちはわかったわ」
トモロウはそう言ったきり、何も言わなくなった。

キセルの先から立ち上る白い筋が、螺旋を描いて部屋に散っていく。
俺はトモロウの口から溢れる煙をただ黙って見ていた。

「ごめんなさいね、力になれなくて。代わりと言ってはなんだけど、あなたを占ってあげるわ」
トモロウはそう言って長い爪で俺を指差した。

「え、俺?」

「あなたよ。さぁ、あなたの手相を見せてちょうだい」

俺は言われるまま両手のひらをトモロウに見せた。
トモロウの指が俺の手相をなぞっていく。
占いはあまり信じない方だけど、なんだか胸がドキドキした。

「あなた……性欲がすごいわね」

「えへ、そうなんです。出ちゃってますか?」
俺はポッと頬を赤くした。

「喜ぶな、アホ」
隣から優成の冷静なツッコミが飛ぶ。

「それから、今日買ったものは、決意したときに使いなさい」

「……へ?」

今日買ったものって、パンツだよな。
俺は決意してパンツ穿かなきゃいけないのか?
決意ってなんの?
爆発でもすんのか?
……怖いこと言われたな。

俺がパンツ爆発を想像していると、トモロウは席を立って優成の近くに行っていた。
そして、何かを耳打ちすると、優成の顔色が一気に青白くなっていった。

──なんだ?優成の様子がおかしい。

「さぁ、そろそろ時間だわ。また何か困ったら来てちょうだいね」

そのままトモロウは奥のカーテンの中に消えていった。
残された俺たちは、トモロウの言葉を聞いて素直に占いの館を後にした。


占いの館、ダングリング・ポンチオから外に出ると、あたりはすっかり夕焼けに包まれていた。
トモロウの怪しい占い結果を聞いた俺たちは、お互いに何も言わずに駅に向かう。
聞きたいことは山ほどあるはずなのに、顔色が悪い優成を見たら何も言えなくなっていた。


ついにアパートの最寄り駅まで来てしまった。
結局、俺は何もわからずにここまで帰ってきていた。
どうしよう、優成に真実を聞いてもいいのかな……
俺は優成の顔色をうかがいながら、口を開いたり閉じたりを繰り返した。


「今日は付き合ってくれて、ありがとな」
ついに優成が声をかけてきた。
当たり障りのない感謝の言葉だった。

「いや……俺もパンツ買えたし、ありがと」
俺も当たり障りのない返事をした。

「……世利には、ちゃんと話すから」
優成は意味深なことを伝えながら、俺の手を握る。
その冷たい手は、少し震えてるように感じた。

「とりあえず、家に帰ろう」
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